カーラ・スティーブネ氏は、Amazon Live(アマゾン・ライブ)でのストリーミング配信を、「まるでパーティーのようだ」と話す。同氏によると、YouTubeと比べてAmazon Liveは、より親近感が醸成され易いという。
カーラ・スティーブネ(Carla Stevenné)氏は、ライブコマースプラットフォームとしては、まだほとんど知られていないAmazon Live(アマゾン・ライブ)での配信を、「まるでパーティーのようだ」と話す。22歳の美容インフルエンサーであるスティーブネ氏は、14歳のときからYouTubeで動画を配信してきた。同氏によると、YouTubeと比べてAmazon Liveは、より親近感が醸成されやすいという。
たとえば、彼女は新しいアイシャドウをパレットから取り出す際、「ドラムロールをお願いしていいかしら」と語りかけながら、画面のなかで踊ったりする。するとオーディエンスは、画面の隅にあるチャット画面を通じて、「自分も家で踊ってるよ」と彼女に話しかけてくるといった具合だ。「オーディエンスは、これまでと異なる体験が得られる。なぜなら、本当の意味でインフルエンサーと繋がることができるからだ。コメントを受け取って後で返信するのとは違う」と、スティーブネ氏は話す。
ライブコマースは米国外ではすでに巨大なビジネスとなっている。実際、中国における市場規模は、630億ドル(約6兆6060億円)にも及ぶという。ライブコマースは、テレビショッピングを、よりインタラクティブにしたようなものだ。オーディエンスは、衣料品やバックパック、口紅を試しているインフルエンサーと直接やり取りできる。
Advertisement
Amazonの目論見
Amazonはこれまでも、ライブコマース市場に参入すべく、手を打ってきた。2016年にはファッションに特化したスタイル・コード・ライブ(Style Code Live)をスタートしたが、わずか1年で撤退。その後、2019年2月にAmazon Liveを立ち上げたが、当初はあまりぱっとしなかった。しかしいま、同社は新たなアプローチを打ち出している。それは、インフルエンサーに声をかけてAmazon Liveに参加してもらい、より多くの買い物客を呼び込もうというものだ。7月からは、優れたパフォーマンスを上げたインフルエンサーに、サイト内でより注目が集まるような場所を提供する、階層型システムを導入するといった施策で、影響力の高いインフルエンサーを惹きつけようとしている。Amazonによれば、同社の狙いはライブ販売に欠かせない「クリエイティビティ、繋がり、インスピレーション」を強化することだという。このプログラムはまだ小規模だが、Amazonでの購買にソーシャルメディア的な体験を付加する可能性を秘めている。
Amazonの担当者がスティーブネ氏に参加を呼びかけたのは、昨年11月のことだ。当初、同氏は不安を感じていた。というのも、Amazonから求められたのは1時間のライブ配信。1人で乗り切るには少々長すぎる。しかし、すぐに彼女は、このライブ配信をとても気に入るようになった。いまでは、月曜から金曜まで配信を行っている。1日あたりの時間は原則として2時間だが、それより長くなることもある。実際、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)の取材を受けた前日には、マニキュアを試すライブ動画を5時間も配信したという。
なお、スティーブネ氏が抱えるオーディエンスの多くは、ほかのプラットフォームでも彼女をフォローしているファンがほとんどだった。しかし、Amazonが数カ月前からホームページで彼女をプッシュするようになって以来、オーディエンス数は30〜60倍に急増しているという。
マイクロインフルエンサーにフォーカス
Amazonは、Amazon Liveにチャレンジしている人をフィーチャーする際に、ガブリエル・ユニオン氏やジェシカ・アルバ氏といった有名スターを取り上げることが多い。だが水面下では、マイクロインフルエンサーのネットワークを取り込んで、オーディエンスを引き寄せようとしている。実際、Amazon Liveは日に日に多くのインフルエンサーで賑わうようになっているとスティーブネ氏は指摘する。
マイクロインフルエンサーは、数は少なくても熱心なフォロワーを引き連れてくれる点で効果が高い。ただし、Amazon Liveのオーディエンスのほとんどは、アパレル商品を探している途中にたまたまやって来た買い物客であるため、オーディエンスの関心を維持するには、彼らとの直接的なコミュニケーションを行う必要があることに、スティーブネ氏は気付いた。
ライブは、動画内で紹介されている商品の紹介ページから視聴できるが、Amazonは話題の商品を紹介したインフルエンサーに対しては、追加のインセンティブを支払っている。そこでスティーブネ氏は、評価の高い商品や検索ランキングで上位の商品を探し、紹介するようにしているという。そのページに自分の動画が掲載されれば、インセンティブがもらえるだけでなく、膨大な数の人々に自分を知ってもらえる。また、大抵の場合、出店者からサンプル品の提供も受けることができるという。
スティーブネ氏によれば、商品を紹介する場所としてAmazon Liveに目を向けるブランドは増えているという。しかも、企業がAmazon Liveで彼女に提示する報酬は、YouTubeやインスタグラム(Instagram)よりはるかに高いケースが多い。その理由はおそらく、ほかのプラットフォームよりAmazon Liveのほうが、対話が行われる可能性が高いからだ。
「人気が高まるのは間違いない」
いまのところAmazon Live全体のオーディエンス数はそれほど多くない。スティーブネ氏の話では、大規模なライブ配信でも瞬間的なオーディエンス数は400人ほどで、1時間で数千人レベルという。しかし、彼女のライブ配信はここ最近でオーディエンス数が急増した。これを受け同氏は「今後Amazon Liveの人気が高まるのは間違いない」と考えているようだ。実際、プライムデー(Prime Day)の時期には、スティーブネ氏の配信のオーディエンス数は、通常の2倍を記録した。「影響力を高めることに熱心で、本当にオーディエンスを増やしたいと考えているインフルエンサーには、いますぐはじめるべきだと伝えたい」。
Amazon Liveの配信を行うには、Amazon Influencer Program(アマゾン・インフルエンサー・プログラム)を通じて申請しなければならない。基本的には、インスタグラム、YouTube、Facebook、Twitterで高い人気を得ている人なら、誰でも承認される可能性がある。具体的な条件は不明な点もあるが、ある企業の広告では、フードインフルエンサーに対し、2000人以上のインスタグラムフォロワーと、2.1%のエンゲージメント率という条件が提示されていたという。
「フォロワーが1000人しかいない人が承認されたという報告を読んだこともある」と語るのは、インフルエンサーマーケティングエージェンシー、スタック・インフルエンス(Stack Influence)の共同創設者であるウィリアム・ガスナー氏だ。「Amazonが本当に気にかけているのは、エンゲージメント率とコンバージョン率だ」と同氏は述べる。
Amazon Liveで承認されたインフルエンサーは、衣類の試着、料理、ベッドメイキング、赤ちゃんの着替え、ビデオゲームをプレイしている様子などをストリーミング配信する。その動画の下には、配信中に試用している商品のリストがカルーセル形式で表示され、オーディエンスが商品を買うたびに、インフルエンサーは手数料を得ることができるという仕組みになっている。ただし、手数料率は商品によって違いがあり、高級美容品なら10%の手数料が得られる一方、Amazon Fresh(アマゾン・フレッシュ)の生鮮食品は1%しか得られない。
ブランドにとっての新たな収入源
ブランド側から見ても、成果は出ているようだ。アドエイジ(AdAge)が昨年入手したAmazonのプレゼン資料には、Amazon Liveの目立つ場所でライブ配信を行えば、プライムデーよりも多くの購入が見込めると記載されていた。また、ある人気のライブ配信では、平均で家電商品の売上が95%、家具やキッチン用品が131%増加したという。
Amazonは出店者に対し、サイバーマンデーのような大規模セールのときにライブ動画で商品を宣伝するよう促している。これは、顧客エンゲージメントを高めるスマートな方法といえるかもしれない。最終的にAmazon Liveの人気が高まれば、拡大を続けるAmazonの広告ビジネスとしても重要な取り組みになるだろう。
ブランドにとって、Amazon Liveで商品を取り上げてもらうことは、商品ページに活気をもたらす手段でもある。たとえば、Amazonで「スウェットパンツ」と検索すると、似たようなブランドが何十種類も表示される。そのなかで自社の商品を目立たせるために、インフルエンサーによるライブ動画を商品ページに埋め込むというわけだ。
「現状、Amazonに出店しても、非常に厳しい競争に直面することがほとんどだ。多数のブランドがひしめき合い、さまざまな内容のレビューが投稿されるなかで差別化を行うには、魅力的なコンテンツを持つ必要がある」と、ガスナー氏は語った。
こうした状況は、インフルエンサーにお金を払ってでも、Amazon Liveを活用しようという、モチベーションを高めることになる。また、Amazonがアフィリエイト手数料を引き下げはじめたことから、インフルエンサーにとっても、ブランドから新たな収入を得られるという点で、Amazon Liveの魅力は高まっている。
Amazonが手数料の支払いを渋っているかどうかは問題ではない。すでにブランドはインフルエンサーにお金を使いはじめている。そして、どのようなものであれ、追加の収入が得られるのは素晴らしいことだ。スティーブネ氏がいうように、「Amazon Liveでさらにお金を稼げるようになる」のだから。
[原文:How Amazon Live is growing its micro-influencer program]
MICHAEL WATERS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)