コロナ禍中、リテーラーは顧客の安全を確保する手段を迅速に見出す必要に迫られた。靴リテーラーのスナイプス(Snipes)が出した答えは、実店舗で購入した顧客へレシートをeメールで送付することだった。同社の場合、このeメールが顧客にオムニショッパー化を促すツールのひとつとなっている。
コロナ禍中、リテーラーは顧客の安全を確保する手段を迅速に見出す必要に迫られた。それはつまり、購入前に、顧客に何に触れて感じてもらえるのか、そしてどうしたらそれが可能なのかを一から考え直すことだった。
靴リテーラーのスナイプス(Snipes)が出した答えは、実店舗で購入した顧客へレシートをeメールで送付することだった。同社の場合、このeメールが顧客にオムニショッパー化を促すツールのひとつとなっている。
スナイプスはフィラデルフィアとニューヨークをはじめ、全米20の実店舗における3カ月間の試験導入を経て、2020年11月、eレシートテックプラットフォーム「フレックスエンゲージ(FlexEngage)」の利用を開始した。試験期間中の普及率(というよりも、オプトイン率)の目標は25%だったが、同社のデジタル部門VPジェンナ・フレイトマン・ポスナー氏によれば、実際にはそれを「優に上回った」という。具体的な数字について、同氏は明言しなかった。
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試験結果が上々だったことを受け、スナイプスはすぐさま、全米に合計100店を構える実店舗の残りにも導入した。このeレシートプログラムを介して入手したメールアドレスにより、同社のeメールデータベースは過去7カ月間で5%拡大したと、フレイトマン・ポスナー氏は語る。現在、同社はそのデータを基に何を構築できるのか、将来を見越して考えており、おそらくは電話番号といったほかのデータポイントの自発的共有や、スナイプスのアプリダウンロードのオプトインを顧客に促す術を探ることになるという。
このスナイプスのeレシートは、オンライン注文時にeメールで送られてくる一般のレシートとは異なる。実店舗で購入し、eメールでのレシート送受信に同意した顧客にのみ提供されるからだ。見かけは紙のレシートとほぼ変わらないが、スナイプスのウェブサイトへのリンクが貼られている。
2種類の顧客数で成功を測定
スナイプスは同プログラムの成功を2種類の顧客数で測定している――過去に1度もオンライン購入したことのない顧客と、過去100日間以上、オンライン購入から遠ざかっている顧客だ。eレシートの送受信に同意した顧客の半数以上が、スナイプスにメールアドレスを提供したことがなかったという。
「おかげで、オンラインと実店舗、双方の購入に基づいて顧客プロフィールを構築できている。実店舗でメールアドレスを共有してくれる人々はつまり、デジタルに強い関心を抱いている顧客であり、これで彼らにリターゲットできるようになった」と、フレイトマン・ポスナー氏。「私に言わせれば、eレシートはオプトインポイント、つまり個人データの利用許可にほかならない」。
新作シューズの抽選販売への参加をアプリ経由に限定したり、特定アイテムのディスカウントを知らせるプッシュ通知をしたり、といった戦略を介して、同社は自社アプリのダウンロードの促進を図っていくという。また、顧客の電話番号についても、いわゆるロイヤルティカードの番号と捉え、入手数の倍増に努めていると、フレイトマン・ポスナー氏は語る。
顧客データを直接入手するには
プライバシー保護を巡る状況が大きく様変わりし、ファーストパーティデータの重要度がさらに高まるなか、ブランド勢は顧客から直接データを入手する方法を探っていると、eコマースに特化したテック企業アイデオクリック(Ideoclick)のストラテジー部門VPアンドレア・リー氏は語る。ただ、そうしたデータは消費者習慣/心理の把握に欠かせない重要なヒントをくれるが、ブランド側に顧客のプライバシーを侵害しないよう、細心の注意が求められるのも事実だ。
「eレシート経由でのメールアドレスの収集は、何年も前から行なわれている」と、マーケティングテクノロジー企業チーター・デジタル(Cheetah Digital)のコンテンツ&データ部門VPチム・グローム氏は語る。「ただし、顧客がeレシートのトランザクション(取引/やり取り)に同意した際、その同意書に個人データのマーケティング目的での使用に関する明確な文言がない場合、それをオプトインデータとして利用するのは危険だ。ほかのデジタルトランザクションの場合と同様、当該データの使用法に関して、大規模なマーケティング利用も含め、明記する必要がある」(スナイプスのeレシートには同社のブライバシーポリシーへのリンクが貼られている)。
プライバシー擁護団体コース(CAUCE)の代表ジョン・ルヴィン氏は、eメールアドレスを登録させる際の二重のオプトインを勧める。「メールアドレスを登録してもらうときは、その場であらためて選択させるようにする。そうすれば、煩わされたくないと思っていた消費者をイライラさせずに済むし、リストはある程度小さくなるかもしれないが、少なくともより強力になる」。
「ロイヤルティ構築の地ならしの段階」
eメールアドレスの顧客からの直接収集を試みているのは、スナイプスだけではない。今年前半には、いくつかのブランドがコロナウィルスのワクチンを打った顧客からメールアドレスを入手するため、くじ/景品の提供を実施した。また、今年6月のブルームバーグ(Bloomberg)のインタビューにおいて、世界最大の一般消費財メーカー、プロクター&ギャンブル(Procter & Gamble)のチーフブランドオフィサーであるマーク・プリチャード氏は、紙おむつブランドのパンパース(Pampers)は、新生児を持つ/出産を控える親のデータ収集アプリをすでに導入したと語っている。
「いまは顧客に、店舗での購入時に身元を明かすことに慣れてもらっている」と、フレイトマン・ポスナー氏。「ロイヤルティ構築のための、いわば地ならしの段階だ」。
[原文:How a shoe retailer built up its first-party data using emailed receipts]
ERIKA WHELESS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU