eコマースはいまや、化粧品大手ロレアル(L’Oreal)の重要マーケットであり、その価値は同社史上最高となる50億ユーロ(約59億ドル)近くまで高まっている。チーフデジタルオフィサー、ルボミラ・ロシェ氏によれば、同社は9月末にその記録的数字に達した。
eコマースはいまや、化粧品大手ロレアル(L’Oreal)の重要マーケットであり、その価値は同社史上最高となる50億ユーロ(約59億ドル)近くまで高まっている。
チーフデジタルオフィサー、ルボミラ・ロシェ氏によれば、同社は9月末にその記録的数字に達した。「eコマースは我々にとって世界最大のマーケットにほかならない。きわめて有益なチャンネルであり、この先5年間、我々の成長を支える最大の推進力となるだろう」。
ロシャ氏のこの発言は、荒れに荒れたオンラインメディア界でeコマースが頑健を維持した1年をまさに総括している。他社と異なり、ロレアルは2014年にデジタルエージェンシー、ヴァルテック(Valtech)からロシェ氏を迎えて以来、eコマース進出を優先事項のひとつに掲げ、独自に推進してきた。そして、ほかに先駆けたその姿勢が、新型コロナ禍発生後、彼らを強力に後押しした。
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ロシェ氏いわく、「eコマースは実店舗の収益の50%を補っている――さらに、たとえば韓国をはじめいくつかの国では、100%まで行った」。
ECはいまや巨大ビジネス
今年、嫌になるほどくり返し言われているとおり、eコマースはいまや巨大ビジネスだ。この急成長には、さまざまな理由がある。食料雑貨から高級品に至るまで、商品をオンライン購入する人は確実に増えている。また、モバイル機器の加勢を受け、オフラインショッピング体験においても、簡便さが鍵になりつつある。さらに、広告主はD2Cという、顧客に直接訴えかけられる機会をこよなく愛している。
ただし、それだけではロシェ氏が言う数字には到底届かない。注目すべきは、マーケターが指摘するとおり、「コロナ禍がすべてを一変させた3月の時点で、我々の多くはデジタルを見出していなかった」点だ。オンラインストアは誰にでも作れる。自ら立ち上げてもいいし、AmazonやeBayといったマーケットプレイスに出店してもいい。正念場はそこからであり、収益が確実に見込める、大きなビジネスにできるか否かは、また別の話だ。
ロシェ氏が入社した時点で、ロレアルには2020年の理想像が明確に見えていた。ひとつは、オンライン売上を同グループ全体の売上の5分の1にすること。もうひとつは、メディア支出の半分をオンラインにすること。そして、いずれの目標もすでに達成されている。
ロシェ氏いわく、「2010年以来、我々はeコマースの売上をゼロから25%にまで伸ばした。メディア費についても、いまや62%がデジタルとなっている」。
中国に依存しない成長
さらに、次の目標にもそう遠くない未来に到達しそうだ。ロレアルの総売上は今後3年から7年の内に、自社サイトとマーケットプレイスを合わせて、オンラインが占めることになると、ロシェ氏は予想する。
これに対し、ライバルの1社、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)の総売上に占めるeコマースの割合は、現在11~12%となっている。
「我々は同業他社の倍速で成長している」とロシェ氏。「現在、成長率が80%を超えている部門もあり、eコマースの伸び率も60%を超えている」。
しかも、この成長は中国に依存していない。多くの企業がオンライン売上の大半を、オンラインショッピングがより一般的な中国に負っている。だがロレアルの場合、世界各地の売上が成長を促進している。そして、コロナ禍による自宅待機命令がそれに拍車をかけた。ロシェ氏が説明するとおり、「eコマースマーケット全体が約40%の割合で成長している一方、我々は約74%の伸びを見せており、中国以外の地域がそれを牽引している」。
伸び方は地域によってさまざまだ。たとえば日本市場での成長率は現在、107%を誇る。ブラジルではさらに急速な伸びを見せており、174%を記録している。ラテンアメリカでは約200%、アフリカと中東では250%となっている。
ロレアルの成長の秘訣
この高成長の秘訣に、目新しいものはない。実際、むしろ基本原則に立ち返っていると言える。たとえば、有意義なブランドの生育、そして複数の収益源の開発/維持――ロレアルはD2Cコマース、アフィリエイトソーシャルコマース、ライブストリーミングショッピング、サブスクリプションベースのeコマースをはじめ、7形態のeコマースを有している。また、スペシャリストの雇用も同じく、重要な戦略だ。この5年間で、ロレアルは3000人の幹部を雇っており、その多くが同社のeコマース事業に携わっている。
ロシェ氏が言うとおり、eコマースに万能モデルは存在しない。eコマースサイトが正解でもなければ、ピュアプレイ(単一事業)市場が正解でもない――どんなモデルであれ、勝敗の鍵はその実行法が握っている。
「2020年、コロナ禍の最中に起きた店舗休/閉店と消費者行動の変化は、eコマースおよびD2Cへの移行を加速化させたわけだが、この現象は何年も前から高級品およびビューティ業界で見られていた」と、デジタルエージェンシー、PMGのクライアントストラテジーパートナー、ティム・ラードナー氏は言う。「業界全体を通じて、デジタルを利用した事業活性化にもっとも成功しているのは、消費者行動の変化に積極的に順応したブランドだ」。
第2波でさらなる追い風も
Amazonを含む15の企業がロレアルのバーチャルトライオン機能、モディフェース(Modiface)を自社サイト/アプリに入れている。人々がさまざまなヘアカラーをスマートフォン上で手軽に試せるようになれば、今よりもはるかに楽に消費者の嗜好/需要を把握できるようになると、ロシェ氏は言う。2年前にロレアルがモディフェースを買収して以来、同機能は現在までに10億回以上利用されている。
そして、その数字はさらに増えることが予想される。コスメ用品をGoogleで検索する人々は間もなく、ロレアル製品をバーチャルに試せるようになるからだ。同じことは、YouTubeでコスメ関連の動画を検索する場合にも言える。
eコマースの売上は、ロレアルの今年の損失を多少補填した一方、ロックダウンが各地で解除された第3四半期には失速が見られた。とはいえ、それはごくわずかなものであり、ヨーロッパがロックダウンの第2波に襲われるなか、売上の再上昇が見込まれている。
「コロナ禍の影響で、すべてのパートナーシップが加速度的に伸びている」と、ロシェ氏は断言する。
[原文:‘Growing two times faster than the rest of the market’ Inside L’Oreal’s e-commerce playbook]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)