「メディア化」が加速する、高級 スポーツジム の裏事情:「これはお遊びではない」

いまや、スポーツジムのサイクリングのクラスにもメディアを導入できる時代になった。収益を増やす手段として、メディアに手を出す高級スポーツジムやフィットネススタジオが増えてきている。

これは、新規・既存の顧客や市場を惹きつけるための基本的なコンテンツマーケティングの一歩先を行く戦略だ。こうしたブランドでは、出版物や動画・音声商品を制作し、内製のメディアチームを立ち上げて、ブランドにはディスプレイ広告やイベントのスポンサー契約などへの出資を促している。フィットネスジムが、すでにタレント性があり、SNS上でも数多くのフォロワーやコンテンツのアイデアを持ったフィットネスインストラクターを抱えていることからも、これは多くのブランドにとって確かなマネタイズの手法となってきているのだ。健康志向のコンテンツに対する関心が高まっていることも、それを後押ししている。

雑誌中心のエクイノックス

高級ジムチェーンのエクイノックス(Equinox)は、メディアビジネスへの注力を強めてきている。2019年には高級ホテルやクライアント向けのレクリエーション体験のシリーズを展開する予定だ。

同社にはファーザーモア(Furthermore)という雑誌があるが、この創刊10年の歴史を持つ雑誌は2016年に復刊し、現在はスポンサーであり広告収入源ともなっているアメリカンエキスプレス(American Express)、ラ・メール(La Mer)、そしてスリープナンバー(Sleep Number)などのクライアントとともに、本格的にメディアビジネスに取り組んでいる。

ファーザーモアの読者の多くはエクイノックスの会員ではないと、CMOのビムラ・ブラック・ガプタ氏は語る。テキストや音声(ポッドキャストのシリーズも持っている)、動画(ハウツーもののフィットネス動画の制作)などのメディア資産を構築することの究極の目標は、同社が事業を開始してからというもの、決して「お遊びでやってきたのではない」と、彼女は語る。

「高級ブランドとのスポンサー契約や活性化ができているというのは、我々にとってかなり大きい。旅行やホスピタリティに関わるブランドとの仕事が増えてきている。ポイントは、チョイスブランドでなければならないというところだ。我々は、彼らにアクセス権を与えることができる」。

ソウルサイクルはライブに注力

ニューヨークに拠点を持つフィットネスジムのチェーン、ソウルサイクル(SoulCycle)では、ライブイベントや連載番組を使ったメディアコンテンツに力を入れている。

たとえば、あるコンサートのシリーズでは、ライダーグループでパフォーマンスを行うセレブリティや、そのほかのイベント参加者にスポットを当てている。なかでも、2018年10月にニューヨークのハーレム地区で行なわれたコンサートでは、300人規模の演者が参加し、スピーカーブランドのボーズ(Bose)や、ウォッカブランドのケテルワン(Ketel One)がスポンサーとなった。

メディアのチームはコンサートの様子を動画に記録してSNSで公開。特に力を入れていたのは56万9000人のフォロワーがいるインスタグラム(Instagram)だ。それ以来、このブランドはラスベガスやロサンゼルスでコンサートを開催している。

この企業はまた、オリジナルの楽曲やポッドキャストなど、Appleミュージック向けのコンテンツ制作も行なっている。

動画に関しては、この会社は特にインスタグラム向けの連載コンテンツや番組を制作してきた。そのなかには、ソウルサイクルでトレーニングバイクに乗っている有名人にインタビューする「レジスタンス(Resistance)」というシリーズも含まれる。デスティネーション・ソウル(Destination Soul)というシリーズでは、ミネラルウォーターのブランドのフィジー(Fiji)をスポンサーに迎え、インストラクターに会うために、コロラド州のアスペンやマサチューセッツ州のマーサズ・ヴィニヤードなどを訪れている。

こうしたメディア戦略の陣頭指揮をとるのがグレッグ・ギットリッチ氏だ。彼は2018年にデジタルメディアやメディアオペレーション部門のトップとしてソウルサイクルに転職し、現在はこのブランドのCCOを勤めている。ギットリッチ氏は、それまではマッシャブル(Mashable)の編集者だった。2019年4月現在のソウルサイクルのメディア部門では、20人が働いている。

エージェンシーたちの視点

ソウルサイクルやそのほかの企業のように、こうしたメディア戦略に手を出している企業の理念は、キュレーションコンテンツによるマーケティングで新規の顧客や市場を惹きつける、という従来の基本的な戦略を超えて、収益をもたらしてくれるような強固なメディアビジネスを生み出すことだ。

「これは賢い戦略であり、彼らが築き上げた大きなブランドを最大限活用するための素晴らしい手法だ」と、ハバス(Havas)のSVPとグループディレクターを兼任する、ノア・キング氏は語る。

広告バイヤーであり、ウェーブメーカー(Wavemaker)でエクスペリエンス、コンテンツ、スポンサーシップの部門を率いるノア・マリン氏は、この発想は真新しいものではないと語る。ゴープロ(GoPro)やレッドブル(Red Bull)などのブランドは、自身のコンテンツを構築すること自体をビジネスとして成り立たせてきた。

「ソウルサイクルのような企業にとって、コンテンツとイベントの融合、そしてブランドのオーディエンスが本当に大事だと思えるようなコンテンツと一体となれる能力こそが魅力になる」と、マリン氏は語った。

エクイノックス(ソウルサイクルの親会社)とソウルサイクルは2018年7月、WMEの支援協力のもとで、タレントのマネージメントエージェンシーを立ち上げた。そこは社員、つまりインストラクターが自分自身の能力で熱狂的なファンを持つソーシャルスターに成り上がるための場所だ。このエージェンシーの理念は、より多くのスポンサー契約を取れるようにブランドを導くことだ。

メディアを買収したペロトン

こうした、メディア面での野心をもっとも前面に押し出しているのが、ペロトン(Peloton)だ。ペロトンはメディア企業との違いを引き合いに出し、自らを「Netfilx(ネットフリックス)と同類だ」と公言している。この会社は1日に48のレッスンをライブ配信しており、そのすべてをニューヨークにある3つのスタジオで制作。サイクリング、トレッドとヨガのスタジオはすべて、ロボット制御の複数のカメラを使って生放送のコンテンツを配信している。

2018年の夏、ペロトンはアタランタ州に拠点を置く、ストリーミングと音楽をキュレーションする企業のニューロティックメディア(Neurotic Media)を買収した。その企業理念は、テクノロジーを使って、ペロトンの会員がトレーニングバイクに乗りながら聞く音楽の体験を向上することだ。

メディア企業には付きものとなる問題がある。ペロトンは2019年3月、10社の音楽出版会社から、ライセンス違反に関わる1.5億ドル(約168億円)の訴訟を受けた。ペロトンはその訴訟に関する本記事へのコメントや幹部の人名を公表することはできないと語った。同社は2019年には新規株式公開(IPO)を行うつもりなのではないかと言われている。

コンテンツのあり方に疑問の声

ジムでの激しいトレーニングを課すことで知られるオレンジセオリー(Orange Theory)のCMO、ケヴィン・キース氏は、メディアを企業経営の軸にして複数の歳入源を確保するのは極めて難しいと語る。さらに、それによって企業のブランドパーパスを弱めてしまうリスクがあると、彼は考えている。この企業はコンテンツ制作に強い会社であり、コンテンツ部門を率いる人材を採用したばかりで、社内で専門のメディアチーム構築しはじめている。

だがキース氏には、そのコンテンツでマネタイズするにはまだ少し早いと感じている。「信念が揺らいでいるわけではない。何を世に出すかについては慎重にならなければならない。コンテンツは、モチベーションを高めるツールとして作られるべきものだ」と、彼は語る。「テクノロジーがビジネスにとっての大きな力となったときにはじめて、テック企業になったと言える。テクノロジーが原動力だ。コンテンツとメディア、そしてコンテンツを作ることが、我々の原動力となるのだ」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:Conyac