大手ディスカウントスーパー、アルディ(Aldi)は大胆にも今年、多くの新規開店を目論んでいる。同社は2021年2月第2週、年内に100店を米国に新規オープンする計画を発表した。全米規模での展開を考えているが、「今年は特に、西海岸にフォーカスしている」と、同社広報は文書で述べている。
アメリカの大手ディスカウントスーパー、アルディ(Aldi)は大胆にも今年、多くの新規開店を目論んでいる。
同社は2021年2月第2週、年内に100店を米国に新規オープンする計画を発表した。全米規模での展開を考えているが、「今年はなかでも西海岸にフォーカスし、アリゾナとカリフォルニアに15店以上の新規開店を予定している」と、同社広報は文書で述べている。
アルディは現在、全米に2000店以上を構えており、2022年末までに2500店以上に増やす方向で動いているという。実現すれば、店舗数ではクローガー(Kroger)とウォルマート(Walmart)に次ぐ、全米において第3のスーパーマーケットとなる。
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さらに、アルディの米拡大戦略は店舗数増に留まらない。富裕層の獲得を狙い、近年、生鮮食品の品揃え強化にも注力している。加えて、2020年スーパーマーケット業界にも起きたeコマースブームの後押しを受け、オンラインショッピングに慣れた消費者をさらに取り込むべく、カーブサイドピックアップにも増資している。
アルディの歴史とその拡大戦略
アルディの米国初出店は1976年だが、米店舗数が急拡大を見せているのは、ここ10年ほどのことだ。同社はもともと1946年にドイツで創業したが、創業者兄弟の不和により、アルディ・ズュート(Aldi Süd)とアルディ・ノルト(Aldi Nord)の2社に分裂した。2社は現在に至るまで別々に事業を営んでおり、米アルディはアルディ・ズュートに属する。
米国で拡大を始めた当初は、「人々にアルディ方式の買物を教える」必要があったと、市場調査会社カンター(Kantar)のリテールインサイト部門ディレクターを務めるサイモン・ジョンストーン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に語る。アルディは商品の種類を限定し、店内の装飾/サービスも最小限に抑える代わりに、価格も抑えるという、独自の業態を有する。2012年には「アルディトラスト(Aldi Truths)」と題した広告キャンペーンを大々的に打ち、「飾りは食べられない。なのにそこにお金払う意味ある?(You can’t eat frills, so why pay for them?)」や「マンネリはいつも君の味方。だってお財布に優しいから(The same is always better when it costs less)」といったキャッチコピーで、その特徴を前面に押し出した。このキャンペーンが目指したのは、消費者――ショッピングカートの利用は25セントのデポジット制など、アルディ独自のコスト削減策に対する不快感のせいで、足が遠のいているかもしれない人々――に、この業態の利点をあらためて教えることだった。
Aldiの店舗は米国の一般的なスーパーよりも小さく(店舗面積の平均は1万6400平方フィート[約1523平方メートル]で、典型的なクローガーの店舗面積の1/10以下)、それゆえ商品数も少ない。そして、その90%以上をプライベートブランドが占めており、それもまたアルディのコスト削減に寄与している。
豊富まプライベートブランドが強み
だが、アルディが展開する戦略はこれだけではない。顧客増も取り込むべく、品揃えの充実に着手している。2018年には、生鮮食品の種類を40%増やし、オーガニック製品と新鮮な肉類の強化を図ると発表した。ここ数年で、植物由来代替肉のプライベートブランド商品を投入しているほか、2019年に発表したハードセルツァー[アルコール入り炭酸水]をはじめ、アルコール飲料のプライベートブランド商品も増やしている。
「アルディは明らかに、小規模のディスカウントストアから、品質重視のリテーラーに移行した」と、業界紙スーパーマーケット・グル(Supermarket Guru)の創刊者フィル・レンパート氏は言う。
アルディが見せている大きな変化はもうひとつある。eコマースへの増資だ。同社は2017年、インスタカート(Instacart)と提携して食料雑貨の宅配を試験的に実施するとともに、カーブサイドピックアップも開始した。そして、さらに500店でカーブサイドピックアップを可能にし、今年度末までには、同サービスを提供する店舗数を1200に増やす計画があると、2021年2月第2週に発表している。
食料雑貨の宅配サービスを一から構築するのではなく、初めからインスタカートに依存するのは、店舗スタッフ数を最小限に抑えるアルディのようなスーパーにとって、きわめて理に適った戦略だと、オムニコム・コンサルティング・グループ(Ominicom Consulting Group)のコマース部門SVPブライアン・ギルデンバーグ氏は評する。そして、カーブサイドピックアップサービスの提供には「明らかに人件費が伴う」が、アルディにはプライベートブランドに注力することで「マージンを抑え、小売店よりも[投資に回せる]余裕があり」、それゆえ他社よりも実行可能性が高いと考えると、氏は言い添える。
アルディの脅威を感じる競合たち
一方、クローガーとウォルマートは食料雑貨の宅配と店内ピックアップを強化する設備および技術の構築に投資してきた。クローガーは3年前、英オンラインスーパー、オカード(Ocado) と提携し、米国に10の自動倉庫を建設すると発表した一方、ウォルマートは今年初め、食料雑貨の宅配およびピックアップの充実に向けて、数十の店舗に自動倉庫を追加敷設すると発表した。
アルディが全国規模のスーパーへと着実に成長するなか、少なくともウォルマートはその脅威を認めている。「私はアルディと20余年にわたり競合してきた。彼らは非常に優れており、手強い存在だ」と、当時のウォルマート米CEOグレッグ・フォラン氏は2019年に開かれた業界の会合で語っている。
「私が思うに、多くのリテーラーが犯した過ちは、アルディの武器は低価格だけであり、消費者が流れている理由もその低価格だけだと、見くびったことにある。彼らはいま、自らの過ちに気づき、慌てているはずだ」と、ジョンストン氏は評する。だからこそ、多くのスーパーが(アルディをはじめ、他社と張り合うべく)「低価格だけでなく、確かな選択肢も提供するプライベートブランド作りに本格的に投資している」と、氏は言い添える。クローガーはその一例で、近年、ミールキット[食材セット]や植物由来製品をはじめ、さまざまな高級プライベートブランド商品を投入している。
とはいえ、アルディの米店舗数拡大の勢いに衰える気配はない。スーパーマーケット勢が今後も、勢いを増すアルディとの厳しい戦いを強いられることは必至と思われる。
「[アルディは]いまや、どこへでも躊躇なく進出していける状態にある」とジョンストン氏は言う。
[原文:How Aldi’s early investments are helping it take on Walmart and Kroger]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)