現在の不安定な状況がいつまで続くかは不透明な一方、今年の残りはメディア支出についてこれまでほど劇的な削減やキャンセルは起こらない見通しとなっている。世界広告主連盟(WFA)がグローバル企業39社に対してアンケートをとったところ、回答企業35社のうち半数以上となる54%がキャンペーンの延期を行わないと答えている。
今年最後の四半期は、各国企業にとって景気の見通しや11月の米国大統領選挙、パンデミックの第2波といった不確定要素にやきもきする時期となりそうだ。
各社は、これまで以上に変化への対応へと準備を重ねており、その影響は今年残された数カ月間の広告費にも表れている。
現在の不安定な状況がいつまで続くかは不透明な一方、今年の残りはメディア支出についてこれまでほど劇的な削減やキャンセルは起こらない見通しとなっている。世界広告主連盟(WFA)がグローバル企業39社に対してアンケートをとったところ、回答企業35社のうち半数以上となる54%がキャンペーンの延期を行わないと答えている。
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パンデミックの第2波の到来について、各社は粛々と準備を進めているようだ。同調査の対象となったマーケター役員の4分の1に近い21%が、現在のマクロ経済は「好転している」と感じており、「変化なし」は41%だった。6月の時点では「好転」がわずか8%、「変化なし」が36%となっており、明らかな変化が見て取れる。
WFAのステファン・レールケCEOは、「これまでパンデミックにより半数以上の企業がキャンペーンを控えていたが、これを再開する企業が増えており、回復の兆しが見られる」と語る。
経済回復を見通す企業たち
実際、不透明な状況が続くにも関わらず、なぜこのように広告支出が好転しつつあるのだろうか。9月の時点で、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)のメディア投資部門、マグナグローバル(MAGNA GLOBAL)は、下半期には米国内の広告売上が2%減少するだろうと予測していた。実際、今年の上半期で、広告売上は7.2%減少していたのだ。
新型コロナウイルスのパンデミックは消費者に確実に影響を及ぼしており、広告主の決定も当然そのことを念頭に置いているはずだが、これまでの四半期と比べると経済回復の見通しをもとに行動する企業が増えている。
オープンX(OpenX)が今夏に500以上のマーケターを対象にアンケートを行ったところ、半数近い46%のマーケターが第4四半期に予算の再検討を予定しており、そのうち大半80%がパンデミック以前に割り当てた予算と同等、または増額すると回答している。
クリスマスシーズンを控えて、柔軟に対応できるメディア戦略が重視されるなか、広告主の多くは、広告展開の時期についても検討を重ねている。現時点では、考慮しているのはこの第4四半期のみというところが大半のようだ。
警戒しつつ前に進む以外にない
例年、第4四半期に売上が大きく伸びる企業も多く、今年もこの時期におけるキャンペーンのタイミングが重要になるのは疑いようもない。
メディアコンサルタント会社WLxJSのジョン・ドナヒューCEOは「たとえば、消費財のブランドであれば、パンデミックにおいても短期的な直接販売を戦略としている可能性は高い」と語る。「変化といえばサプライチェーンがきちんと機能しているか、商品を店舗で販売するか、オンライン販売するかといった点だろう。そのため各社とも戦略として、すでに十分に確立しているだろうが、どこも似たような戦略となっている可能性は高い。そのなかで需要と製品供給能力を見極めながら、メディア露出の度合いを調整することになる」。
一方、マクロ経済には逆風となりうる懸念事項も多く、今後数カ月は決して楽観視はできない。
イービクイティ(Ebiquity)の最高戦略責任者、クリスチャン・ポルマン氏は「第2波がどれくらいの規模になるのか、ワクチンなどの対策がいつ頃完成するのかも不透明だ」と指摘する。
さらにはブレクジットや米大統領選挙、米中貿易戦争、追加の雇用支援政策、企業の倒産危機など、国内規模からグローバル規模に至るまで不確定要素はあまりにも多く、各社は警戒しながらも前に進むほかないのだ。
恩恵を受けるオンラインメディア
そんななか、こういった慎重ながらも経済の好転を予測する広告主の恩恵を受けているのがオンラインメディアだ。絶えず変化する世界動向のなか、流動的な対応を迫られる広告主に合わせ、オンラインメディアも、オンラインオークションやセルフサービスの広告プラットフォームといった即応性のある機能を提供している。
たとえばIABによる最新調査によると、米国では従来型の広告費用は30%減と大きく落ち込んだ一方、オンライン広告の費用は6%増となっている。
そしてオンライン広告費が増えている要因のひとつは、間違いなく大きく増えたオンライン販売だろう。
グループエム(GroupM)は最新の決算発表のなかで、広告主上位10社のうち、今後数カ月オンライン販売プロジェクトに力を入れていないのは2社だけだと述べている。一方、ハバス(Havas)とマークル(Merkle)は、ウォルマート(ウォルマート)やクローガー(Kroger)といった小売企業へ向けてメディア支出を増やしてもらうためのソリューションを開発している。
ハバス・メディア・グループ(Havas Media Group)のコマース担当責任者ジェス・リチャーズ氏は、「そもそも小売やコマースメディアとは何かといったところからはじまり、投資をどう扱うべきか、そして今ではどのように試験運用を行うべきかといった段階にまで進んでいる」と述べている。「従来型のオンライン小売業者は、自社で製品ページを作り、維持し、売上を伸ばすためブランド関連のキーワードや分野に支出を行い、フルフィルメントのための物流確保に取り組んでいる」。
デジタル広告の値上げも考えられる
オンラインメディアに進出する広告主が増えたことで、広告料金が吊り上がることも考えられる。
たとえば、マーケティングコンサルタント会社R3ワールドワイド(R3 Worldwide)のメディアコスト分析データによれば、今年第1から第3四半期におけるオンライン動画の広告料金は、米国では約1.5%の増加、中国に至っては11.3%増加している。逆にオンラインディスプレイ広告の料金はさほど増えないと考えられる。これはパンデミック関連のコンテンツと並んで自社広告が掲載されるのを嫌う企業が多いためだ。
一方、新たにこういった広告展開を始めるブランドにとっては、インベントリーの質やブランドセーフティ、手数料、広告展開の効果といったリスクを十分に精査することが求められるだろう。
[原文:‘Green shoots of recovery’ Advertisers eye Q4 with guarded optimism]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)