食料品のショッピングが人工知能導入によって生まれ変わろうとしている。食料品配送のインスタカートは、 ChatGPT を開発したOpen AIと提携し「アスクインスタカート(Ask Instacart)」機能を発表。多様な顧客層を有し商品点数が多い食料品店にとって作業の軽減や売上向上のツールになると期待される。
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食料品のショッピングが、人工知能の導入によって生まれ変わろうとしている。
食料品配送プラットフォームのインスタカート(Instacart)は3月初旬、Open AI(オープンエーアイ)と提携し、「アスクインスタカート(Ask Instacart)」機能を構築中であることを発表した。この機能は今年後半に運用を開始する予定で、買い物客が食料品リストを作成する際に、予算、健康、栄養、準備の時間などについて質問できるようになる。同社の広報担当者は、この「アスクインスタカート」のアイデアが、顧客のニーズにより適切に対応するためにChatGPT(チャットジーピーティー)などの新しいツールがどのように役立つかを深く理解するために配置した、新しい社内チームから生まれたものだと、米モダンリテールに語った。
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それとは別に、フランスの食料品チェーンであるカルフール(Carrefour)は2月、ChatGPTを使ってFAQに回答しているはじめての動画を作成した。この30秒の動画にはロボットが登場し、フランス語を話して「同社のウェブサイトを通して、より安く美味しい食事をする方法」など、顧客から多く寄せられた質問に回答している。カルフールの最高eコマース責任者を務めるエロディー・パーシソット氏は、カルフールカルフール(Carrefour Carrefour)の「データチームとイノベーションチームは現在、ChatGPTと、生成的AI全般のユースケースに取り組んでいる」と、LinkedInの投稿に記している。
米モダンリテールが取材したアナリストや食料品テックの技術幹部たちは、あらゆるタイプの小売業者がChatGPTの使用に期待しているが、食料品店には、真っ先に飛び付くべきいくつかの魅力的な理由があると述べる。まず、食料品店はもっとも多様な顧客層を有している業界だ。さらに、食料品店の商品点数は非常に多く、顧客の予算や食事制限に基づいてどの商品を推奨するかを判断するのは困難な作業であるが、AIのようなツールがあれば、そのような作業を軽減することができる。さらに、ChatGPTのようなツールや、より広い意味での生成的AIがコンテンツをパーソナライズする能力によって、食料品店の売上を向上させることができるかもしれない。
小売店向けのAI開発が一気に拡大
11月に公開されたChatGPTは、AI駆動の対話ツールだ。このツールの対話形式は爆発的な人気を呼び、多くのユースケースで、ChatGPTツールが関連質問に回答したり、不適切な要求を拒否したり、これまでのコンテキストを考慮したりすることが示されている。
これに対して、eコマースのプラットフォームは、自社商品にChatGPTをどのように組み入れられるかを探求することに熱心に取り組んでいる。中国のファッション小売業者のJD.com(ジェーディー・ドット・コム)は2月10日、ChatGPTと類似のツールを公開すると明かした。AmazonのCEOを務めるアンディ・ジャシー氏も2月、AmazonがChatGPT形式のツールに長いあいだ取り組んできたと語った。さらに、Shopify(ショッピファイ)は2月9日、ベンダーや小売業者の商品説明の作成を支援するAIツールを公開した。
食料品店は、生成的AIを採用して、顧客が誰かを識別し、その顧客の料理の好みに基づいてマーケティングメッセージをカスタマイズし、さらに、その好みを補完するために商品かごの中身を考えるのを支援する能力を持つことで、その結果として売上が増加するだろうと、食料品テックの新興企業のスイフトリー(Swiftly)の最高技術責任者を務めるシーン・ターナー氏は語る。
「食料品店は通常、マーケティングチームの人数が非常に少ないため、現在はこれを行うことが非常に困難だが、ChatGPTを使用することで効率性が飛躍的に高まる。そのため、これもある種の総合的な価値提案だと私は考えている」と、同氏は述べている。
「その点が、パーソナライズされた体験の提供したいと考える食料品店を動かしているのだと思う。それを実現する唯一の方法がテクノロジーだ。ひとつの商品を販売しているブランドと違って、これらを手作業で行う余裕はないだろう」と、同氏は述べる。
マスマーケットならではの課題
調査企業ガートナー(Gartner)のマーケティング実践においてディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は、インスタカートが独自のAIソフトウェア開発に取り組んできた一方で、Open AIのような十分な資金を持つ組織と提携することで、食料品配達パートナーである同社はサービスを早期に市場投入できるようになると述べている。
同氏は、食料品業界が人工知能を採用していることは「商品カタログが迅速に切り替わること、様々な異なる栄養成分表があること、消費者の嗜好が異なることを考えると大いに納得がいく。人工知能により、さらに高い水準のレシピを生み出せる」と、ターナー氏に同意している。
オンラインでの食料品ショッピングはパンデミックのあいだに大幅に増え、Adobeのレポートによれば、昨年末の時点で1兆ドル(約137兆円)に達すると予測されていた。
しかしジャシンスキー氏は、小売業者が顧客とともに新たな分野を開拓できる一方で、「より良い顧客体験が得られるかどうかは、まだわからない」とも警告している。
ターナー氏は、もうひとつの分野としてカスタマーサービスを挙げており、ChatGPTを活用してカスタマーサービスの体験向上に大きな期待を抱いている。「カスタマーサービスは、食料品店が利益率を維持したまま、一人ひとりにパーソナライズされたサービスを行えるよう苦闘している、もうひとつの分野だ。そのため、一人ひとりに合わせたサービスにできるだけ近いものを提供でき、人員を雇用するほどのコストを必要としなければ、それは大きな優位点となる」と、同氏は付け加えている。
同氏は、「一般的な食料品店のSKU数は4万ほどだ」と述べ、この数の多さから、人手でパーソナライゼーションを行うのは困難だと語る。
「マーケティングチームが、これらのSKUごとに、あるいは顧客セグメントごとに、資料を個別に作成するのは不可能だ」と、同氏は付け加えている。
食料品店は、デジタル化全般において、eコマースへの投資がほかの小売業よりも大きく遅れている傾向がある。これは、食料品のショッピングの大半が依然として対面で行われるからだと、ジャシンスキー氏は語る。「また、地方の小規模な食料品店はDX(デジタルトランスフォーメーション)やデジタルテクノロジーといったものに多くの投資を行ってこなかった」と、同氏は付け加えている。
それでも、食料品は常にもっともマスマーケットの商品でありながら、事業運用の拡大に苦しんできたと、ターナー氏は語る。「食料品店は常に薄利多売のビジネスで、その結果として、拡張性のあるツールが強く求められている。そして、ChatGPTは人手ではなくテクノロジーを活用してスケールできる、またとない機会だ。そして、より利益率の高い構造で顧客に対応できる機会でもある」と、同氏は付け加えている。
[原文: Grocery retailers are among the first to embrace ChatGPT]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Instacart