企業がファーストパーティデータを収集するための新たな方法を模索するなか、リワードプログラムやロイヤルティプログラムの人気が高まり続けている。 その理由はいくつかある。IDFA(Identifier For Advertising)や、サードパーティCookie規制などがその理由に該当するだろう。
企業がファーストパーティデータを収集するための新たな方法を模索するなか、リワードプログラムやロイヤルティプログラムの人気が高まり続けている。
その理由はいくつかある。IDFA(Identifier For Advertising)や、サードパーティCookie規制などがその理由に該当するだろう。企業が消費者の情報にアクセする方法は、昨今大きく変化しつつあるのだ。それに伴い、新たなアプローチとして、ロイヤルティプログラムを検討する企業が増えている。
また一部の企業は、ロイヤルティプログラムを将来の製品開発に役立つ重要な手段と捉えている。ロイヤルティプログラムはもはや、リピート購入を促すためだけのものではなく、顧客の行動や関心をより深く理解するための施策と見なされている。
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収集するデータはさまざま
企業が収集する顧客データの種類は、ビジネスモデルによって異なる。
独立系ピッツェリア(ピザ専門店のこと)向けのオンライン注文プラットフォームであるスライス(Slice)は、2021年3月、全米規模のリワードプログラムを立ち上げた。これは、同プラットフォームを利用する小さなピッツェリアが、彼ら単独では収集が難しい顧客の嗜好に関するインサイトを、取得できるようにするのが目的だという。
また、衣料品ブランドのフランシス・バレンタイン(Frances Valentine:以下、FVIP)は2019年末、Webサイトのレビュー機能の追加などと合わせて、FVIPロイヤルティプログラム(FVIP Loyalty Program)をスタートしている。同社のeコマース担当 バイスプレジデントのベッツィー・シール氏は、リピート購入の注文金額が、初回購入よりも67%多いことに気付き、ロイヤルティプログラムをはじめることにしたと説明する。
FVIPのリワードプログラムは、シルバー、ゴールド、プラチナの3段階に分かれており、段階が上がるほど、顧客はより多くのストアクレジットを獲得できる。なお、入会時には100ポイントが付与され、1ドル(約110円)使うごとに1ポイントが付与されるという。また、レビューを書いたり、インスタグラムでブランドをフォローしたり、Facebookページをフォロー、共有したりすると25ポイントが付与される。さらに、誕生日やメールアドレスといった情報と引き換えに、セール商品や新商品を優先的に購入することもできる。
エンゲージメントの向上に寄与
プログラムの開始から1年余り経った現在、FVIPのリワードプログラムに入会した顧客は、そうでない顧客に比べて注文回数が2倍に達しており、注文金額の平均も55%高いという。
「我々のリワードプログラムは、ファーストパーティデータ活用を推進し、Google、Facebookなどのサードパーディデータへの依存を減らす取り組みにおいて、大きな役割を担っている」と、シール氏は説明する。また、プログラムを通じて収集した情報を活用することで、eメール、SMSをはじめとするマーケティングチャネルで、顧客とのコミュニケーションをより的確にパーソナライズ、セグメント化できるようになったという。
スライスの最高製品責任者を務めるプリーシー・バイディアナサン氏によれば、スライスは1万5000のピッツェリアと提携している。これは、同社のスライス・リワーズ(Slice Rewards)が、ドミノ(Domino)を上回る米国最大のピザのリワードプログラムになる可能性を示唆している。ドミノのリワードプログラムであるピース・オブ・ザ・パイ(Piece of the Pie)は現在、米国内の6126店舗を対象としている。
なお、スライスのプログラムの特典は、15ドル以上の注文8回で、Lサイズのチーズピザが無料になるというわかりやすいものだ。より多くのピッツェリアがプログラムに参加できるよう、無料ピザのコストはスライスが負担することになっていると、バイティアナサン氏は説明する。
リワードプログラムは、小さなピッツェリアにとって、スライス経由でリピート購入している顧客を、より深く理解する手段だ。プログラムに参加することで、ピッツェリアはリピート顧客の好みや注文頻度を知ることができ、いずれ日々の仕込みに役立てることも可能になるだろうと、スライスは考えている。ちなみにこのロイヤルティプログラムは、スライスが2021年1月に発表したピッツェリア・スコア(Pizzeria Score)に続くものだ。これは、ピッツェリアのオーナーに、人気商品やピークの時間帯はいつかなど、特定のインサイトを提供する機能だという。
多くの独立系ピッツェリアは、独自のリワードプログラムを立ち上げる能力も予算もない。「スライス・リワーズに参加すれば、Appleの規約に見られるようなデジタルアップデートに対応しながら、顧客維持率を高く保つことができる」とバイディアナサン氏は話す。
プライバシーには注意が必要
ただ、ロイヤルティプログラムやリワードプログラムを開発する際には、注意しなければならないポイントがある。それは、顧客のプライバシーだ。特にヘルス、ウェルネス分野ではその傾向が顕著で、パーソナライズされたサービスを提供するこうしたブランドたちは、プライバシーに配慮しながらサービス開発を推進している。プロバイオティクスのサプリメントを製造するシード(Seed)は、臨床研究に基づいて開発された商品を売りにしており、現在、リワードプログラムの準備を進めている。
共同創業者のアラ・カッツ氏は「細心の注意を払い、リワードプログラムを開発している」と話す。
シードのリワードプログラムは、2021年5月の開始を予定している。顧客は同プログラムに参加することで、ブログを読んだり、クイズに答えたり、商品やパッケージの感想をほかの顧客と共有できるほか、科学的根拠のある教育コースの受講、加えて専門家への相談といった特典を手にすることができる。「顧客からデータポイントを収集するこれらの取り組みは、彼らにサービス向上に協力してもらうための手段だ」とカッツ氏は話す。シードは創業以来、顧客の要望やフィードバックを新商品の開発に反映させてきた。
なお、シードはサブスクリプションサービスを提供しているが、リワードプログラムはサブスクリプション会員でない人も対象内となる。同社の商品や科学的なアプローチについて詳しく知ってもらい、サブスクリプション会員になってもらうことが狙いだという。
またシードは、ファーストパーティデータ収集の一環として、AIとクラウドソースの写真を収集し、顧客の腸内環境を評価するサービスも実施している。過去には「微生物健康データベース」を構築するため、数千人に便の写真を共有してもらうキャンペーンを展開している。カッツ氏はこれまでの経験から、研究開発の文脈で質問を投げ掛けると、顧客から回答を得られる可能性が高まると話している。
顧客との互恵関係が大切
プライスライン(Priceline)、ベスト・バイ(Best Buy)といった企業にロイヤルティプログラムのソリューションを提供するエンゲージ(Engage)のCTO、レン・コベロ氏によれば、このところ、特典と引き換えにデータを収集しようとするブランドや小売企業が、増加傾向にあるという。特にポイント制の特典などは、リピート購入につながるだけでなく、顧客の問題を詳細に追跡し、素早く解決する助けにもなるからだとコベロ氏は説明する。
ほとんどのケースでは、ブランドが収集するデータは名前、メールアドレス、住所、郵便番号といったシンプルな情報で構成されている。「これらの情報を上手く活用すれば、ロイヤルティプログラムを細かくパーソナライズされたものにすることができる」とコベロ氏。具体的には、タイムリーなプッシュ通知や買い物かごのカスタマイズ、将来の製品開発にこの情報を活用できるという。
前出のFVIPは、同社のプログラムは、顧客との互恵関係に基づいていると捉えている。「我々の顧客はリワードコミュニティを通じて、自身の意見や好みを共有したがっている」とシール氏は話す。「我々の顧客をより深く理解する素晴らしい手段になっている」。
[原文:How brands are designing loyalty programs with data in mind]
GABRIELA BARKHO(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)
Image via Slice