ここ何十年ものあいだ、高級ブランドやデザイナーズブランドでは歴史あるファッションウィークでの宣伝や昔ながらの対面販売が基本で、オンライン販売に挑戦するブランドは限られてきた。だが米DIGIDAYの姉妹メディアであるグロッシー(Glossy)の編集長ジル・マノフ氏によれば、ここに変化の兆しが見られるという。
コロナ禍のなかで、各社はさまざまな面でより迅速な取り組みを重視してきた。それはファッション業界も例外ではない。
ここ何十年ものあいだ、高級ブランドやデザイナーズブランドのあいだでは歴史あるファッションウィークでの宣伝や昔ながらの対面販売が基本で、オンライン販売に挑戦するブランドは限られてきた。だが米DIGIDAYの姉妹メディアであるグロッシー(Glossy)の編集長ジル・マノフ氏によれば、ここに変化の兆しが見られるという。
「ブランドはある意味、排他性を重視してきた。ウェブサイトに商品を掲載すれば売上のチャンスになる一方、誰でも気軽にアクセスできるようになってしまう」と同氏は語る。
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だが米国で百貨店や高級店が営業できないなか、ブランドも従来と異なるカスタマーとの関わり方を検討せざるをえなくなっている。これはマイケル・コース(Michael Kors)やラルフローレン(Ralph Lauren)といったトップデザイナーズブランドですら同様で、これらブランドの業績報告を見ると四半期収益は8割近く減少している。
その結果、ブランドが潜在顧客を見つけるためのチャネルとしてインスタグラムなどのデジタルプラットフォームやアプリを用いた直接販売が注目を集めている。
米DIGIDAYが毎週お届けしている番組「ザ・ニュー・ノーマル(The New Normal)」の最新エピソードではマノフ氏がDigiday Mediaのプレジデント兼編集長のブライアン・モリッシー氏と対談。ファッション業界でこれまでの事業運営を続けることの難しさと、今の高級ブランドにとってのビジネスチャンスについて議論を行った。なお、ふたりの対談動画は、記事下部にある、原文リンクから見ることができる。
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パンデミックを通じてさらに伸びたインスタグラム
マノフ氏は、コロナ禍に端を発する経済危機のなかでスポーツウェアのアパレルブランドとインスタグラムは大きな成功を収めたと指摘する。前者は自宅待機のなかで快適に過ごすための部屋着を、後者はSNSによるひまつぶしを提供できるからだ。
それだけでなく、SNSのなかでもインスタグラムは次世代のデパートとしての役割を担いつつあり、大きなメリットがある。
マノフ氏はインスタグラムは「D2Cブランドが集うショッピングモール」と表現している。毎日のように現れる新ブランドを見つけるためのツールとしてインスタグラムは優秀であり、アプリ内購入も可能なショッピングプラットフォームとして機能している。ファネル上部の知名度向上から下部のダイレクトレスポンス販売にいたるまで、広告ツールとしても優れている。「インスタグラムはあらゆる面で便利な、完結したツールになっている」とマノフ氏は評価している。
コロナ禍の爪痕
何年も前から苦戦を強いられてきたインドアのショッピングモールやデパートだが、コロナ禍とソーシャルディスタンスにより数カ月客足が途絶え、改めて大きな危機を迎えている。
「かつてデパートは何でも揃う場所として重宝されていた。新しいものを見つける便利な場所、それはデパートだったのだ」とマノフ氏は語る。それが今や、次の流行りを見つける場所はインスタグラムに移りつつある。それだけでなく、商品の配送時間も早くなり、実店舗に足を運ぶより便利に感じる人が増えている。
パンデミックで打撃を受けたのはファッションウィークも同様だ。ファッションウィークはこれまで最新ブランドやデザイナーブランドの売出しの場として機能してきた。だがコロナ禍が長引くなか、年に何度も世界中から何百人もの参加者を集めることは、少なくとも短期的には難しい。そこで代替として、オンラインやバーチャルなコレクションの開催が行われている。
初の割引を行うブランドが増えている
マノフ氏は、これまでセールや宣伝をしてこなかったブランドも、あからさまにではないがそういった手段をとるようになりつつあると指摘する。
「ファンシーに表現したり、別のウェブサイトを設けて『アウトレット』と呼んだりしているが、実質的には割引にほかならない」と同氏は語る。
これは営業できなかったり客足が減ったりしたことでデパートなどの店舗の注文が減ったことに起因する。言うなれば、デザイナーズブランドは春物や夏物の売れ残りの在庫が山のようにある状態なのだ。
さらにAmazonで販売を開始したデザイナーブランドも存在する。これについてあるデザイナーはマノフ氏に「もはや逃げ道がない状態」と語ったという。「以前であれば批判を受けるような方法でも、現在は批判されない」。
紙媒体の広告は難しい状況
ファネル上部のマーケティングを担う紙媒体の雑誌や広告だが、不況のなかでダイレクトレスポンス広告がボトムラインにより直接的な影響を与えると考えるマーケターが増えている。
マノフ氏は、イタリアのデザイナーズブランドでは紙媒体を再開するところもでてきたが、ヴォーグなどのファッション雑誌ではダイレクトレスポンスにより熱心な傾向にあると指摘している。「グッチなどの例外はあるが、多数のオーディエンスにリーチできない状態の紙媒体に多額を投じるブランドは少ない」と同氏は語る。「インスタグラムに全力を投じているブランドは多いが、紙媒体を利用しているブランドはごくわずかだ」。
[原文:High-end fashion is finally joining the shift to digital]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)