ここ数年で、ベンチャーキャピタルから資金調達したD2Cブランドは、インスタグラムを活用することが多い。しかしこのところ、インスタグラムの活用から離れるD2Cスタートアップが徐々に増えている。
オラマイド・オロウェ氏とクラウディア・テン氏は、2020年8月に慢性的な肌の問題を抱える人をサポートするD2Cスタートアップのトピカルズ(Topicals)を立ち上げた。
両氏はローンチに向けて、春ごろから顧客開拓に取り組んでおり、ツールとして目をつけたのがTwitterだった。
インスタグラムでは、すでに何百というスキンケアブランドがしのぎを削っていたため、両氏はTwitterで見込み客の関心を高めるための投稿を行った。たとえば、「マスクを毎日着用することで発生したニキビへの対処法」などだ。
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「インスタグラムはより視覚的なプラットフォームである一方で、非常に雑音が多いという欠点がある」とオロウェ氏は語る。
また、インスタグラムは自撮り写真などが多い。トピカルズが必要としていたのは、慢性的にスキンケアの悩みを抱える人と率直に対話するための場であった。オロウェ氏は、ほかのD2Cスタートアップがあまり活用していないTwitterに焦点を当て、ユーザーとのコミュニケーション方法を図ることで、差別化ができると考えたのだ。
このアプローチは、少なくとも初期段階では成功を収めた。トピカルズ設立初月、収益のおよそ50%がTwitterを介したものだった。今や同社のTwitterアカウントのフォロワー数は1万7000人を超えている。
「より強気なイメージ戦略が必要」
ここ数年で、ベンチャーキャピタルから資金調達したD2Cブランドは、インスタグラムを活用することが多い。こういった企業の商品をまとめて「インスタグラムの水着(Instagram swimsuit)」や「インスタグラムの寝具(Instagram bedding)」と呼ぶ消費者もいるほどだ。
しかし一方で、インスタグラムの活用から離れるD2Cスタートアップが徐々に増えている。初期のD2Cスタートアップのビジネスモデルは、これまで店舗のみで販売されていた商品のオンライン販売、または幅広く使われているカテゴリーの商品を、より洗練して販売するというものが中心だった。いまではメジャーなパステル調でサンセリフを使ったパッケージなども、こうした戦略のもと生まれた。
このところ、D2Cスタートアップたちは、新たなビジネスチャンスを獲得するべく、マーケティングの手法を多様化させたり、強化している。たとえばオロウェ氏は、トピカルズは、慢性的なスキンケアの問題を「恥ずかしくない」と思えるようにするためのブランドだと述べている。「そのためには、より強気なイメージ戦略が必要だ」。
それはたとえば、ミニマルな外見ではなく、より明るく、カラフルで大きなフォントを用いたり、肩肘張らないライフスタイルを想起させるような写真から、家庭を意識させる写真への変更などが挙げられる。また、商品のポジショニングについても、シンプルなライフスタイルを実現するためのものではなく、より大きなテーマに焦点を当てたものに変更するといった取り組みが進められている。加えて、これまで考慮されてこなかった層をターゲットに含めたり、タブーを取り払うことをテーマとしたSNS戦略も増えている。
インスタグラムは「ジャンプ台」
D2Cスタートアップにとって、これまでインスタグラムは、いわば「ジャンプ台」の役割を果たしてきた。
水着のD2Cブランド、アンディー・スウィム(Andie Swim)の創業者、メラニー・トラビス氏は2020年、Vox Mediaが運営するメディア、グッズ(The Goods)に対して、「試作品ができる前から同ブランドのインスタグラムアカウントを立ち上げていた」と述べている。「基本的にインスタグラムのユーザーは、我々のターゲットとほぼイコールだからだ」と同氏は語る。それゆえ同ブランドは、マーケティング予算の8割をFacebookに投じている。
アンディー・スウィムをはじめ、多くのブランドがインスタグラムに集まるなか、ブランドイメージにある種の共通点が見られるようになった。サンセリフのフォントにパステル調、ミレニアルピンクとセージグリーンといった色使いだ。
デザインの専門家たちによれば、こうした傾向が見られるようになったのは理由があるという。ブランドストラテジストのアジャ・シンガー氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)に対し、「当時は、オンラインでの購入について、抵抗感を持つ人が少なくなかった」と指摘する。「そこでブランドの多くは、受け入れやすく清潔感があり、わかりやすい体験を提供しようと考えたのだ。この戦略は実際にうまくいった。だからこそ、ここまで浸透したのだ」。
別アプローチを試みる起業家たち
そんななか、陳腐化を避けるため、別のアプローチを試みるスタートアップも増えはじめた。
トピカルズのパッケージやWebサイトのデザインは、2000年代初頭に流行した、カミング・オブ・エイジ(coming of age)という映画ジャンルにインスパイアされたもので、米国の卒業アルバムによく見るフォントが使われている。製品パッケージについても、従来の湿疹薬のような白いパッケージとは異なり、ピンクや黄色が多用されている。一方、トピカルズのインスタグラムやTwitterのフィードには、湿疹を隠さず見せるようなモデルやユーザーの写真が掲載されている。
シンガー氏も、2020年9月に発売されたニキビケアブランドのスターフェイス(Starface)を例に挙げ、「Z世代をターゲットとするブランドのあいだで、これまでと異なるイメージ戦略やコミュニティ構築のアプローチが注目されている」と指摘する。実際、スターフェイスのTikTokアカウントでは、同ブランドの黄色いニキビケアパッチをつけたユーザーの動画が投稿されている。 「Z世代は、フィルターを通さない事実を求めている。彼らが好むのは、とりつくろわない言葉だ」とシンガー氏は語る。
「TikTok的」なブランディングが台頭
TikTokの出現も、こうした取り組みを後押しした。D2Cスタートアップのレビューサイト、シングテスティング(Thingtesting)では、この潮流をインスタグラムのキュレーションされた世界との対比で、「TikTok的」と表現している。シングテスティングの編集者のサラ・ドラム氏は次のように述べる。「インスタグラムとは異なり、TikTokは大胆かつ奇妙で、ふざけたアイデアが支持されやすい」。
妹のバネッサ・ファム氏とともにアジアの前菜ブランドのオムソム(Omsom)を立ち上げたキム・ファム氏は、「D2C業界では、これまで当たり障りのないソフトなものが良しとされてきたが、いまでは真逆の、マキシマリスト(ミニマリストの対極)路線のブランドが増えており、大きな注目を集めている」と話す。
オムソムは、これまで一般的だった落ち着いた色調ではなく、明るくカラフルな色使いを行うブランドだ。バーチャルイベントにおいても、米国におけるアジア系への偏見を取り除き、サポートすることを中心戦略に掲げている。たとえば、2020年の夏に同社はシェフのジェン・ファノムラット氏とバーチャル料理教室を開催した。ファム氏はこれを「『一般的な料理教室のあり方』へのアンチテーゼ」と位置づけ、「食事における『本物』『適切』とは何か」といった疑問を投げかけた。「これまでの料理教室のあり方は、1から料理の作り方を教えるというだけの場ではなかった」と同氏は語る。
コミュニティ作りに欠かせないツール
外観は別として、ファム氏はインスタグラムについて「オムソムにとって、ブランド作りおよびコミュニティ作りに欠かせない最重要ツール」としている。同氏は、オムソムにとってインスタグラムは効果的なプラットフォームだと考えている。それは、同ブランドがこれまで消費者系スタートアップから無視されてきた、アジア系米国人へのリーチを試みているためだ。
「ほかの創業者や投資家からは、『インスタグラムは金がかかるうえ、ノイズが多いから気をつけろ』といわれる」とファム氏は話す。実際、ブランドが大量に流入したインスタグラムでは、現在広告費用が高騰している。Facebookやインスタグラムにおける顧客獲得コストが、1年で2倍から3倍にまで増えたと報告しているブランドすらある。そのため、他社と同じような手法では以前のような収益は期待できなくなっている。
また、ファム氏は「アジア系であることに誇りを持ち、声を上げ、堂々としていることが、私たちのブランドがFacebookやインスタグラムでシェアされることにつながった」と語る。
イメージ戦略は最初の一歩に過ぎない
しかし、ユニークなブランドイメージを打ち出したり、SNSチャネルの多様化といった戦略を採用するD2Cスタートアップも、初期のD2Cスタートアップと同じような課題に直面する可能性もある。というのも、ユニークかつ見た目で人気を博したブランドが登場すると、たちまち模倣するブランドが大量発生するからだ。現在見られはじめている、オムソムやトピカルズが進めているような取り組みは、10年、場合によっては2年ほどで「当たり障りのない」手法となる可能性すらある。
そんななか、最終的に生き残れるかは商品自体にかかっている。シングテスティングの創業者、ジェニー・ギランダー氏はモダンリテールに対し、インスタグラムやSNSのフィードは、ユーザーへの「第一印象」作りには最適だが、それ以上でもそれ以下でもないと語る。
D2Cスタートアップの創業者の多くは、こうした印象作りは優位性を決めるための、最初の一歩に過ぎないと考えている。「顧客獲得のために、視覚的に説得力のあるブランドイメージを作ることは非常に重要だ。しかし、それはいわば競争への『参加費』にすぎない」とオロウェ氏は述べる。
[原文:How 2020 killed the Instagram brand]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)