コンピュータービジョンと人工知能(AI)による新技術として、非接触のチェックアウト(決済)システムが急増している。
チェックアウト分野ではこの夏、インスタカート(Instacart)でケーパーカート(Caper Cart)の最新版が発表されたことや、手のひら認識型の決済技術であるAmazon Oneが500店舗以上のホールフーズ(Whole Foods)に導入されるなど、いくつかのマイルストーンが達成された。これは、チェックアウトをさらに接触不要なものに改善するために、新技術をテストする小売企業が増加することを示唆している。
チェックアウト技術の新しい流れの背後にあるひとつの重要な要素が、コンピュータービジョン、すなわちビジョンAIだ。この人工知能は、コンピューターが画像に基づいて認識を行うことを可能にする。コンピュータービジョンは手のひらの掌紋を認識するシステムや、特定の品物を識別するカメラの基盤となるものだ。
XRCベンチャーズ(XRC Ventures)のジェネラルパートナーで、チェックアウト分野の初期段階の企業に投資しているオポチュニティファンド(Opportunity Fund)のマネージャーであるアル・サンバー氏は、小売企業の大半がなんらかの形で非接触型の支払いをテストしていると語る。しかし同氏は、バーコードのないものを認識でき、スキャンを不要にする能力を持つビジョンAIを基礎とするシステムが、もっとも選ばれるテクノロジーになるだろうと確信している。
「この技術がマスに導入できるまでに5、6年要するとしても、当社は早期段階で投資を開始する」と、同氏は述べる。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
コンピュータービジョンと人工知能(AI)による新技術として、非接触のチェックアウト(決済)システムが急増している。
チェックアウト分野ではこの夏、インスタカート(Instacart)でケーパーカート(Caper Cart)の最新版が発表されたことや、手のひら認識型の決済技術であるAmazon Oneが500店舗以上のホールフーズ(Whole Foods)に導入されるなど、いくつかのマイルストーンが達成された。これは、チェックアウトをさらに接触不要なものに改善するために、新技術をテストする小売企業が増加することを示唆している。
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チェックアウト技術の新しい流れの背後にあるひとつの重要な要素が、コンピュータービジョン、すなわちビジョンAIだ。この人工知能は、コンピューターが画像に基づいて認識を行うことを可能にする。コンピュータービジョンは手のひらの掌紋を認識するシステムや、特定の品物を識別するカメラの基盤となるものだ。
XRCベンチャーズ(XRC Ventures)のジェネラルパートナーで、チェックアウト分野の初期段階の企業に投資しているオポチュニティファンド(Opportunity Fund)のマネージャーであるアル・サンバー氏は、小売企業の大半がなんらかの形で非接触型の支払いをテストしていると語る。しかし同氏は、バーコードのないものを認識でき、スキャンを不要にする能力を持つビジョンAIを基礎とするシステムが、もっとも選ばれるテクノロジーになるだろうと確信している。
「この技術がマスに導入できるまでに5、6年要するとしても、当社は早期段階で投資を開始する」と、同氏は述べる。
小売業界を席巻するようなテクノロジーはまだ存在しないが、実験を行う余地は十分にある。ギャラップ(Gallup)が2022年8月に行った調査によると、ほとんどの買い物に現金を使用すると回答している買い物客はわずか13%だ。また、買い物客の10人に6人以上が、自分が生きているうちに米国がキャッシュレス社会になるだろうと信じている。
この移行期は、大胆なアイデアを持つ新興企業と、新製品を展開する大手企業の両方による、多くの実験的テクノロジーに支えられている。マスターカード(Mastercard)でeコマースおよび店舗内認証ソリューションのシニアバイスプレジデントでグローバル責任者を務めているニリ・クレノフ氏は、非接触型チェックアウトは3年前の2倍以上に増加し、現在はすべての対面取引の少なくとも60%を占めていると述べた。
こうした関心の高まりを受け、マスターカードは昨秋、ブラジルのスーパーマーケット5店舗で、笑顔や手のひら、目を使って会計ができる生体認証決済技術を試験的に導入した。クレノフ氏によると、今年はさらに中東とアジアでもテストを行うという。
「生体認証は、決済において、そして、それ以外にも大きな可能性がある。物理的な世界、デジタルな世界、またはメタバースのような未来の世界のすべてにおいて有用だ」と、クレノフ氏は述べる。
ビジョンAIや生体認証のようなほかの新技術を基礎とするシステムが、チェックアウトの分野をどのように変えつつあるのかを以下に紹介する。
生体認証によるチェックアウト
生体認証は一般的に、人体の一部をスキャンして、その人物が誰なのかを認識し、その人物の決済方法に結びつけるという仕組みだ。しかし、これにはプライバシーの懸念がある。マスターカードが2022年6月に行った調査によると、顧客の71%は自分の情報が保存されることに懸念を抱いている。そのための対策として、マスターカードのシステムは、買い物客の身元を保護するため、スキャン結果を即時に削除し、データが漏えいした場合でも支払情報が特定のユーザーと結びつけられないようにしていると、クレノフ氏は述べる。
「このプログラムは、摩擦のない生体認証チェックアウト体験を実現するために、セキュリティ、データのプライバシー、生体認証のパフォーマンスに対する基準を設定するものだ」と、同氏は述べている。
結局のところ、生体認証の使用が増えるほど、買い物客は快適になる。クレノフ氏は、AppleのFaceIDのような生体認証によるスマートフォンのロック解除によって、この技術が一般的になったことを指摘している。
「これらは、顧客が長年にわたって使用してきたものだ。そして、消費者が店頭での普通の決済方法として生体認証を受け入れるようになるのは、こうしたことが転換点になると思っている。つまり、消費者はこのテクノロジーをすでに使い慣れているということだ」と、同氏は述べた。
買い物客にとって、このようなユースケースが将来さらに増えるだろう。Amazon Oneは7月20日、ホールフーズマーケット(Whole Foods Market)500店舗での運用の開始を発表した。この「手のひら認識サービス」はコンピュータービジョンのアルゴリズムを使って顧客の手のひらの画像をスキャンし、その顧客の支払い情報に関連付けられている固有のシグネチャを取得する。Amazonフレッシュに加えて、パネラブレッド(Panera Bread)の店舗や、デンバーのクアーズフィールド(Coors Field)など、すでに約400店舗で使用されているAmazon Oneの利用可能店舗は、今回の拡大で2倍以上に増加する。
Amazonによると、このサービスはこれまでに300万回以上使用されているという。
AIが小売企業の新技術を後押し
オポチュニティファンドのサンバー氏は、非接触型決済が使用されるには、買い物客が非接触型決済に慣れることが重要であるのと同時に、小売企業が非接触型決済のシステムを簡単に設置できるようにすることも重要だと述べる。
「導入する際の障害のひとつは、企業がPOSシステムに何億、何十億ドルと投資してきたことだ。一度にすべてを置き換える必要のないソリューションが必要だ」と同氏は述べている。
オポチュニティファンドの投資のひとつであるビーブ(Veeve)は、カメラとビジョンAIがカートに入った商品を感知するというスマートカートの決済システムだ。このデバイスはショッピングカートに固定され、買い物客がカートに入れたものを自動的にスキャンして、支払いを受け付ける。ビーブから集計されたデータによると、買い物客はこの技術を使用するとき、さらに10〜15%多く金額を消費する傾向があることが示されている。
一方、配送サービスのインスタカートも、コネクテッドストアズ(Connected Stores)のプラットフォームを強化するために、コンピュータビジョンに依存している。2022年9月に発表された同社のケーパーカート(Caper Cart)は、AI搭載型のカメラのシステムを使い、規模を拡大している。顧客は商品をカートに入れてチェックアウトを行うが、その際、どのような商品が追加または削除されたかをカートが感知する仕組みだ。
インスタカートのコネクテッドストアズ担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーであるデイビッド・マッキントッシュ氏は、オンライン配達のパーソナライゼーションの部分を好みながらも、やはり店舗でも買い物をしたいというユーザーからのフィードバックに基づいて立ち上げられたと語った。ケーパーカートの第3世代は以前のモデルよりも大型かつ軽量で、この夏にニュージャージーのショップライト(ShopRite)で運用を開始し、今度はシュナックス(Schnucks)の店舗でも使用される予定だ。
ケーパーカートのようなチェックアウト体験は、オムニチャネル・ショッピングのツールになることで、小売企業により広範囲な利益をもたらすとマッキントッシュ氏は述べた。たとえば、顧客がロイヤルティプログラムで電話番号を入力すると、買い物の履歴データが保存され、将来のオンラインでの購入に活用される。
「店舗内とオンラインの体験を統一し、双方を組み合わせることが重要だ」。
しかし、小売企業が新しい方法を店舗に取り入れるなら、従業員にとっても役に立つような方法で導入する必要があり、そうでなければシステムは定着しないと、マッキントッシュ氏は語る。ケーパーカートの新バージョンで搭載された新機能のひとつ、コネクテッドチャージシステムは、カートをしまうために互いにくっつけると、同時にチャージを行えるものだ。またこのシステムは、誰かがカメラをふさぐような不審な行動を感知すると、関係者に警告する機能もある。
「店舗のオペレーションに組み入れることができ、店舗を簡単に改良できるような体験がなければ、規模を拡大することはできない」と同氏は述べた。
[原文:How AI is changing the in-store checkout experience ]
Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Instacart