創業者であるナタリー・ホロウェイ氏とマックス・キスレビッツ氏が、バラを最初にローンチしたのは2018年。そののち2020年、バラは『ヴォーグ(Vogue)』誌に掲載されるまで成長。バングルを中心としたフィットネスアクセサリーブランド、何が大ヒットに起因したのか?
パンデミックの初期には、隔離された場所で生き延びるための努力の象徴として、いくつかの指定されたアイテムが必需品となった。ある人にとってそれはサワードウスターター(発酵種)だったし、またある人にはそれはバラ(Bala)のバングルだった。バラはインスタグラムの時代に再発明されたマジックテープつきの手首や足首のウエイトだ。
バラの創業者であるナタリー・ホロウェイ氏とマックス・キスレビッツ氏(ふたりは夫妻で新米の親でもある)にとって、当初この製品はヨガ教室や旅行に持っていくためのものだった。ふたりは『ヴォーグ(Vogue)』誌の「2020年を表す17のアイテム(The 17 Items That Defined 2020)」に掲載されるような製品を作るつもりはなかったのだ。
バラ誕生のきっかけ
バラが最初にローンチされたのは2018年3月。ホロウェイ氏とキスレビッツ氏が休暇中にヨガ教室に行ったとき、アンクルウエイトのようなフィットネス器具がいかに時代遅れになっているかという会話が誕生のきっかけだった。「かっこわるいから誰も使わない 」とホロウェイ氏は言った。
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そこでキスレビッツ氏は「ブレスレット」のアイデアを思いつき、ナプキンにスケッチを始めた。素材もこれまでとは違うポイントだ。フィットネス製品にはほとんど使われていなかったシリコンで、リサイクルステンレススチールをコーティングしたのだ。シリコンは感触がやわらかく、夫妻はこれもセールスポイントになると判断した。
「実際に試作するまで1年かかった。だからこそ、いま偽物が出回っているのは頭に来る」とホロウェイ氏は言う(バラのバングルをAmazonで検索すると、たくさんの偽物が出てくる)。夫妻はともに広告業界の出身だ。「大きなブランドの仕事をしていたので、ブランディングや広告についてはよく知っていたが、サプライチェーンやプロダクトの製造、ウェブサイトの構築については何も知らなかった」と、ホロウェイ氏は述べている。初めのころは、ホロウェイ氏はフィットネスのクラスに自分の製品を身につけて行き、会話のきっかけにしようとしたという。
地道なアプローチで認知度をアップ
もちろんブランドを構築する際には、どのようにマーケティングを行うかを理解することが勝負の分かれ目となるが、バラのチームはその点で有利だった。ホロウェイ氏はブランドの初期のアプローチを「草の根」と表現する。
「デジタル広告にはお金をかけず、サイトは夫が作った」とホロウェイ氏は語っている。「製品の写真はすべて自分たちで撮影し、無料で使えるリソースを利用した。インスタグラムはかなり活用したし、できる限り投稿した」。ホロウェイ氏はメリッサウッドヘルス(Melissa Wood Health)の創設者でインフルエンサーのメリッサ・ウッド=テッパーバーグ氏にDMを送り、製品を送りたいと申し出た。ホロウェイ氏は「私たちのフォロワー数は1000人だったと思う」と、当時を振り返っている。それにもかかわらずテッパーバーグ氏はプレゼントを受け取り、バングルを身につけてくれた。
そしてあとはホロウェイ氏いわく、製品が「自らを物語った」。バラのバングルは、いまではメリッサウッドヘルスの多くの動画に登場している。テッパーバーグ氏はその後、自身のフィットネス器具をローンチした。2019年3月、バラはインスタグラムの投稿に「フリー・ピープル・ムーブメント(Free People Movement)」のタグを付け、その結果として小売店に取り上げられるようになり、ホロウェイ氏はブランドの認知度と売上が早期に向上したと確信している。
バラはハイヒールとスパンデックスという対極にあるものを並べて見せることで、従来のフィットネスブランドとは異なるポジションを目指した。「私たちのインスタグラムやクリエイティブでは、本来のワークアウトウェアを着ている人をほとんど目にしないだろう。初めの頃は、ビジネススーツにアンクルウェイトをつけたモデルをスタイリングしていた」と、ホロウェイ氏はいう。ちなみにスタイリングはホロウェイ氏の姉が担当している。バラは超真面目で超男性的な従来のフィットネス界に対する解毒剤のようなものを目指しているのだ。
有名人による宣伝効果
2020年2月、ホロウェイ氏とキスレビッツ氏は投資バラエティ番組『Shark Tank(シャークタンク)』に出演した。印象的なのは、ABCの公式YouTubeチャンネルにアップされているクリップが「すべての5匹のサメ=投資家がバラのバングルをほしがった(All Five Sharks Want in on Bala Bangles)」 であることだ。夫妻は最終的に、投資家のマーク・キューバン氏と番組にゲスト出演したテニスプレイヤーのマリア・シャラポワ氏に90万ドル(約1億円)で自分たちの会社の30%を買い取ってもらう契約をした。しかしその2週間後、世界はロックダウンに突入。およそ4か月もバラは完売中となってしまうという最悪の状況に陥る。ただしそれ以降、キム・カーダシアン氏、セレーナ・ゴメス氏、リース・ウィザースプーン氏、アダム・レヴィーン氏、アシュリー・グラハム氏といった有名人がバラを着用してソーシャルメディアに投稿。データ分析企業のトライブダイナミクス(Tribe Dynamics)によると、2021年上半期にシャラポワ氏が19万6000ドル(約2160万円)のEMV(EuroPay、Mastercard、Visaの間で統一規格されたクレジットカード仕様のひとつ)を牽引し、インフルエンサーのオーブリ・ウィンタース氏(@aubrewinters)が14万ドル(約1500万円)、ナタリー・リム・スアレス氏(@natalieoffduty)が11万8000ドル(約1300万円)のEMVを牽引した。2020年にはブランドは200万ドル(約2億2000万円)から2000万ドル(約22億円)まで収益を伸ばした。
最近ではインフルエンサーのティンクス氏(@itsmetinx)がブランドとともにプレゼント企画を行い、フォロワーに対して 「リッチな女の子の散歩」としてお気に入りの場所をバラの投稿にコメントするようお願いした。その投稿にはこれまででもっとも多くのコメントが寄せられたとホロウェイ氏は述べている。
顧客の声に応えた製品開発
昨年、バラは新製品の導入を開始した。2020年6月にはダンベルを再発明した「バー(Bar)」をローンチしている。ウェブサイトのコピーで「ダンベルはバカげている(dumbbells are dumb)」と宣言し、バラの製品は従来のダンベルとは異なり、ウエイトが均等に分散されると説明している。今年の4月には「ビーム(Beam)」をローンチ。ホロウェイ氏によると、現在のベストセラーになっているという。ビームは15ポンド(約6.8kg)のバーベルをモチーフにしたオブジェで、価格は99ドル(約1万1000円)、家の中に置いておくことを想定してデザインされている。この製品はもっと重いアイテムが欲しいという顧客の声に応えたものだ。こうしたリクエストはビームの発売後も続いている。
先週、バラはスキンケアブランドのサマーフライデイズ(Summer Fridays)と初の共同ブランドキットを発表した。「ザ・プールタイムボディバンドル(The Pool Time Body Bundle)」と名づけられたこのキットは、バラがセージ色のバングルを発売した際にインスタグラムに寄せられたファンのコメントに反応して生まれたものだ。ブロガーのブリタニー・ロペス氏(フォロワー数1048人)が、サマーフライデイズみたいな色だとコメントし、サマーフライデイズの創業者でインフルエンサーのマリアナ・ヒューイット氏をタグ付けした。それを受けてヒューイット氏は「私たちはコラボしないといけないという意味だと思う」と答え、その後は周知のとおりである。
サマーフライデイズの近日発売予定のゴールデンシマーボディオイルに合わせて、バラはカスタムのゴールドの限定色でバングルとバーを制作した。
ロペス氏は米Glossyに「コミュニティやコンテンツクリエーターを大切にしているブランドを支持している」と語っている。
[原文:How Bala became the ‘it’ fitness accessory of the pandemic]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida、編集:小玉明依)