記事のポイント Faze Clanは経費の増加と無駄遣いが続き、2021年から2022年にかけて売上が減少。戦略なき支出が売り上げを大きく上回り、組織にダメージを与えた。 社会問題への無神経な対応や経営上の問題も抱えてお […]
- Faze Clanは経費の増加と無駄遣いが続き、2021年から2022年にかけて売上が減少。戦略なき支出が売り上げを大きく上回り、組織にダメージを与えた。
- 社会問題への無神経な対応や経営上の問題も抱えており、スタッフの40%をレイオフした際に、対象スタッフとのミーティングを共有カレンダーで設定する無神経さ発揮した。
- 同じくeスポーツの上場企業であるゲームスクエアのポートフォリオに加わったことで、Fazeはブランドとしての強みに注力できるようになるかもしれない。
2019年はじめに開かれた、全従業員が参加するFaze Clan(フェイズ・クラン)のスタッフミーティング。そのとき、同eスポーツ組織の当時のCEOだったリー・トリンク氏は、天に向かって拳を突き上げ、その輝かしい未来をスタッフに約束して、彼らの興奮をあおった。
「この先、我々のレガシーについての本が何冊も書かれるだろう」と、トリンク氏は言った。
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ある意味、その言葉は正しかった。というのも、1冊の本でも書かなければ、Faze Clan崩壊の物語を正確には伝えきれないからだ。その崩壊は、10月に発表されたゲームスクエア(GameSquare)による買収でクライマックスを迎えた。予想買収額は、Faze Clan株の初値と比較するとごくわずかとなる、およそ1600万ドル(約24億円)だ。
業界関係者の多くは、このとどめの一撃の原因は、同社が下した2022年7月の上場という決断にあるとしている。しかし、米DIGIDAYが取材したFaze Clanの元スタッフ8人によれば、その事業をめぐる深刻な問題の数々は、もっと前からくすぶっていたという。
10月に起きたFaze Clan崩壊の根源には、いったい何があったのだろうか? この記事では、(本1冊分とはいえないが)その謎の解明に迫ってみたいと思う。なお、Faze Clanにも取材を申し込んだが、公式のコメントは得られなかった。
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戦略的方向性の欠如
Fazeが投資家に向けて発するさまざまなメッセージには、矛盾が見られた。そこからうかがい知れるのは、同社のピークといっていい2019~21年に舵を取っていた首脳陣に、戦略的方向性が全般的に欠けていたということだ。このピークの時期に、Fazeは同社にとって最も華々しいブランドパートナーシップをいくつも結び、メディアにバズの波を次から次へと生み出した。当時、Fazeのスター性は高まりつつあり、マクドナルド(McDonald’s)や日産(Nissan)といったブランドとの大口契約を立て続けに結んだ。
「2021年から2022年は、ある意味、Fazeの栄光のピークだった」と、同社の元幹部が匿名を条件にDIGIDAYに語った。
Fazeの投資家にとって不運なことに、同社の支出は売上をはるかに上回るペースで膨らんでしまった。
Fazeの公的書類によると、同社の2021年の営業経費は3710万ドル(約55億6500万円)だった。それが2022年には5940万ドル(約89億1000万円)にまで増加して、同年に5320万ドル(約79億8000万円)の損失を計上した。同社はライブショッピングeコマース企業のネットワーク(NTWRK)とグッズ契約を結んで業務提携したが、前述の元幹部によれば、それは「世界一最悪な契約」だったという(この契約で取り決められた売上の具体的な配分は不明だが、Fazeの公的書類によれば、同社の消費者向け商品の売上は、2021~22年にかけて、590万ドル[約8億8500万円]から350万ドル[約5億2500万円]に減少している)。
「グッズはFaze Clanの稼ぎ頭のひとつだった」と、この元幹部は語る。「それが、ネットワークとのパートナーシップが入り込んできた瞬間、そのほとんどを取られることになってしまった。その割合は私にはわからないが、このパートナーシップのせいで、もうグッズでは儲けられなくなっていることだけは確かだ」。この件についてのコメントをFazeとネットワークに求めたが、どちらからも回答はなかった。
意味のない浪費が続く
こうしたFazeの適当すぎる支出は、2021年にも発生している。それは、同組織がトティーノズ(Totino’s)とスポンサーシップ契約を結んだときだった。その契約の目玉は、Fazeのメンバーでラッパーのリル・ヨッティが出演するブランデッドコンテンツだった。Fazeの元従業員によれば、Fazeのスタッフがヨッティ氏のチームと調整を行い、ヨッティ氏がラスベガスでライブを行う6月1日に同市でビデオ撮影を行う予定を立てたという。しかし、一同が驚いたことに、Fazeの上層部が一方的に撮影を前倒しし、そのせいで同社はヨッティに2倍のギャラを払う羽目になった。
浪費はさらに続いた。2021年、Fazeは数十万ドルを費やして、メンバーが住居や撮影セットとして使うための大邸宅をロサンゼルスに借りた。公的書類によると、2022年にはFazeの賃貸料は全体で154万ドル(約2億3100万円)にまで増加していた。同年7月、同社は170万ドル(約2億5500万円)を費やして、ミュージシャンのトラヴィス・スコット氏が出演するプライベートパーティーをサンディエゴで開いた。公的書類によると、こうした浪費が続くなかで、Fazeの経営トップは数十万ドルの給与を受け取っていた。
2022年3月、ラッパーのスヌープ・ドッグがFazeの取締役会に加わることが決まった。これもまた、無駄に金ばかりがかかる大失策だった。一説では、ドッグ氏は契約の一部としてFazeの株式で数百万ドルを受け取ったという。同社の元幹部によれば、そこにはドッグ氏が、Fazeのスポンサーのためのブランデッドコンテンツやアクティベーションに参加してくれるはずだという期待があったという。
「だが、その期待は裏切られた。ドスヌープ・ドッグは我々のブランド契約に何の関心もなかった。彼の基準では、そのカバン(報酬)の大きさは十分ではなかったのだ」と、同氏は語る。「結局、これには何のメリットもなかった」。
そして2023年4月、スヌープ・ドッグはFazeの取締役を辞任した。
今年10月にゲームスクエアに身売りする段階になっても、Fazeのマネタイズ戦略は大して進化しておらず、今日の大型eスポーツチームの大半が追い求めるブランドパートナーシップ戦略の範疇を超えるものではなかった。2023年、潜在的なスポンサーへのFazeの魅力が干上がるなか、このビジネスモデルで同社がどこまで持ち堪えられるのかは定かではない。
マーケティングエージェンシーAFKのCEO、マシュー・ウッズ氏は、こう語る。「(ゲームの)エンデミックブランドなら、自社の最新ゲームコントローラーを販促するための当然の選択肢として、それでもFazeを選ぶだろう。だが、Fazeの夢がエンデミックブランドとの提携だったとは、私には思えない」。
進行中の問題
いったいどういうわけで、こんなにも多くの失敗が許されたのだろうか? それを理解するには、Fazeの価値観と、それが目まぐるしく入れ替わる同組織のタレントに及ぼした影響を理解することが重要だ。
多くのスタッフに退社を決断させた要因のひとつは、社会問題に対してFazeが時折示す、無神経な対応だった。
たとえば、NBAマイアミ・ヒートの所属選手であり、Fazeのメンバーを自称するマイヤーズ・レナード氏の一件がそうだった。2021年3月配信のライブストリームのなかで、同氏は反ユダヤ的な表現を使った。しかし、Fazeがこの問題に対処したのは、レナード氏のスポンサーであるオリジンPC(Origin PC)とスカフ・ゲーミング(Scuf Gaming)が同氏の発言を否定する声明を発表した数時間後のことだった。
これにFazeのスタッフたちは不満を抱いた(ちなみに、レナード氏はFazeの投資家であり、有給の正式なチームメンバーではなかった)。Fazeのメンバーであるタラル・“バイラス”・アルマルキ氏が、2022年6月に反LGBTQ的なツイートを投稿したときも、Fazeはこの件について公式のコメントを出すことを拒み、アルマルキ氏は翌年の1月まで団体の所属選手のままだった。
「いまのFaze Clanを見て、『いい条件を提示してくれるのなら、契約してみようじゃないか』と思うようなところは、これまでに仕事してきたブランドのなかにはひとつも思い浮かばない。ブランドセーフティや評判といった基本的なことを考えれば、そんなことはとても無理だろう」と、エージェンシーのプリズム・スポーツ・アンド・エンターテインメント(Prism Sport + Entertainment)でゲームおよびeスポーツ部門担当責任者を務めるグラント・パターソン氏は語る。「Fazeがやるべきは、体制を整えて、いま直面している問題の解決に取り組むことであり、それは明らかだ。再びパートナーシップを通してビジネスを成長させられる商機がそこにあるかどうかを確かめるのは、それからだ」。
Fazeのカルチャーにおける争いのなかには、経営をめぐる社内の問題もあった。経営トップのメンバーはミーティングの場でいつも怒鳴り合い、その声が一般社員の耳に届くこともしょっちゅうあった。Fazeが今年5月にスタッフの40%をレイオフしたときには、経営陣はその対象となるスタッフとのミーティングを、共用のオンラインカレンダーを使って設定していた。同社の元従業員の話では、そのせいで、本人がそのことを知る前に、他の社員がレイオフの対象者を簡単に確認できたという。
最終的な成功のために必要な失敗?
それでも、Faze Clanの物語はまだまだ終わらない。
同社は億単位のファンベースを持ち、優勝経験を持つeスポーツチームを複数率いている。同じくeスポーツの上場企業であるゲームスクエアのポートフォリオに加われば、ゲームスクエア傘下のその他のeスポーツおよびゲームプロパティに実際のビジネスとしての欠点を補わせることで、Fazeはブランドとしての強みに注力できるようになるかもしれない。
スカイバウンド・エンターテインメント(Skybound Entertainment)とゴール・ベンチャーズ(GOAL Ventures)のM&Aエキスパートであるネッド・シャーマン氏は、「Web 1.0のころを思い出してほしい。その当時、最終的に大成功を収める企業のために、道を切り開いた企業が数多くあった。これらのモデルには類似点もあったが、タイミングが合っていなかった。テクノロジーもなかった。融資も干上がっていた」と語る。「そして、Web 2.0の時代が到来し、こうした大成功が散見されるようになった。いまeスポーツでも、これと同じようなことが起きているのかもしれない」。
そしてもしかすると、いままさにその渦中にいるのが、Faze Clanなのかもしれない。
[原文:Here’s what ultimately led to the fall of FaZe Clan]
Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)