記事のポイント Faze Clanの「崩壊」は、初値と比べ大幅な低額での買収でクライマックスを迎えたが、元スタッフによると2022年の上場決定より以前から同チームの運営に深刻な問題があったという。 特にチームの崩壊を早め […]
- Faze Clanの「崩壊」は、初値と比べ大幅な低額での買収でクライマックスを迎えたが、元スタッフによると2022年の上場決定より以前から同チームの運営に深刻な問題があったという。
- 特にチームの崩壊を早めたのは、ビジネスとしてのFazeとブランドとしてのFazeの乖離で、透明性や倫理的な問題を抱えることになった。
- 投資家へのピッチは時が経つにつれてトーンダウンし、期待されていた収益予測や事業計画から具体的な数字が消えていった。
2019年はじめに開かれた、全従業員が参加するFaze Clan(フェイズ・クラン)のスタッフミーティング。そのとき、同eスポーツ組織の当時のCEOだったリー・トリンク氏は、天に向かって拳を突き上げ、その輝かしい未来をスタッフに約束して、彼らの興奮をあおった。
「この先、我々のレガシーについての本が何冊も書かれるだろう」と、トリンク氏は言った。
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ある意味、その言葉は正しかった。というのも、1冊の本でも書かなければ、Faze Clan崩壊の物語を正確には伝えきれないからだ。その崩壊は、10月に発表されたゲームスクエア(GameSquare)による買収でクライマックスを迎えた。予想買収額は、Faze Clan株の初値と比較するとごくわずかとなる、およそ1600万ドル(約24億円)だ。
業界関係者の多くは、このとどめの一撃の原因は、同社が下した2022年7月の上場という決断にあるとしている。しかし、米DIGIDAYが取材したFaze Clanの元スタッフ8人によれば、その事業をめぐる深刻な問題の数々は、もっと前からくすぶっていたという。
10月に起きたFaze Clan崩壊の根源には、いったい何があったのだろうか? この記事では、(本1冊分とはいえないが)その謎の解明に迫ってみたいと思う。なお、Faze Clanにも取材を申し込んだが、公式のコメントは得られなかった。
固く結ばれ、そして解けた絆
物語は、Faze Clanが上場を決断した2019年から、さらに数年前にさかのぼったところから始まる。当時のFaze Clanはまさに成功の波に乗っていた。本格的な資金援助を受け、ミーゴスのラッパーであるオフセットや、バスケットボール選手のベン・シモンズといった、エンターテイメント界のビッグネームからの支持も獲得していた。チャンピオン(Champion)とのグッズ契約は大当たりで、わずか3時間で200万ドル(約3億円)の売上を達成した。さらには、起業家のジミー・アイオヴィン氏が主導した、文字どおりゲームチェンジャーとなったシリーズAラウンドも成功させた。
表向きには、Faze Clanの首脳陣は夢を築きつつあった。ところが、こうしたセレブの支持や運営資金、派手な宣伝の裏では、同組織が持つ、互いに異なる2つの強力な側面の亀裂が静かに広がっていた。ビジネスとしてのFazeが、ブランドとしてのFazeから枝分かれしてしまっていたのだ。
時代の最先端を行く、ストリート感覚に長けたエートスで、Fazeを初期の成功へと押し上げる原動力となってきたクリエイター創業者たちは、広告がストリーミングや大会からの収益を上回るFazeの主な収益源になるにしたがって、ゲーマーの集まりから企業へと生まれ変わりつつあるFazeから、疎外されているという感覚を強く抱くようになった。企業においてくすぶり続ける問題がそうであるように、Faze内の軋轢もついには沸点に達し、状況はさらに悪化した。
2023年の3~4月、リチャード・“バンクス”・ベントソン氏やノーダン・“レイン”・シャット氏いったFazeの創業者たちは、Fazeは「死に体」だ、「ビジネスのことしか考えない連中」が自分たちからFazeを奪い取ったと、ソーシャルメディアを使って訴えた。
この感情の爆発までの道のりは長かった。ここ数年、Fazeのクリエイターたちはいわゆるeスポーツチームの領域にとどまることなく、インディー系のパートナーシップやベンチャーを求めて独自に動く路線を強めるようになっていた。
透明性と倫理観の欠如
そのフラストレーションと憤りは諸刃の剣と化していた。
Fazeの営業チームが有利な条件でブランドとの業務提携を取り付けてきても、アクティベーションに必要な、約束したコンテンツの制作を彼らタレントが嫌がることはざらだった。Fazeの元スタッフ3人(匿名を希望)によれば、契約がまとまりクリエイターたちが関わるようになっても、こうした状況がいざこざへとつながったという。そこは、透明性の欠如や倫理的懸念を、いつ生んでもおかしくない温床と化していた。
たとえば、こんなことがあった。2022年10月、Fazeの首脳陣であるトリンク氏と元最高戦略責任者のカイ・ヘンリー氏は、ゲーム系インフルエンサーのアディン・ロス氏への10万ドル(約1500万円)への支払いを承認した。Fazeのある元スタッフによれば、Fazeが暗号通貨プラットフォームのムーンペイ(MoonPay)と結んでいるパートナーシップに関連する成果物への約定返済だと両氏は述べていたという。
その支払いが実際にはムーンペイのスケジュールに入っていないことをスタッフが指摘すると、両氏は彼らの懸念を無視して、何でもいいから処理するようにと、彼らに命じたという(この件についてのコメントをトリンク氏とヘンリー氏、ロス氏に求めたが、回答はなかった)。
こんなこともあった。2023年3月、ある有名ゲーム系インフルエンサーのマネージャーにFazeのスタッフが成果物の完成を証明するものを送るように求めた。インフルエンサーのソーシャルメディア投稿などがこれに当たり、これはブランドパートナーシップの一般的な要請だ。ところが驚くことに、そのマネージャーから送られてきたのは、そこには偽造された日付がロス氏のツイートの下に写る、不正加工されたスクリーンショットだった。
このことをFazeのスタッフは上層部に報告したが、何かしらの措置が取られることはなかったという(この件についてもFazeにコメントを求めたが、回答はなかった。米DIGIDAYがテキストのスクリーンショットとメールのやりとりを確認したところ、この出来事は実際にあったようだ)。
トーンダウンしていくピッチ
Fazeの首脳陣が期待のハードルを下げるようになったのは、同社が2022年に7億2500万ドル(約1088億円)でようやく果たすSPAC合併の数年前のことだった。
このことは、米DIGIDAYが入手した、2020~22年にかけてFazeが見込み投資家に向けて作成した3部のピッチ、Fazeと投資銀行のコーウェン・アンド・カンパニー(Cowen and Company)が2020年に発表した提案依頼書(RFP)、2021年10月と2022年7月の投資家向けピッチ資料を見れば明らかだ(2022年の資料の詳細はこちら)。
たとえば前述のRFPには、「有望な地域における独占権を含む、トップフランチャイズリーグで業界をリードするチームの所有権」が、Fazeの強みのひとつとしてリストアップされている。しかし、その次に発表された2021年のピッチ資料からは、「地域」や「フランチャイズ」という言葉は消えてしまっている。このころには、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)をはじめとする、特定の地域や都市に紐づいたチームが参加するeスポーツリーグ(従来のスポーツリーグモデルに似ている)はすでに衰退しており、こうしたジオロケーション型のeスポーツフランチャイズが金を生むベンチャーでないことは、未熟な投資家の目にも明らかになっていた。
Fazeが発する言葉は、2021~22年にかけてのピッチでもトーンダウンしていた。2021年のデッキには、消費者向けプロダクトの将来の収益源として「NFT」が挙げられていたが、2022年のデッキの当該スライドでは、その箇所は「メタバース」という無難な表現に置き換えられていた。さらには、2021年のデッキでは、Fazeが2025年末までに達成する売上の予想金額は6億5100万ドル(約977億円)となっていたが、2022年のデッキでは、売上の予想金額の記載そのものがなくなってしまった。
しかしそれでも、Fazeの首脳陣が市場から向けられる懸念に負けて、興味を引く作り話をするのをやめたわけではなかった。投資家の期待を注意深くリセットする一方で、彼らはメディア(DIGIDAYもそのなかの1社に含まれる)とファンに向けて、Fazeは若者文化のメディアコングロマリットに必ずなるとメッセージを発していた。彼らは、スムーズな着地を成功させるために、タレントエージェンシーのユナイテッド・タレント・エージェンシー(United Talent Agency:UTA)に助けを求めさえした。
[原文:Here’s what ultimately led to the fall of FaZe Clan]
Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)