プログラマティックを自社内で行うには太い神経が要求される。ベーシックなテックスタックだけでも毎月何万ドルもかかることがあるのだ。この状況にもめげずに取り組もうと思っている広告主たちは、次のような要素を理解する必要がある。
プログラマティック広告をインハウスで実行には、図太い神経が要求される。これはボーダフォン(Vodafone)も同意するだろう。プログラマティックが要求するコスト、時間、社内での作業の多さは広告主の想像を越える。ベーシックなテックスタックだけでも毎月何万ドルもかかることがあるのだ。
良いセットアップには接続の良いテックスタック、高度なアナリティクス、そして技術のあるチームが運営のために必要となる。透明な方法で広告を購入するのであればエージェンシーにお金を払ってやってもらうほうが簡単である可能性があるのだ。
このプロセスにもめげずに取り組もうと思っている広告主たちは、次のような要素を理解する必要がある。
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人材
複数のビジネスに取り組んでいるトレーダーを説得して、エージェンシー業界から離れて若いチームに参加してもらい、以前よりも小さい規模のビジネスに取り組んでもらうためには多額のお金が必要となる。エグゼクティブたちが給与を承認したとしても、広告主たちはトレーニング、再トレーニングに支出が必要となる。
「ネットワークやパブリッシャーと強い直接の関係を築いてくれる外交的なスタッフが必要になる。プログラマティックはただ『コンセントを差し込んだらはじまる』といった類のソフトウェアではなくなった。それが通じるのはロングテールの在庫のみだ」と語るのは、デジタルメディア・コンサルティング企業デジタル・デシジョンズ(Digital Decisions)のマネージング・パートナーであるルーベン・シュルーア氏だ。
英国におけるプログラマティック・トレーダーに払われる平均的な給与は3万2600ポンド(約480万円)だ。しかし、求人検索エンジンのIndeed(インディード)によると、アメリカではその金額は6万4400ドル(約720万円)に跳ね上がる。また、その後、プログラマティック・アナリストに昇進すれば、英国では6万ポンドから7万ポンド(約890万円から1040万円)、アメリカでは7万1300ドルから8万186ドル(約800万円から900万円)になる。
デマンドサイド・プラットフォーム(DSP)
DSPを購入するにはメインのふたつの方法がある。ひとつはベンダーのプラットフォームにおける広告支出の一定のパーセンテージをベンダーに支払うというもの。セルフサービスのソリューションであれば、この割合は10から15%が通常だ。もうひとつの方法は入札をリースするというものだ。月によって支出額が異なる広告主には、最初のモデルが最適だ。2番目のモデルは各月のセットの支出におけるコストの透明性を増したい、効率性をなんとかして向上させたいと思っている、より洗練された広告主に向いている。プログラマティク広告を買うベーシックな入札の場合は、ライセンス料は月2万ドル(約220万円)ほどから開始される。インプレッション数やマーケットという点でオーディエンスのバイイングが大きければ大きいほど、DSPが処理するデータの量は増え、そのためコストも大きくなる。
データ管理プラットフォーム(DMP)
DSPはキャンペーンデータを収集するが、サードパーティやセカンドパーティからのオーディエンスデータは収集しないのが通例だ。つまり、そのままではデータ管理プラットフォーム(DMP)が行ってくれるようなバイイング・キャンペーンの最適化に必要なデータが欠けることを意味している。オンライン・キャンペーンの最適化以外には、DMPはまた、アトリビューション、コンテンツのカスタマイズ、そしてオーディエンスの分析を行うことができる。ベーシックなDMPを利用するには1年間で約6万ドル(約670万円)ほどコストがかかる。
さらにデータを最大限活用するために広告主が追加したいと考える、カスタマーサポートやストラテジーへのアクセスといったサービスは、この料金には含まれない。また、アドテクすべてにおいて、そうであるように、DMPに注がれるデータが増えれば増えるほど、プロセスは高価になると、アドテク企業アイオテック(Iotec)の元CEOであるポール・ライト氏は語る。一般データ保護規則(GDPR)が施工され、ユーザーの承認を得るための同意管理プラットフォーム(CMP)が登場したことで、これもコストの要素として加えられることになると、ライト氏は説明する。
アドテク・スタックの運営コスト
プログラマティックを自社で運営することは、ただDSPの契約を行うというだけではない。オークションに参加するためのコストも考慮しなければいけない。プライベート・マーケットプレイス、セカンドパーティのデータ取引といった要素が入ってくると、特にだ。作業量としても大きなものであり、自社持ちのアドテク・スタックがビジネスに生む価値は、それを構築するためのコストやエネルギーよりも大きいものでないといけない。コストはパートナーを組むパブリッシャー、使われるソフトウェア、雇用されているスタッフによる。
「ダイレクト・リアルタイム入札(RTB)には契約の交渉や技術的な優先順位付けに何カ月も要する。トレーディングに関連する関係は個別に処理されるからだ。さらに、プラットフォームが新しい地理マーケットに参入しようとしたり、他のメディアチャンネルに拡大しようとすると、このプロセスは非常に大きなボトルネックになってしまい、トレーディングや収益のスケーリングが阻まれることになる」と、アドテク企業アイポンウェブ(IPONWEB)の戦略開発シニア・バイスプレジデントであるシェーン・シェヴリン氏は言う。
テック手数料
DSPやアドサーバー、そして承認プロバイダーが広告主と直接取り引きをし、ネットワーク・エージェンシーたちの力を減らそうとするにつれて、こういった手数料について広告主たちも興味を持ちはじめている。プログラマティック・エグゼクティブたちは、広告主と直接やり取りをする際の料金は、多くが考えるよりも競争力のある値段となっているという。しかし、ホールディング・カンパニーが、彼らが抱えるすべてのクライアントを代表して交渉した結果得られる料金の方が、単一の広告主が支払う料金よりも通常は低い。
「パブリッシャーたちと契約を結ぶ際に、メディアエージェンシーと同じくらいの交渉力を持つような広告主は多くはない。自分のメディアを購入することに関して真剣なのであれば、それによって達成されるクオリティのコストと、メディアエージェンシーが持っている交渉力を考慮する必要がある」と、メディアマス(MediaMath)のマーケティング戦略コンサルティング部門を率いるパーカー・ノーレン氏は言う。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)