D2C ブランドの最新トレンドは、「自己資金」創業 : なぜ VC から資金調達しないのか?

パトリック・コドゥー氏はヒゲ剃りのD2Cブランド、サプライ(Supply)の創設者だ。コドゥー氏は同社を4年前に創設してから、3つのキックスターターキャンペーンを通じて合計37万ドル(約4070万円)近い資金を調達してきた。同社は昨年度で数億円の収益をあげており、昨年夏に同氏はそれまでと異なりベンチャーキャピタルによる資金調達を検討してプレゼン資料まで準備したものの、最終的には思いとどまったという。

「これは私の会社であって、必要に迫られなければベンチャーキャピタルに対してエクイティの一部を譲渡する気にはなれなかった」と、同氏は振り返る。

D2Cブランドの創設者にとって、ベンチャーキャピタルはこれまでになく利用しやすい状況となっている。CBインサイト(CB Insights)によると、D2Cブランドは2012年以降ベンチャーキャピタルから総計で30億ドル(約3300億円)の資金調達を行っているが、そのうち10億ドル(約1100億円)が昨年のものだ。これによって消費者ブランドの評価額は大きく伸びた。今年、マットレスブランドのキャスパー(Casper)と化粧品ブランドのグロッシアー(Glossier)がそれぞれ1億ドル(約110億円)の調達を行い、評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるユニコーン企業となった。

だがそんななか、コドゥー氏と同じ選択をするD2Cブランドが増えている。2018年にセルタ・シモンズ(Serta Simmons)と統合マットレスブランドのタフト&ニードル(Tuft & Needle)は、2017年に資金調達なしで1億7000万ドル(約187億円)の売上を達成している。インディーゴーゴー(Indiegogo)でクラウドファンディングを行った時計ブランドのMVMTは、モバード(Movado)によって1億ドル(約110億円)で昨年買収されている。自然由来の素材を使ったデオドラントブランドのネイティブ(Native)もまた、2017年にP&G(Procter & Gamble)によって1億ドルの現金で買収されている。ネイティブは以前、エンジェル投資家から50万ドル(約5500万円)の資金調達を受けているが、ワービーパーカー(Warby Parker)やキャスパー、グロッシアーらの行った数億ドル(数百億円)の調達と比べれば雀の涙だ。

資金調達を受けない理由

ネイティブの創設者であるモイズ・アリ氏は、それ以上の資金調達を行わなかった理由について尋ねられた際に、「毎月20〜30%の収益増が達成でき、自社で資金を生み出せるようになったため」と、回答している。

アリ氏と、そしてタフト&ニードルの共同創設者のジョン・トーマス・マリノ氏は、カスタマーのフィードバックを集めることが企業の初期段階における成長に非常に重要な役割を果たしたと振り返っている。ペイドメディアに割ける予算が基本的になく、ほぼ完全に口コミに頼るほかなかったためだ。カスタマーの不満点を改善したことを伝えることで、カスタマーが友人や家族に商品の話をする可能性を上げることができる。

マリノ氏もアリ氏も、起業でもっとも大変だったのはほかのスタートアップ以上にチームの人数を少なく保つことだったと語っている。「現在も、当社のエンジニアリングチームは(およそ)20から25人で構成されている。最大のライバル企業は90人だ」と、マリノ氏は明かす。

アリ氏はネイティブを売却し、マリノ氏はライバル企業とタフト&ニードルの合併を行ったが、両者ともその理由は、分野のリーダー企業となるような規模にまで拡大するため必要だと感じたからだとしている。

アリ氏は「私には(ネイティブを)1億ドル(約110億円)から2億5000万ドル(約275億円)企業にまで成長させるノウハウがなかったため、外部の助けが必要だった」と振り返る。

ブートストラップの成長路線

サプライのコドゥー氏は、タフト&ニードルをはじめとするブランドの成功を見て、最終的にブートストラップ(Bootstrapping:自己資金での起業)による成長路線を選んだと語っている。だが、同氏が会社を作り上げるのに活用したチャンネル、キックスターター(Kickstarter)の競争は激化の一途をたどっているという。

「クラウドファンディングは、もはや無料のマーケティングとは呼べる環境ではない」と同氏は語る。コドゥー氏は最初のキックスターターキャンペーンを行ったときは、ペイドメディアを使ったマーケティングはほぼ不要だったが、2回目のキャンペーンではFacebookに費用を払って広告を出したという。

Facebookをはじめとするプラットフォームでも支出が重要になっており、大規模キャンペーンのための支出をケチるブランドは不利な立場に置かれる。

企業の創設者のなかでも強気な者は、資金調達をせずにこれまで獲得した専門知識を活用して削れるコストを削ろうとしている。ジャクリーン・デジェス氏が創設したD2Cブランド、シュアワーキャップ(Shhhowercap)もまた自己資金による成長路線を選んでいる。同氏がベンチャーキャピタルの資金調達を見送ったのは、10年にわたり広告を利用してきたなかで広告のために多額の資金を投じずともカスタマーを獲得できるだけの専門知識を獲得できたと考えているためだ。

「私の経験上、ベンチャーの資金が最初に大量に投入されるのがそこだ」と、デジェス氏は語る。シードステージとアーリーステージのベンチャーキャピタル、レアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)でプリンシパルを務めるアンドレア・ヒプー氏は以前、米DIGIDAYのインタビューに対して、企業があまりに大量のベンチャーキャピタル資金を得た場合はFacebookやGoogleに大量の資金を投入できることが裏目となり、カスタマー獲得チャネルが持続可能か見定められないリスクが生じると指摘している。自己資金による成長を選んだ企業であれば、より持続可能なチャネルでゆっくりとした成長を遂げるほかない。

2015年にシュアワーキャップを設立した当時、デジェス氏は友人らの助けを借りつつ、ロゴをデザインし、写真を撮り、ウェブサイトを作成した。コドゥー氏と同様に、デジェス氏も設立以降、社員数を少なく抑えてきた。同社の昨年の売上は「数百万ドル(数億円)」だが、正社員数は6人だ。

「競争は激化している」

とはいえ、ベンチャーキャピタルの助けを借りないという選択が容易なわけではまったくない。ベンチャーキャピタルの支援を受けずに大規模な企業を作り上げられた企業は例外であって、決して普通のことではない。いまのD2C市場はあまりにも飽和状態で、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業がないような商品カテゴリーはほぼ無いといって良い。ネイティブのアリ氏もタフト&ニードルのマリノ氏も、「いまからでも同じ事業をはじめられると思うか?」という質問に対する答えは同じで、それぞれマットレス、デオドラントのカテゴリーでは無理だと回答している。

男性用衣類ブランドのミゼンプラスメイン(Mizzen + Main)の創設者兼CEOのケビン・ラベル氏は、米DIGIDAYに対してeメールで「ここ数年で、ベンチャーキャピタルの支援なしにD2Cスタートアップを形にするのが非常に難しくなったように思える」と述べている。「デジタル広告分野は常に変化しつづけ、あらゆるチャネルに金が流れ込んでくる。企業努力をしたうえで、広告に多額の支出をしなければ競争力を維持するのは難しい。不可能ではないが、かつてないほどに競争は激化しているのは間違いない」。

コドゥー氏もデジェス氏も、ベンチャーキャピタルによる資金調達の可能性を完全に除外したわけではない。デジェス氏は「優れたポートフォリオを抱えるベンチャーから声をかけてもらったときは、いつも話はしている」と明かす。コドゥー氏はクリアバンク(Clearbanc)のような、ベンチャーキャピタルの代替となりうるような触れ込みの新しい企業に興味があると語っている。クリアバンクは、企業への出資の見返りとしてエクイティを要求していない。代わりに同社は、出資額と6%の利息分の返済が終わるまで一部収益の受け取りを求めている。

「正解」は存在しない

マリノ氏は、市場に適した商品をブートストラップで模索し、商品を定めたあとにベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドの支援を受ける企業が増えていると指摘する。ローシーズ(Rothy’s)やミゼンプラスメイン(Mizzen + Main)、そして2015年設立のD2Cカウボーイブーツブランドで、昨年12月に2400万ドル(約26億4000万円)の資金調達を行ったテコバズ(Tecovas)などがこの手法をとっている。テコバズが設立から3年間で400万ドル(約4億4000万円)をわずかに上回る資金を調達した。創設者のポール・ヘドリック氏はプライベートエクイティファンドに勤めた経歴の持ち主で、同社の設立初期段階では「できるだけ無駄を削ぎ落とし、分不相応な拡大を行わない」ように心がけたという。

ラベル氏は次のように語っている。「一方には急速な成長と長期にわたる競争力というメリットがあり、もう一方は自社のコントロール能力の維持と持続可能性というメリットがある。このふたつのあいだのバランスに『正解』はない」。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)