2020年9月のファッションマンスは、まさに実験であった。デザイナーや組織は、ショーをオンライン上で行うという、あまり経験のないことに挑戦しようとした。だが、2021年の2~3月に開催されたショーでは、オンラインでのショー運営はより明確になり、ライブ配信と顧客対応コンテンツが重要視されるようになった。
2020年9月のファッションマンスは、まさに実験であった。ニューヨーク、パリ、ロンドン、ミラノでファッションウィークを開催するデザイナーや組織は、ショーをオンライン上で行うという、あまり経験のないことに挑戦しようとした。だが2~3月に開催された2021年秋冬シーズンのショーでは、オンラインでのファッションショー運営はより明確になり、ライブ配信と顧客対応コンテンツが重要視されるようになった。
昨年のファッションウィークに関するデータは、ブランドが通常レベルのエンゲージメントを顧客と構築するのに苦戦したことを示唆している。トライブダイナミックス(Tribe Dynamics)によると、オンラインでショーを開催した2020年9月にソーシャルメディアプラットフォームで獲得できたエンゲージメントは、同年2月に実会場で行われたショーの時と比べると3分の1以下だったという。また、ローンチメトリックス(Launchmetrics)によると、9月のロンドン・ファッション・ウィーク(London Fashion Week)でも、ソーシャルメディアのエンゲージメントは前シーズンより55%減であった。インフルエンサーの減少や、オンラインイベントはプレスやバイヤーに対応すべきか消費者向けに開かれたものにすべきかという混乱がエンゲージメントの低下につながったと「ザ・ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」は報じている。
TikTokファッションマンス
このようなオフィシャルイベントでのエンゲージメント低下は、デジタルファッションイベントを開催しようとしているほかのプレイヤーに門戸を開いた。TikTokは昨年9月にファッションマンスを開催し、今年も2月17日~3月18日まで実施した。このイベントにはIMGと英国ファッション協議会(British Fashion Council)のスポンサーシップのほか、バルマン(Balmain)やヴィクター・グレモード(Victor Glemaud)のランウェイショーのライブ配信も行われた。TikTokの9月のイベントにはルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)、プラダ(Prada)、サンローラン(Saint Laurent)などの高級ブランドも名を連ねていたが、今回は参加していない。
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TikTokでファッション&ビューティのパートナーシップを率い、2回のオンラインイベントを指揮したシシ・ヴ氏は、ライブ配信コンテンツがもっともエンゲージメントが高いことを、9月のイベントで実感したという。このとき実施された13回のライブ配信は、再生回数が合計300万回を超えた。ファッションマンスの最終日に配信されたプーマ(Puma)やアリス アンド オリビア(alice + olivia)などのカプセルコレクションのライブコマースは、80万人以上が視聴した。2月のイベントではライブ配信の数を増やし、プラットフォームのQ&A機能を活用してインタラクティブ性を向上させている。
「TikTokファッションマンス(TikTok Fashion Month)を立ち上げた頃、ブランドは従来型の実会場で行われるファッションショーから素早く方向転換し、バーチャルでエンゲージメントを構築しなくてはならなかった。ラグジュアリーブランドとランウェイショーを、我々のコミュニティーに引き込むことが目標だった」とヴ氏。「ラグジュアリーファッションのブランドがライブプログラムを通じて、アクセスが容易ながらも忘れられない体験を創出できるということを、このような機会に示したかった」。
TikTokファッションマンスのようなイベントは、デジタルの新しい形式を試すことに保守的になりがちなラグジュアリーブランドに、粗削りで冒険的なことに挑戦する後押しとなり、「自分たちのイメージを守ろうというガードがゆるくなる」とヴ氏。ありのままのオーセンティックなコンテンツは、TikTokのような新しいデジタルプラットフォームで高いパフォーマンスを発揮する傾向があるという。
「今後も人気であり続ける」
「デジタルファッションイベントは、今後も間違いなく人気であり続けるだろう」と語るのは、ファッション工科大学(Fashion Institute of Technology)の学生で、TikTokインフルエンサーでもあるジョー・アンドウ=ハーシュ氏だ。同氏はTikTokファッションマンスのフィナーレショーにも参加する人物だ。「個人が自分自身を表現できる、大きなプラットフォームが作られた。私はアーティストとして、露出を増やす新しい方法を創出し、探し出すために多くの時間を費やしている。自分たちの努力は、志を同じくするクリエイターによって見られる可能性がはるかに高く、露出を獲得できる。誰もがコラボレーションして力を尽くすことができる、純粋なファッションのコミュニティが開発されたといえる」。
デジタルでのプレゼンテーションやライブ配信の経験がブランド側に不足していることは、ファッションイベントが直面している課題だ。このためCFDA(Council of Fashion Designers of America:米国ファッションデザイナーズ協議会)では、今期のデジタルショーへの移行をスムーズに進めるため、効果的なデジタルショーの作り方といったウェビナーを実施し、デジタルショーを担当するデザイナーに実践的な支援を講じている。
2月上旬にNYFW(New York Fashion Week)のデジタルイベントを開催したローリング(Loring)のデザイナー、ロン・シュ氏によると、デジタルルックブックや動画など展示物の制作にあたり、どのような種類のコンテンツがもっとも効果的か、CFDAは個別のガイダンスやアドバイスを提供してくれたという。このアドバイスをもとに、たとえば、各商品の詳細に焦点を当てたバイヤー向けのルックブックと、雰囲気を伝える一般消費者向けの動画とを分けたという。
「非常に役立つ情報が盛りだくさんな、デザイナー向けのウェビナーが数多く用意されていた」とシュ氏。「あらゆるデザイナーは、独自の方法でアイデアを形にしたいと思うもの。でも、デジタルというフォーマットは我々には目新しいため、指導を仰げたことは良かった」。
イベント運営の未来を形作る
9月のNYFWには80以上のブランドが参加し、これらのデジタルショーの視聴回数は26万4000ビューを超える。2月には、75以上のブランドがショーを開催した。
実会場でのショー開催が再び安全になったとしても、デジタルショーケースはパンデミック前とは比較にならないほど広く普及すると考えられる。デザイナーやファッションショー主催者が、早い段階で試行錯誤を重ねて得た知見は、イベント運営の未来を形作るのに役立つだろうとヴ氏は語る。
「TikTokは、オーディエンスとリアルなコネクションを築く重要性をラグジュアリーファッションブランドに示すうえで、重要な役割を果たした」とヴ氏は述べ、高いレベルのエンゲージメントや視聴回数をブランドが獲得できた点を強調する。「パンデミック後にもフィジカル(身体的)につながる時間が不可欠であることは明らかだが、デジタルランウェイのコンテンツも、よりエンターテインメント性が高く、視聴者とのエンゲージメントを構築するものへと生まれ変わると考えている」。
[原文:‘Multiple webinars’: How organizers helped traditional designers prepare for digital fashion month]
DANNY PARISI(翻訳:田崎亮子/編集:長田真)
ILLUSTRATION FROM SHUTTERSTOCK