数千万人のユーザー数を誇る ネクストドア の場合、ユーザーは認証された自宅の住所でプラットフォームにサインアップするが、地域密着型ブランドにとって、この住所が極めて重要な情報になる。小売各社が広告費の投入先を販売中心のサイトやソーシャルアプリに切り換えるなか、ネクストドアのようなアウトレットも候補になっている。
地域密着型SNSのネクストドア(Nextdoor)は、食料品分野における広告ビジネスが好調だ。
数千万人のユーザー数を誇るネクストドアの場合、ユーザーは認証された自宅の住所でプラットフォームにサインアップするが、ハイパーローカルな地域密着型ブランドにとっては、この住所が極めて重要な情報になる。また、リテールブランド各社が広告費の投入先をAmazonやインスタカート(Instacart)のような販売中心のサイトや、TikTokのような有望なソーシャルアプリに切り換えるなか、ネクストドアのようなアウトレットも投入先の候補になっている。この1年で、ストップ&ショップ(Stop & Shop)やインパーフェクト・フーズ(Imperfect Foods)、ハーシー(Hershey’s)のようなブランドがこぞってネクストドアに広告費を投入しており、特にローカルキャンペーンの展開を重点的に検討している食料品業者のあいだで注目を集めている。
地域密着型ならではの強み
「我々なら郵便番号でターゲットを絞るところだが、ネクストドアには超地域密着型プラットフォームならではの並外れたジオターゲティング能力がある」ーーそう話すのは、食料廃棄物の削減に取り組む食料品宅配サービス会社インパーフェクト・フーズでグロースマーケティングアナリシスを務めるメリッサ・ブランドル氏だ。同氏は、ネクストドアが役立つのは、「インパーフェクト・フーズがまだ全国区ではないブランドであり、特定の郵便番号の地域や市場を対象にしてサービスを展開している」からだ。同社がネクストドアに広告を出しはじめたのは、2020年第3四半期のこと。当初は、広告を出す価値があるのか見極めるための試験的なものだった。「当時、我々はデジタルメディアミックスを多様化させようと真剣に取り組んでいた」とブランドル氏は話す。
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ブランドル氏は、ローカルに特化したプラットフォームならではの特徴もいくつか指摘しており、そうした特徴があるからこそ、ネクストドアはFacebookのように世界各国で膨大なデータを持つ競合他社にも負けないのではないかと見ている。たとえば、ネクストドアの広告にはユーザーが暮らしている地区や市の名称も同時に入れることが可能だ。「そんなことができる広告主をほかで見たことがない。ネクストドアなら、広告とユーザーの関連性が強まる」とブランドル氏は話す。
ネクストドアは、広告ビジネスに参入して比較的まだ日が浅い。2017年に広告ネットワークを開始し、早くも2020年末までには10億ドル(約1100億円)の広告収益が見込まれると発表した。現在の広告収入は公表していないものの、2020年10月の発表では、新規株式公開(IPO)を模索し、評価額は40億ドル(約4400億円)から50億ドル(約5500億円)を目指していることを明らかにしている。
ネクストドアの収益統括責任者ハイジ・アンダーソン氏は、「広告の出稿先として一番に選ばれるのは、間違いなく我々の広告ネットワークだ」と米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)にメールで回答している。「ネクストドアは家庭にターゲットを絞っているので、意思決定者と直接つながっている。当然、家庭内の意志決定者へのリーチを目指すCPG(消費財)ブランドとの関係は順風満帆だ」。アンダーソン氏は、ハーシーがハロウィーンの時期にネクストドアで行ったキャンペーンを例に挙げた。キャンディーの宣伝を行ったその施策では、「カートに追加」ボタンのクリック数と売上が、同社のベンチマークを140%上回ったという(アンダーセン氏は正確な数字を述べなかった)。
マーケットプレイスの台頭
また、ネクストドアのマーケットプレイス、ファインズ(Finds)の台頭も、導入件数を押し上げている。ファインズの規模はFacebookマーケットプレイス(Marketplace)とは比較にならないが、商品売買のプラットフォームにネクストドアを検討する人々が続々と増えている。アンダーソン氏いわく、ネクストドアの場合、ユーザーは「具体的な目的を持ち、近いうちに購入や登録などの行動を起そうとしている」人たちなのだ。
とはいえ、ネクストドアがまったく弱点のないプラットフォームというわけではない。近隣住民同士の口論を助長することで知られており、それがときには修羅場に変わることもある。ただし、ブランドル氏によると、インパーフェクト・フーズはすべての自社広告でコメント機能を使えないようにしており、ブランドセーフティに関しては、ほかのSNSプラットフォームと同様、ネクストドアに対しても心配していないという。
eコマース代理店コマースカナル(Commerce Canal)創業者のライアン・クレイバー氏がモダンリテールに話した内容によると、ネクストドアは食料品業界を含むさまざまなブランドに対して熱心に売り込みをかけていると話す。「私たちの取引先ブランドは、その大半がFacebookから広告を引き揚げており、ブランドの広告露出が可能な場所をほかで探していると答えた」。特にインスタカートとネクストドアは新しいチャネルとして人気が高いという。また、ネクストドアは、小売ブランドのあいだで「間違いなく、知名度を上げようと取り組んでいる」とクレイバー氏は話す。
購入単価・リピート率でも成果
ネクストドアには、さまざまな食料品ブランドが高い関心を寄せているようだ。インパーフェクト・フーズのブランドル氏が指摘しているが、「食料品は極めてローカルなものである」。ネクストドアの2021年4月の調査によると、ユーザーの40%は前月も食料品を購入していることがわかった。
インパーフェクト・フーズが投じている広告費において、ネクストドアが占める割合はまだ大きくないものの、インパーフェクト・フーズは現状の結果に満足しており、通年でネクストドアへ出稿するつもりだとブランドル氏は話している。また、ネクストドアの広告から得た顧客ひとりあたりの平均注文額(AOV)は、ほかの広告チャネルの顧客のAOVよりも「わずかだが、高い」という(同氏から具体的な数字は示されていない)。
さらに、Appleの新たなプライバシー機能がブランドのターゲティング広告に制限をかけているため、広告プラットフォームとしてのネクストドアの底力がよくわかるとブランドル氏は話す。「我々のターゲティング広告が利用しているのは、ネクストドアの自社ユーザーデータだけなので、実際のところiOS 14の影響は出ていない」。
[原文:Grocery brands are increasingly advertising on Nextdoor]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)