世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンスであるDMEXCOが帰ってきた。世界各地で業界イベントが開かれているなか、ドイツで開催される同カンファレンスの役割をいまだつかみかねている向きは多い。しかし2年間のデジタル開催を経て、アドテクの重要な論点は大きく変化している。
世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンスであるDMEXCO(ドメキシコ)が帰ってきた。世界各地で業界イベントが開かれているなか、ドイツで開催される同カンファレンスの役割をいまだつかみかねている向きは多い。
しかし2年間のデジタル開催を経て、アドテクの重要な論点は大きく変化している。本記事では、2022年のDMEXCO(9月21、22日開催)で話題の中心となっていたトピックを紹介する。
1. Cookie危機は続く
前回、世界中から2万人以上のアドテク業界関係者がケルンメッセに集まったときは、Googleがまだ「サードパーティCookieの死」を正式に宣告する前だった。それ以後、「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」や鳥小屋を思わせるいくつものフレーズが、人々の集合的思考に深く刻まれることとなった。
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むろん、Googleやザ・トレードデスク(The Trade Desk)などの提案を検証する取り組みが、「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」によって制限される欧州経済領域(EEA)に拠点を置く企業の幹部にとっては、広告ターゲティングや測定の未来についての議論も、いっそうの緊急性を帯びたものとなるだろう。そのような事業の成功を左右する重要な存在となるのが、Unified ID 2.0(UID 2.0)などを促進するにあたり、ファーストパーティの関係性を築く必要のあるパブリッシャーだ。
このような議論ではさらに、「セラー・ディファインド・オーディエンス(Seller Defined Audiences:SDA)」について考慮しなければならない。このターゲティング仕様はまず間違いなく、パブリッシャーにさらに大きな力をもたらすものだ。IABテックラボ(IAB Tech Lab)が主導するこのコホートベースのターゲティング手法については、こちらの記事で言及されている。
2. 新たなチャネル:リテールメディアとCTV
アドテクがメディア業界全体を席巻し続けるなか(たとえ従来の識別子は衰退しつつあるとしても)、新興のチャネルは、この分野の企業に自己変革の機会を提供している。
たとえばクリテオ(Criteo)は、広告リターゲティング企業としての過去の名声を捨て、リテールメディアの提供者として知名度を築くことに励んでいる。欧州に拠点を置く同社は、ここ数カ月、マーケターが小売業者のウェブサイトという、まさしく購買時点(POP)においてユーザーをターゲティングできるようにすると、さかんにアピールしている。
また、当然CTVのことも話題に上るだろう。マグナイト(Magnite、DMEXCO参加者の多くはいまだに旧社名のルビコン・プロジェクト[Rubicon Project]と呼ぶ)などは、M&Aを経て、自らをCTVベンチャーと再定義した。測定をめぐる論争もあり、また、テレビネットワークが依然としてそのようなインベントリー(在庫)の取引を、伝統的なビジネス手法の一環として扱いたがっているにせよ、CTV取引をめぐる状況は、少なくとも今年のカンファレンスでは、なお最前線の話題であり続けるだろう。
3. 大手テック企業の大きな影響力
DMEXCOの開幕を飾るメインステージでの基調講演では、Googleの欧州・中東・アフリカ事業および業務担当プレジデント、マット・ブリッティン氏が登壇し、広告支援型ウェブの未来について議論する予定だが、進行中のCookie危機が証明するように、その議論においては、大手テック企業の面々が圧倒的に大きな役割を果たすことになるだろう。
興味深いことに、マイクロソフトアドバタイジング(Microsoft Advertising)も、ザンダー(Xandr、旧アップネクサス[AppNexus])を傘下に収め、先ごろはNetflixとの提携が話題を呼んだところで、広告への再挑戦を強調する場として、このイベントを利用しようとしている。目下、この新しいプラットフォームに対する好奇心は高まっている。
そのほか、Amazon Adsが、(珍しい)公の場として同カンファレンスに登壇する予定であり、またAppleも、その広告への野心が広く業界内であらわになるなか、第三者的な立場で人員を送るという。
この分野の中堅企業にとって、あとにどれだけの商機が残されるかはまだわからないが、心配しているそのような企業の従業員は、大手テック企業が、自らのスキルセットを求める方向へ進んでいるという事実に慰めを見いだすことができるだろう。
4. Cookieのない未来が統合を促進する
メディアエージェンシーがSSP(サプライサイドプラットフォーム)とのあいだに直接的な関係を築き、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)もパブリッシャーに対して同様の動きをみせていることからわかるように、これまで業界のバイサイドとセルサイドのあいだに存在した線引きは曖昧になりつつある。
実際、米DIGIDAYの情報筋によると、両者を区別することは難しくなっており、そのような動きは、企業開発の専門家の関心を引き、プライベートエクイティファンドの関心をますます高めている。DMEXCOは、M&Aの議論が始まる、あるいは正式に発表される場として知られていることから、今後ここを起点に統合の動きが出てきたとしても、驚くにはあたらない。
5. サステナビリティ(そして収益性も忘れてはならない)
またこの2年間に、アドテク分野は、サステナビリティに関する社会的良心を育むほどの成熟を遂げた。ネスレ(Nestlé)、欧州インタラクティブ広告協議会(IAB Europe)、インテグラルアドサイエンス(IAS)のプレゼンターはいずれも、複数の異なるメインステージセッションで、このトピックについて議論することになっている。
しかし、広報部が承認した公の場でのディスカッションだけでなく、これらがもたらすビジネスチャンスも、カンファレンスの話題に上るだろう。米DIGIDAYの情報筋によると、起業家が気候変動に関するニーズをいかに利用できるかという議論が、主にブロックチェーン技術を中心的な話題として交わされることになるという。
[原文:Google’s crumbling third-party cookie is still likely to take center stage at Dmexco 2022]
Ronan Shields(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)