[ DIGIDAY+ 限定記事 ]本記事は、米DIGIDAYのブライアン・モリッシー編集長によるコラムです。アメリカでは未曾有の経済成長を続ける反面、さまざまな不確実要素が世間を包み込むなか、今後のマーケティング業界ではなにを指針とすべきか考察しています。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]本記事は、米DIGIDAYのブライアン・モリッシー編集長によるコラムです。アメリカでは未曾有の経済成長を続ける反面、さまざまな不確実要素が世間を包み込むなか、今後のマーケティング業界ではなにを指針とすべきか考察しています。
ほとんどの尺度において、我々は前例のない吉報の時代に生きている。
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いま米国の経済は、記録的となる122カ月連続で拡大してきた。また、その失業率は、ケネディ政権以来の水準だ。S&P 500指数は、過去数十年間で3倍近くになった。ケーブル会社の専横でさえ浸食されてきた。Netflix(ネットフリックス)などのストリーミングサービスのおかげで、かつてない豊富なエンターテインメントがどこにでもある。そして何より、ポパイズ・ルイジアナ・キッチン(Popeye’s Louisiana Kitchen)とチックフィレイ(Chick-fil-A) が、チキンサンドイッチを完璧なものにしようと闘っている。すべての通常の尺度を見れば、物事は万事が快調に進んでいる。
それでも、不安がニューノーマル(新常態)になっている。たしかに、経済は順調だが、中国との絶え間ない貿易戦争が、消費者の信頼を損ないつつある。CNNにチャンネルを合わせると、差し迫っているとされる景気後退に関する報道だらけで、しかもそれが、大型ハリケーンのニュースのときにこれまで取られていたスタイルで報じられている。逆イールド曲線は、経済学の教科書だけにとどまらず、一般的な会話で厳粛な信条として語られるようになった。RV車が販売不振? 景気後退の前兆だ。
気候変動と政治問題
ごく最近の「スーパーストーム」は、経済的な問題を越えて、気候変動が地球にもたらす大きな被害を人々に思い出させる。何十年にも渡る不作為は、存続を脅かす問題への対応の緊急性をもたらす。スウェーデン人のグレタ・トゥーンベリ氏(16歳)がZ世代のスターとしていま注目されているのは、世界を破滅させつつある、避けられない気候変動の進行を止めるために、ほとんど何もしてこなかった世界のリーダーたちを、歯に衣を着せずにインチキ呼ばわりしたからだ。
気候変動の規模に関する問題への対処について多くの者が感じている悲観論により、世界の政治の多くは無力化していっている。ドナルド・トランプ米大統領は、経済指標では捉えられない根深い不安を利用してきた。通常なら脇に追いやられるアイデンティティ政治が、中心になってきたのだ。社会の分断は深まりつつある。敵意が意見の合理的な相違に取って代わった。移民は、政策の不一致よりももっと感情的な、論争を呼ぶ政治問題となってきた。経済学者なら誰でも、移民数の増加は高齢化社会のバランスを取るのに役立つと指摘するだろう。だが、アイデンティティの喪失感がそれを上回っている。
かつては、進歩(および、アメリカ例外主義)の絶対確実な印と見なされていたテクノロジーは、より厳しい目にさらされるようになった。選挙の操作や民族大虐殺の誘発に果たしたFacebookの役割は、世界を結びつければより良い世界になるという考えが偽りであることを示した。Twitterは最近まで、独裁を打倒するとしてもてはやされていたが、いまでは、独裁者予備軍や暴虐なトロール(怪物)のお気に入りのツールとなっている。常時接続の時代は、当初は想像できない贅沢だった。電話でいつでも誰かとつながって通信する世界を持つことも可能だった。その代わりに、我々は中毒になり、何も考えずにフィードをスクロールしたり、夕焼けの写真に「いいね!」をした人数やインスタグラム(Instagram)の「ストーリー(Story)」を閲覧した人数を確認するために、インスタグラムに何度もアクセスしている。
メンタルヘルスという流行病
インスタグラムは問題を認識しているようで、「いいね!」やストーリーを閲覧した人数を表示しないテストを行っている最中だ。Appleは、人々が常にスマートフォンを見るのを止めさせようと、スクリーンタイムのリマインダーを組み込んでいる。TikTok(ティックトック)の台頭は、ある意味で、Facebookやインスタグラムがソーシャル面の体裁を取り繕うことへの反発と見なせる。TikTokには、「いいね!」もフォロワー数のカウントもない。もっぱら人々がおどけたり、創造的だったりするだけだ。いまのところ、トロールが荒らし回っていないソーシャルネットワークだ(ただし、当然ながら、不愉快な者には見つけられている)。
10年前にはほとんど取り上げられなかったメンタルヘルスは、いまでは、一種の流行病と考えられている。世界経済フォーラムは、メンタルヘルスに関わる疾患が、世界の国内総生産(GDP)の4%に相当する直接的・間接的損失を与えると推定している。この損失額は、2010年から2030年までで16兆ドル(約1722兆円)に上る可能性もある。NBAの選手やヒップホップ界のスターなど誰もが、期待やプレッシャーとの自身の闘いについて堂々と語っている。「耐え抜く」という考えは隅に押しやられた。現在の不安の大部分は、不確実性がもたらす大打撃を積極的に認める姿勢からいっそう芽生えている。
Brian Morrissey(原文 / 訳:ガリレオ)