オンラインメディアの透明性に関する危機的状況が、ひとつのチャンスを生み出している。Googleは180度の方針転換を行い、その広告の大部分をユーザーに閲覧してもらえるようにするため、年末までに第三者による検証をブランドに提供することを約束した。
オンラインメディアの透明性に関する危機的状況が、ひとつのチャンスを生み出している。Googleは180度の方針転換を行い、その広告の大部分をユーザーに閲覧してもらえるようにするため、年末までに第三者による検証をブランドに提供することを約束した。
それが明らかにされたのは、5月のインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のヨーロッパ会議上だが、Google自らが課した期日の曖昧さにブランドは困惑している。Googleは具体的な期日こそ設定してはいないが、参加者によると、Google欧州事業のプレジデント、マット・ブリティン氏は、同社が2月初旬にビューアブル(閲覧可能)広告の第三者検証の導入について約束したことを思い出し、年末前には導入されることになるだろうと、出席者に対して説明したという。
ある出席者によると、「我々はその第三者検証の導入に向けて懸命に取り組んでいる。第三者機関をとりまとめ、それを機能性とユーザーデータの保護を両立させる形で実現することは大変難しい課題なため、具体的なスケジュールを提示することはできない。しかし、今年の後半にはできるだろうと楽観的に見ている。皆さんの意見はしっかりと聞こえている。我々はそれを発展させ、広く利用できるように進めていきたい」と、彼は述べたようだ。
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第三者検証について深まる疑問
イギリスとアイルランドのユニリーバ(Unilever)で、かつてメディア担当責任者をしており、現在は独立してコンサルタントをしているアレックス・テイト氏は、Googleの広告のビューアビリティについて、ついに独立系のサービスがレポートできるようになるタイミングについて、ぼんやりとではあるが約束した、Googleの決断を支持している。
「2017年のデジタル業界における重要なプラットフォームの問題のひとつとして、第三者検証がデジタルの衛生要因であるのだから、早急に着手する必要がある。英国広告主協会(ISBA)のデジタルアクショングループのメンバーが2017年の最重要課題に挙げるなど、現在この問題に関する動きが勢いを増してきている」。
業界のほかのエキスパートたちは、それが実際にどのように機能するかについて警戒しながらも、その期日を歓迎している。彼らはGoogleがそれをひとつの付加価値として提供するのか、それとも、モート(Moat)のような企業と、コストについて広告主にやり取りを任せるのかを知りたがっている。
「Googleの意図が確認されたことで生じた疑問は、これがどのようなものなのということだ。つまり、どのプラットフォームに実装されるのか、アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティについてすべて対応するものなのか、といった疑問や、サードパーティープロバイダの推奨リストが用意されるのか、一般的なところでは、このサービスが普及した場合に価格は下がっていくのか、といた疑問が生じている。この動きを肯定的に捉えるならば、状況を改善しようとGoogleサイドに意欲があるといえるだろう。しかし、それが実際にどう機能するのかについては、非常に不透明だ」と、デジタルエージェンシー、ロースト(Roast)のマネージングディレクター、ガレス・オーウェン氏はいう。
誰が追加費用をもつのか?
業界の警戒心は別にして、ブリティン氏が掲げた目標は、自分を自分で評価するやり方を改めるものだ。そのウォールド・ガーデンを独立した専門の広告検証ソフトウェアに完全に開放して欲しいという広告主からの嘆願は、頑なに拒否されてきた。これは、長いあいだ待ち望まれてきたものなのだ。
その代わりに、利用可能な独立した検証機関についてGoogleは、市場に指示を出しており、結果的に広告主に自らが望むパートナーの選択ができないようにしている。広告主が好きなようにパートナーを選択してしまうと、ユーザーのプライバシーの侵害につながるとGoogleは主張している。そしてそれは、Googleのビューアビリティスコアが、Facebookのようなライバルプラットフォームと比較できるようになってしまう可能性を意味しており、彼らにとって必ずしも都合の良い結果となるとは限らないのだ。
現在、マーケターは、キャンペーンの実施中、実際の人間による閲覧を追跡するために測定会社にたくさんの費用をつぎ込んでいるが、こうした標準的であるべき評価に追加で費用をかけざるをえない状況に多くの人が不満を感じてきた。このような懸案事項を緩和するために、Googleはインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)、モート、ダブルベリファイ(DoubleVerify)と、2015年から提携している。一方で、広告主らが、Googleにこれらのコストをすべて引き受けてもらいたいと願っているのはもっともなことだ。
Googleが宗旨変えをした理由
しかし、過激派のYouTube動画の隣に不用意にも政府広告が表示されてしまった件に対して、政治家たちが改善を求める声をあげるなか、懸念をもつ広告主たちからの年間広告収入が約10億ドル(約1000億円)失われる脅威と相まって、Googleは約束せざるを得なくなったようだ。eマーケター(eMarketer)は、2017年のGoogleにおける広告収入は720億ドル(約7兆2000億円)に達すると予測しており、10億ドルを失うことは、直近の影響よりも長期的に生命線を脅かす象徴的なものになる。
Googleのエコシステムが部分的にブランドから信頼されなくなると、将来的にそのインベントリに費やす金額も減っていく。「非常にいかがわしく、不正に長けた」メディアサプライチェーンの現状について、P&G(プロクター・ アンド・ギャンブル)は1月に厳しく非難した。また、YouTube上のブランドセーフティに関するタイムズ(Times)の調査記事の望ましくない見出しと相まって、多くのマーケターは動揺し、 彼らのメディア戦略により当事者意識をもつよう迫られている。現在、多くの広告主がISBAといったトレード組織やJICWEBS(The Joint Industry Committee for Web Standards)などの団体を利用して、彼らの広告が取引される場所や方法についてより詳しく把握するため、メディアオーナーに最善を尽くすようプレッシャーを与えている。
「Googleが失った金額が大きいか少ないかにかかわらず、そのようなビジネスをしていて、広告主が資金を引き揚げはじめるのを目にしたら、姿勢を正して、それが将来にどう影響するのか注意を払うだろう。もちろん金が絡んだ話になるはずだ。タイムズの記事がブランドセーフティ、そして暗にプログラマティックトレーディングを、取締役会の議題にしたのは確かだろう。なぜなら、失ってしまうリスクのある金額は巨額であり、さらに大きくなる可能性があるからだ」と、ISBA会長のフィル・スミス氏はつけ加えた。
納得していないブランドたち
Googleに対しても公平であろうとするなら、今年のはじめにデジタル業界に深く根付いた問題が明るみになったあと、同社は責任あるメディアオーナーになれるということをブランドに対して強く示している。スミス氏は、ブランドセーフティ、ビューアビリティ、アドフラウドなどの問題について広告主と一緒に取り組もうとする同社の意欲を強調した。これまでは、部外者が口出しすることもできなかったのだから。
しかし、Googleが発表したパートナーシップと保証のすべてについて、業界はより透明性の高いビジネスになる過程でより詳しい説明が必要になると主張するだろう。スミス氏によると、これまでのところ、イギリスの業界にそのKPI(主要業績評価指標)は開示されていないというのだ。再三に渡る導入要請にも関わらず、また、自分の広告がどこに表示されるのかに関して、もっとブランドにコントロール力を与える事前審査ツールに関してはいまだに明らかにされていない。