D2C塗料ブランドの バックドロップ (Backdrop)は1月25日、新たな小売業者とのパートナーシップとしてメイドウェルとの塗料および塗装作業着におけるコラボレーションを発表。同社は2018年の創設以来、ホームセンターなど従来型の塗料小売業者を避け、アパレルやライフスタイルの小売業者と商品を販売してきた。
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D2C塗料ブランドのバックドロップ(Backdrop)は1月25日、新たな小売業者とのパートナーシップとして、デニムブランドのメイドウェル(Madewell)との塗料および塗装作業着におけるコラボレーションを発表した。
2018年にバックドロップを創設して以来、共同創設者のカレブ・エーベル氏とナタリー・エーベル氏はホームデポ(Home Depot)やホームセンターなど従来型の塗料小売業者を避けてきた。バックドロップはその代わりに、商品をアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)や、ノードストローム(Nordstrom)、そして新たに加わったメイドウェルなど、アパレルやライフスタイルの小売業者の店頭やオンラインで商品を販売してきた。
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それでもバックドロップの売上の4分の3は、自社ウェブサイトからのものだ。しかし、バックドロップにとってこのモデルは、長期的な顧客獲得戦略として機能している。顧客が実際に塗装する準備ができたとき、以前にアパレルの買い物に行ったことでバックドロップをすでに知っていることになるからだ。一方でライフスタイル関連の小売業者にとっては、バックドロップの限られた製品ラインナップが、急成長しつつあるホームセンターへの参入のきっかけとなる。
ファッション&ライフスタイル分野へのアプローチ
バックドロップとメイドウェルは、リフォームよりもフットウェアでよく見られるタイプのコラボレーションを真似て、塗料と塗装作業着の限定コレクションを共同で発表した。これらはすべて、「スタジオアワーズ(Studio Hours)」という名で単一の淡い茶色になっている。このコレクションはオンラインと15の店舗で販売され、アーティストスモック、チョアコート、オーバーオールなどのアイテムに加えて、バックドロップの屋内塗料の1ガロン(約3.79リットル)と1/2ガロン(約1.89リットル)がある。メイドウェルがバックドロップに接触したのは、塗装作業だけでなく、ほかの仕事でも着られるアパレルのラインで提携するという構想があったからだとナタリー・エーベル氏は説明した。
「塗料には多くの芸術的、デザイン的、文化的な可能性があり、ほかの商品カテゴリーにたやすく適応できる」と、カレブ・エーベル氏は語る。
バックドロップは2018年に創設され、2021年にデザインハウスのエフ・シューマッハ・アンド・カンパニー(F. Schumacher & Co.)により買収されたが、金額は公表されていない。メイドウェルは現在のところ、ノードストロームとアーバンアウトフィッターズに続いて、バックドロップの塗料を取り扱う3番目の小売業者となった。バックドロップはダンキンドーナツ(Dunkin Donuts)や、デザインストアのカミングスーン(Coming Soon)との共同ブランドによる限定ペイントコレクションも製作した。
「人々が参加したいと思うようなブランドを作れば、どこでも人々を引きつけることができると思う」とナタリー・エーベル氏は述べている。
デジタルファーストである理由
インダストリーリサーチレポート(Industry Research Reports)によれば、塗料業界の規模は約290億ドル(約3兆3400億円)で、シャーウィン・ウィリアムズ(Sherwin Williams)など150年の歴史を持つ企業が売上の大部分を占めている。これらのブランドは伝統的に、ホームセンターでDIY顧客および契約した専門業者の両方に、数千もの色合いの塗料を販売してきた。
新興企業にとって、このような種類の店舗で抜きん出るのは困難だ。「ホームセンターは小売の環境として特に悪い」とカレブ・エーベル氏は語る。「塗料は面倒もなく低価格で購入できる商品であるべきで、部屋の模様替えには一番安価な方法だ。しかし、これが実際には十分な検討を行う必要があり、何回も店舗に足を運ぶことになって、顧客にとって苦痛を伴うカスタマージャーニーになってしまう」。
この理由からバックドロップは、ウェブサイトでの販売に重点を置き、小売店とのパートナーシップはおもにブランディングの関係とみなしている。カレブ・エーベル氏は次のように述べている。「我々はデジタルファーストのブランドであり、あらゆるタッチポイントについて本当に多くの時間を費やして熟考している。我々はこの膨大なユーザーコンテンツのカタログを、実際のペインティングスペースで見せることに、本当に心を砕いてきた」。
小売店と提携する意味
バックドロップには、スタンダード、セミグロス、キャビネット、アウトドアの4つの仕上げと、およそ50色のカラーバリエーションしかない。顧客はバックドロップのウェブサイトでどの色でもサンプルを注文できるが、塗料を購入する前にサンプルを注文する顧客は50%だけだ。バックドロップの限られた商品群は、あらかじめ調合され、すぐに購入できるようになっている。これに対してほかのブランドでは数千もの色があり、それを店舗内の塗料カウンターで調合する必要がある。バックドロップは小売パートナーから発注が行われると、ドロップシッピングモデルを使用して自社で注文に対応する。
しかし、小売パートナーでの売上は多少込み入った話になる。バックドロップのサイトを直接訪問する顧客のほとんどは、自分の部屋を塗装することをすでに検討している。しかし、メイドウェルやノードストロームを気軽に訪れる買い物客が、美容品やアパレルとともに1ガロンの塗料を衝動的に購入するとは考えにくい。
カレブ・エーベル氏は次のように述べている。「私は、小売は発見のためのプラットフォームだと考えている。信用を積み重ね、発見するための場所だ。メイドウェルでジーンズを購入する買い物客は、今後1年間に塗装は行わないかもしれない。しかし、この顧客はバックドロップという会社のことを知ったわけで、当社はそれ以後、この顧客とともに道を歩むことができる」。
カーニー(Kearney)のプリンシパルを務めるウェイド・ブジュブリー氏は、このモデルは、高級フィットネスブランドやそのパートナーである小売業者がよく使う小売ショールームと「類似性」があると語る。ブジュブリー氏は次のように述べている。「我々は、従来型の取引を拡張するような実験的な小売の例を数多く目にするようになってきた。たとえばノードストロームはトーナル(Tonal)とのあいだで同様のパートナーシップを結んでいる」。
追い風が吹く住宅設備分野
いま、住宅設備分野にとってはいい時期だ。ハーバード大学(Harvard University)の住宅研究共同センター(Joint Center for Housing Studies)は最近、2022年の第3四半期に向けて住宅リフォーム分野の売上が2ケタ成長が続くと予測した。これは、この分野における2年間のパンデミックによる販売急増のうえに成り立っているものだ。
ブジュブリー氏は、家庭用品やリフォームの急増を考えると、「より完全な」家庭用品を提供する小売業者の戦略は有益かもしれないが、小売業者は顧客が新しいカテゴリーに何を求めているかを理解する必要があるだろうと語っている。ブジュブリー氏は次のように述べている。「たとえば、アーバンアウトフィッターズの消費者は、DIYプロジェクトとはどのようなものかを理解する必要があるかもしれない。ノードストロームの顧客は、統合されたカラースキームが自宅でどのように見えるかに興味を抱き、一方で確実にプロの塗装業者に手伝ってほしいと考えるかもしれない」。
ナタリー・エーベル氏は、バックドロップが今後「壁を完全に自分たちのものにする」ことをめざしており、3月にはウォールペーパー(Wallpaper)を立ち上げると語っている。
「我々がターゲットとする顧客にとって、今後10年か20年の人生のあいだに、塗装を行う機会は数多く訪れるだろう」とカレブ・エーベル氏は話す。「小売店に訪れる人々は、バックドロップのブランドやコンテンツ、バックドロップの精神に触れることは好きでも、塗装を行うまでには至っていないことが多いのだ。このような人々が塗装を行う機会を得たとき、我々は当然の選択肢となる」。
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Backdrop