ヒルトンは、モバイルアプリの開発・導入に多額の投資を行い、ホスピタリティ向上を実現。ホテルチェーンでは初となるAmazonアカウントとの連携や、デジタルキー機能の搭載で宿泊客はスマホからのチェックインが可能に。今後は、さらに決済機能も追加していく。
アプリストアが活況ながら、費用対効果から多くのブランドやパブリッシャーがモバイルアプリ開発の予算を削減したのを尻目に、ホテルチェーンのヒルトン(Hilton)はモバイルアプリの効果を実感している。
ヒルトンが同社のゲスト・ロイヤルティ・プログラム、「ヒルトン・オナーズ(Hilton Honors)」で提供するアプリは現在、同社の宿泊予約を牽引している。ヒルトンのグローバルマーケティング担当バイスプレジデントのスチュアート・フォスター氏によると、ウォルドーフアストリア(Waldorf Astoria Hotels and Resorts)やダブルツリー(DoubleTree)、ハンプトン(Hampton)など同社が保有する全14ブランドの総予約件数の20%が、現在モバイルアプリからの予約であるという。
フォスター氏は、2014年のアプリ導入で、全ブランドを通してヒルトンがめざす「ホスピタリティ能力」を著しく向上できたという。ホスピタリティこそホテル予約時に利用者がもっとも重視するものであり、チェックインの自動化などでそれを実現する「アプリの活用が爆発的に増加している」と同氏は指摘する。
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新たに、Amazonアカウントとも連携
ロイヤルティ・プログラムの6600万人のメンバーは、ヒルトン・オナーズ・アプリを利用して、同社が世界各国で展開する5000軒以上のホテルを検索・予約できる。アプリ限定の最安料金での直接予約も可能だ。メンバーはほかにも、過去の予約履歴閲覧、旅行に関する情報収集、無料WiFiサービスの利用、予約時ヒルトン・オナーズ・ポイントで500ボーナスポイント獲得といった特典が受けられる。
さらに、9月19日からは、Amazonとヒルトン・オナーズのアカウントをリンクすることで、ヒルトン・オナーズ・ポイントをAmazonでのショッピングに使えるというサービスを開始した。ヒルトンは、クレジットカードブランド以外ではAmazonがアカウントリンクによってショッピングに活用できる初の試みとなる。今後も他企業と同様の動きが拡大することになるだろう。
この新サービスは、アプリを開いて最初に表示される「オファーを探す(Find Offers)」ボタンの下に掲載されており、リンクをクリックすると、ポイントを使ったAmazonショッピングの説明ページに飛ぶ。「新しいサービスによりメンバーは、いままで以上にフレキシブルにポイントを利用できるようになる」とヒルトンのカスタマーエンゲージメント、ロイヤルティ、パートナーシップ担当シニアバイスプレジデント兼グローバルヘッドのマーク・ワインスタイン氏は声明で述べている。
チェックインもスマホで簡単に
ヒルトンでは同時に、アプリに「デジタルキー」機能をもたせることも進めてきた。スマートフォンをキー代わりに使えば、宿泊客はホテルフロントでのチェックインなしに部屋に入ることができる。フォスター氏はこの機能について、宿泊客の利便性を高めるだけでなく、スタッフがチェックイン業務ではなく、宿泊体験の向上に集中するうえでも有効だと説明する。「スタッフは、単にフロントデスクで宿泊客の手続きを行うのではなく、より心のこもったホスピタリティを提供できるようになるはずだ」とフォスター氏は言う。
デジタルキー機能は好評を博しているようだ。2015年8月の機能導入以来、デジタルチェックインの回数は約3000万回、アプリから300万のルームキーがダウンロードされ、スマホからの入室回数は1360万回以上に上るという。
ホテル業界では先駆者
デジタル調査会社L2によれば、ホテルのモバイルアプリは単一機能のものよりも多機能のものの方が、Apple App Storeのランキング上位につくことができる。同社が8月に発表した「ホテルズ:モバイルイノベーション2017」レポート(311のホテルブランドのアプリを分析)によると、ホテルブランドの90%は独自のモバイルアプリを提供しているが、Apple App Storeの旅行関連アプリ部門でトップ1500位以内にランクインしたのはわずか14%にとどまったという。
さらに同部門でトップ30にランクインしたホテルブランドは、ヒルトン・オナーズとマリオットインターナショナル(Marriott International)のみだった。同レポートは、ヒルトンのほかにラディソンレッド(Radisson Red)やヴァージンホテル(Virgin Hotels)、Wホテル(W Hotels)といったホテルチェーンが、アプリ活用で、チェックイン手続きを簡便化してフロントデスク業務をなくすことで、宿泊客への各種サービス向上を試みているとしている。
アプリ開発に多額の投資
とはいえ、これらを可能にするテクノロジーは決して安くはない。ヒルトンの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるジェラルディン・カルピン氏は、デジタルキー機能の開発と導入に1億ドル(100億円)を、ホテルの管理システム全体にテクノロジーを導入するためのインフラ整備に5.5億ドル(550億円)を投じたことを、ファイナンシャル・タイムズ(Financial Times)紙のインタビューで明らかにした。ヒルトンは2018年初頭を目標に、世界中で展開するホテルの半数以上にデジタルキー機能導入を拡大する予定だ。
フォスター氏は、アプリの開発・導入にかかった全体の投資額は明らかにしていないが、アプリを含むデジタルチャネルにマーケティング予算の40%を割り当てていると語る。また、ヒルトンでは年に13回以上アプリのアップデートを行っており、次回のアップデートでは決済機能を追加する見通しであることも明かした。「アプリを進化させ、より簡単に直感的に操作できるアプリにし、宿泊客にさらなる利便性を提供したい」と同氏は抱負を述べる。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:SI Japan)