「スキンケア」に殺到する、デザイナーブランドたちの思惑

現在、スキンケアはビューティ市場でもっとも好調なカテゴリーのひとつだ。そして、ファッションデザイナーが利益を得るべく、こぞって参入している市場でもある。

11月には、ビクトリア・ベッカム氏がドイツのブランド、アウグスティヌス・バーダー(Augustinus Bader)と手を組み、スキンケアラインを発表した。一般的に、デザイナーブランドはまず香水を発売するが、ベッカム氏は自身の香水を持っていない(ただし、夫のデビッド・ベッカム氏は女性用の香水を発売している)。1月には、カルバン・クライン(Calvin Klein)のクリエイティブディレクターだったフランシスコ・コスタ氏がコスタ ブラジル(Costa Brazil)を発表している。5月には、ノーマ・カマリ氏のノーマライフ(NormaLife)も発表されており、その後、6月にマーク・ジェイコブス氏、8月にトム・フォード氏と続いた。ジェイコブス氏とフォード氏の場合、メイクアップ市場の鈍化への対抗手段だが、ほかのデザイナーにとって、スキンケアはライフスタイルブランドを構築するための手段だ。誤解のないように言っておくと、デザイナーブランドのスキンケアは決して新しいものではない。シャネル(Chanel)は1927年、ディオール(Dior)は1986年、ブランド初のスキンケア製品を発売している。

香水ブランドではない

コスタ氏は2016年にカルバン・クラインを離れたとき、将来、ビューティブランドを立ち上げたいと考えていた。当初のアイデアはやはり、香水からはじめることだったが、ライフスタイルブランド初の製品として「弱い」と感じたため、香水の発売は見合わせた。コスタ ブラジルは顔と身体に使用できるオイル、ボディクリーム、キャンドル、インセンス(お香)を販売するクリーンビューティブランド。価格帯は54~165ドル(約5800〜1万7900円)だ。

「最初に香水を発売するのはやめることにした。コスタ ブラジルが香水ブランドではないことをわかってほしかったためだ」と、コスタ氏は説明する。「デザイナーフレグランスをけなすつもりはない。私はデザイナーで、香水をデザインしたこともある。それでも、香水を発売するためにカルバン・クラインを離れたと思ってほしくなかった」。

NPDグループ(NPD Group)のアナリスト、ラリッサ・ジェンセン氏によれば、デザイナーがまずスキンケア製品を発売することは一般的ではないという。通常は香水からはじめ、その先がある場合はメイクアップ、スキンケアという順番だ。シャネルはスキンケアに挑戦するまでに7年かかった。ディオールは39年、マーク ジェイコブスは6年だ。トム・フォード氏は2005年にグッチ(Gucci)を去ったとき、まず香水コレクションを発表した。2006年、トム フォード ビューティ(Tom Ford Beauty)から香水が発売された。

急成長中のカテゴリー

デザイナーにとっての課題は、スキンケアのイノベーターとして知られているわけではないということだ。スキンケアカテゴリー全体に占めるデザイナーブランドの割合はわずか2%で、11月現在、売り上げは前年から4%減少している。これに対し、ミュラド(Murad)、ドクター・バーバラ・シュトルム(Dr. Barbara Sturm)といったドクターブランドは4%、ドランク エレファント(Drunk Elephant)などの自然派ブランドは11%売り上げを伸ばしていると、ジェンセン氏は話す。一方、香水市場では、デザイナーフレグランスが売り上げ全体の70%を占めている。

「スキンケアは非常に専門性が高い。そのため、消費者はこのカテゴリーや皮膚、成分に詳しい人を頼りにしたいと思うのかもしれない」と、ジェンセン氏は分析する。「それでは、なぜこれほど多くのブランドがスキンケアに挑戦するのだろう? 結局、もっとも急成長しているカテゴリーだからだ」。

消費者が本当にデザイナーブランドのスキンケア製品を警戒しているとしたら、ベッカム氏が話題のアンチエイジングブランドと手を組んだこと、トム フォード ビューティがスキンケアラインをトム フォード リサーチ(Tom Ford Research)と名づけたことも納得できる(トム フォード ビューティは2020年、10億ドル[約1080億円]規模のブランドに成長する見込みだ)。それでも、難しいがうまみのあるスキンケアカテゴリーに最近参入したデザイナーブランドはすべて、これまでのところ好調を維持している(たとえブランド全体が不調でも)。

クリーンビューティの流行

ただし、ビューティブランドやフレグランスブランドを持っていなかったデザイナーは、クリーンビューティなどのトレンドに乗じた方がいいと、ジェンセン氏は助言する。小規模なブランドとして、手堅い販路を維持し、ターゲット顧客を絞りやすいためだ。ノーマライフもコスタ ブラジルもクリーンビューティブランドとして立ち上げられたため、流行のサブカテゴリーに参入しやすい。

カマリ氏は1993年、最初のスキンケアラインを発表。ウェルネスをベースにしたブランドで、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)のような百貨店で販売していたと、カマリ氏は振り返る。製品はキットになっており、カマリ氏自身がケースをデザインした。このブランドを進化させたのがノーマライフだ。カマリ氏に言わせれば、最初の挑戦は「時期尚早」だった。ノーマライフは石鹸成分を含まないクレンザー、エクスフォリエーター、モイスチャライザーなどの4製品から成り、価格帯は30~40ドル(約3200〜4300円)。持って生まれた美しさを磨くというコンセプトだ。

カマリ氏はノーマライフを持続可能なクリーンブランドとして売り込むつもりはなく、むしろ「時代を超越した成分、機能」を重視したいと話している。ノーマライフはNormaKamali.comのランディングページに表示されており、インスタグラム(Instagram)ページは約1400人のフォロワーを獲得している。6万8000人以上のフォロワーを持つカマリ氏のインスタグラムチャンネルでも取り上げられている。

カマリ氏はウェルネスやスキンケアに大きな関心を持っているが、デザイナーであることがマイナス要素になり得ること、クリーンビューティに関するカマリ氏の知識を人々が真剣に受け止めない可能性があることを痛感している。

「(デザイナーであることは)最初から顧客基盤があるという素晴らしいチャンスをもたらしてくれる。しかし同時に、ノーマライフとノーマライフで行うすべてのことは、独自のアイデンティティを持つ独立した存在であるべきだと考えている」。

市場の低迷を招く恐れ

デザイナースキンケアというサブカテゴリーがこのまま膨張すれば、一部のデザイナーが参入を決意するきっかけとなった問題、つまり、市場の低迷を招く恐れがある。NPDグループのデータによれば、メイクアップ市場が鈍化している一方で、スキンケアは2017年から成長を続けている。通常、市場はシーソーのように動くと、ジェンセン氏は述べている。今回が通常と異なるのは、メイクアップはこのまま減速し、2020年、ふたつの市場がどのように作用し合うかがはっきりするということだ。

「スキンケアブランドは数え切れないほどあり、このままいけば、消費者の目には、まるで市場が麻痺しているように見えるだろう」と、ジェンセン氏は話す。「皆が同じものを追いはじめたら、消費者はどこかの時点でうんざりするかもしれない」

Emma Sandler(原文 / 訳:ガリレオ)