インフルエンサーが立ち上げたブランドは、それ自体が美容カテゴリーのひとつとなっている。Glossy Popでも、誰がどのブランドを作ったかを網羅したガイドを作成したほどだ。このガイドが公開されてから1年半が経ち、状況も変化し続けている。多くの新ブランドが立ち上がる一方で廃業したブランドもあり、目覚ましい成長を遂げたブランドもあったが、買収されたブランドはいままでひとつもなかった。だが、それも変わりつつあると、この分野の専門家はみている。
2023年は美容関連の買収が下火になった年であり、俯瞰的に見れば、インフルエンサーが創業したブランドの多くはまだ初期段階にある。マリアンナ・ヒューイット氏とローレン・アイルランド氏が立ち上げたサマーフライデーズ(Summer Fridays)や、マニー・グティエレス氏のルナビューティ(Lunar Beauty)といった、この領域では草分け的な存在のブランドでも、創業は2018年だ。老舗ブランドのひとつであるフーダ・カタン氏のフーダビューティ(Huda Beauty)が立ち上がったのは2013年で、当初はつけまつげのみを扱うブランドだった。
成長途上のブランドの多くは、まだかなり初期の段階にある。アンバー・フィラーアップ氏のデイ(Dae)、パトリック・スター氏のワンサイズ(One Size)、シファット・ハイダー氏のアレイ(Arrae)はすべて、事業を始めるには難易度の高い2020年にスタートした。
もちろん、有名人のブランドでは買収されたものも多い。シャーロット・ティルブリー(Charlotte Tilbury)は2020年末にプーチ(Puig)が獲得し、ウェイ(Ouai)は2021年末に買収されている。しかしシャーロット・ティルブリー氏もジェン・アトキン氏も、それぞれメイクアップやヘアスタイリングの技術で有名になった人物だ。どちらも専門家が主導するブランドであり、この分野は長い歴史を持つ。オリベ(Oribe)やヴィダル・サスーン(Vidal Sassoon)、あるいは皮膚科医が立ち上げたスキンケアブランドがその例だ。
本ガイドでは、インフルエンサーが創業したブランドを、ソーシャルメディア上でのコンテンツ制作のみによってプラットフォームを構築した個人が立ち上げたブランドと定義づけた。これらのブランドが買収されるまでの潜在的な道筋を探るべく、ベンチャーキャピタルやブランドインキュベーターのリーダーといった関連分野の専門家たち、そしてインフルエンサー起業家自身にも話を聞いた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
インフルエンサーが立ち上げたブランドは、それ自体が美容カテゴリーのひとつとなっている。Glossy Popでも、誰がどのブランドを作ったかを網羅したガイドを作成したほどだ。このガイドが公開されてから1年半が経ち、状況も変化し続けている。多くの新ブランドが立ち上がる一方で廃業したブランドもあり、目覚ましい成長を遂げたブランドもあったが、買収されたブランドはいままでひとつもなかった。だが、それも変わりつつあると、この分野の専門家はみている。
2023年は美容関連の買収が下火になった年であり、俯瞰的に見れば、インフルエンサーが創業したブランドの多くはまだ初期段階にある。マリアンナ・ヒューイット氏とローレン・アイルランド氏が立ち上げたサマーフライデーズ(Summer Fridays)や、マニー・グティエレス氏のルナビューティ(Lunar Beauty)といった、この領域では草分け的な存在のブランドでも、創業は2018年だ。老舗ブランドのひとつであるフーダ・カタン氏のフーダビューティ(Huda Beauty)が立ち上がったのは2013年で、当初はつけまつげのみを扱うブランドだった。
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成長途上のブランドの多くは、まだかなり初期の段階にある。アンバー・フィラーアップ氏のデイ(Dae)、パトリック・スター氏のワンサイズ(One Size)、シファット・ハイダー氏のアレイ(Arrae)はすべて、事業を始めるには難易度の高い2020年にスタートした。
もちろん、有名人のブランドでは買収されたものも多い。シャーロット・ティルブリー(Charlotte Tilbury)は2020年末にプーチ(Puig)が獲得し、ウェイ(Ouai)は2021年末に買収されている。しかしシャーロット・ティルブリー氏もジェン・アトキン氏も、それぞれメイクアップやヘアスタイリングの技術で有名になった人物だ。どちらも専門家が主導するブランドであり、この分野は長い歴史を持つ。オリベ(Oribe)やヴィダル・サスーン(Vidal Sassoon)、あるいは皮膚科医が立ち上げたスキンケアブランドがその例だ。
本ガイドでは、インフルエンサーが創業したブランドを、ソーシャルメディア上でのコンテンツ制作のみによってプラットフォームを構築した個人が立ち上げたブランドと定義づけた。これらのブランドが買収されるまでの潜在的な道筋を探るべく、ベンチャーキャピタルやブランドインキュベーターのリーダーといった関連分野の専門家たち、そしてインフルエンサー起業家自身にも話を聞いた。
べリティ・ベンチャー・パートナーズ(Verity Venture Partners)の共同創業者兼マネージングパートナーのティナ・ボウサバ氏によると、ブランドの立ち上げからイグジットまでの標準的なタイムラインが実際にどのようなものか、念頭に置くことが大切だという。「通常ならば、少なくとも7年から10年はかかる、非常に長い道のりだ」。5年でイグジットを達成したカイリーコスメティックス(Kylie Cosmetics)は、カイリー・ジェンナー氏の知名度や、2015年にリップキット(Lip Kits)を売り出し、セレブ発の美容ブランドに早くから参入したことによって実現できた、例外中の例外だ。「インフルエンサー発のブランドは初速が良いかもしれないが、その後の成長率はゆるやかになるだろう」。
デジタル・ブランド・プロダクツ社(Digital Brand Products)のCEOであるダニエル・ランドバー氏も同じ考えだ。同社は、クレア・シアラー氏とジョアンナ・テプリン氏が立ち上げて2022年にハロー・サンシャイン(Hello Sunshine)に買収された収納サービス会社「ザ・ホーム・エディット(The Home Edit)」など、クリエイター主導のブランドの創設や買収に携わってきた。「インフルエンサーが創業するブランドは、エコシステムがまだ初期段階にある」とランドバー氏。イグジットに向けた将来性が高く見込まれるペースで成長しているとのことだ。
ランドバー氏は、ソーシャルタレントが小売業ブランドを立ち上げる支援をしている。その一例が、2020年にメイクアップ「ワンサイズ」を立ち上げたパトリック・スター氏だ。ランドバー氏はスター氏のマネジメントチームの一員で、デジタル・ブランド・プロダクツ社はスター氏などが所属するタレントエージェンシー「デジタル・ブランド・アーキテクツ社(Digital Brand Architects)」の関連会社になっている。「ワンサイズの2023年の小売売上高は8,000万ドル(約113億円)を見込み、2024年には2倍になると予測されている。業績の面では、毎週成長を遂げている」と語るランドバー氏は、スター氏の関与がブランドの成功の要因だと考えている。「パトリックは非常に実践的で、日々の製品開発やマーケティング戦略に深く関わっている」。
イグジットの可能性があるブランドとして今回名前が挙がったのは、サマーフライデーズだが、創業者のマリアンナ・ヒューイット氏とローレン・アイルランド氏はこの件でのインタビューを受けなかった。ほかにも、ケイティ・ストゥリーノ氏が立ち上げたメガベイブ(Megababe)、ディーピカ・ムチャラ氏が創業し1,000万ドル(約14億円)の資金を調達したリブ・ティンテッド(Live Tinted)、ネギン・ミルサレヒ氏が立ち上げてシリーズBラウンドで資金調達をしたギソウ(Gisou)、そして美容ブランドのインキュベーター「ザ・センター(The Center)」が手掛けたナチュリアム(Naturium)なども含まれる。ナチュリアムの売上高は約7,000万ドル(約99億円)といわれ、買収の選択肢を探っていると噂されている。
これらを決定づけるのは、結局のところ、「オーセンティシティ(真正性)」という陳腐な表現に行きつく、とボウサバ氏は申し訳なさそうに述べた。同氏はアンバー・フィラーアップ氏のヘアケアブランド「デイ」のシリーズAラウンドを主導し、非常によくできたインフルエンサー創業ブランドだと評価している。「インフルエンサーからブランド、製品、そして消費者まで、しっかりとした線が引かれている。すべてが非常に強固に結びついている」。インフルエンサーになる前のフィラーアップ氏は、有資格のヘアスタイリストとして活躍していた。実際にデイは同氏にとって2つ目のブランドで、他にもヘアエクステンションのブランドを運営している。
ブランド構築とは、インフルエンサーや製品を超えた世界を構築することだ。「単に製品を買うということだけではない。ロマンチックで夢のようで、自然で美しい、デイという世界の一員であるという感覚なのだ」とボウサバ氏は、フィラーアップ氏とデイに共通する美的感覚について触れた。
オーセンティシティは信頼感にもつながる。ヘイリー・ビーバー氏はスキンケアブランド「ロード(Rhode)」を立ち上げる前に、知識が豊富な美容愛好家としての信頼を築いてきたことが、高く評価されている。同氏はYouTubeのチャンネルで、豪華なゲストをバスルームに招く『Who’s In My Bathroom?』シリーズなどを公開してきた。
ボウサバ氏は、7月の時点で評価額が40億ドル(約5,650億円)とされる下着ブランド「スキムズ(Skims)」と、創業以来あまり話題になっていないスキンケアブランド「スキン(SKKN)」という、キム・カーダシアン氏が運営するふたつのブランドの違いを挙げた。カーダシアン氏は体形がとても有名であるため、スキムズが絶好調なのは理にかなっているという。「価格もマーケティングも、すべてしっかりしている。非常に明確なDNAがある」。一方でスキンは「まったく理にかなっていない」と断言。全コレクションで約600ドル(約85,000円)という価格は「ぜいたくな価格帯で、消費者が望むのはラ・プレリー(La Prairie)やシスレー(Sisley)だ」。
アディソン・レイ氏のメイクアップ&スキンケアブランド「アイテム・ビューティ(Item Beauty)」の不調も、同様の要因が影響したものとみられる。アイテム・ビューティはセフォラ(Sephora)での取り扱いが無くなり、インスタグラムのページも非公開になった。レイ氏は美容に対する情熱でも知識の多さでも、あまり知られていない。
「アディソン・レイ氏はクールで楽しい人物だが、このカテゴリーで成功できる特別な信頼感や、強固なコミュニティは無かった」とボウサバ氏。その点サマーフライデーズには、スキンケア製品だけでなくアパレルやウェルネス・ジャーナルも購入してくれるコミュニティが存在する。
インフルエンサーブランドにとって最良なシナリオは、セフォラの店頭で顧客が、誰が関与しているブランドなのかを知らずに購入することだと、ランドバー氏もボウサバ氏も語る。そしてこのシナリオが当てはまることが多いのはサマーフライデーズやデイ、さらにはセレーナ・ゴメス氏のレアビューティ(Rare Beauty)だと明かした。
とても有名なセレブリティや影響力のあるインフルエンサーであっても、買収はおろか生き残りのチャンスをつかむためには、自立できるブランドを構築する必要がある。インフルエンサーになることはきっかけにはなるかもしれないが、「文字通り、きっかけに過ぎない」とアレイのハイダー氏は言う。同氏が初めてサプリメントブランドの製品を作った際、インスタグラムのコミュニティをフォーカスグループに設定した。その直後に、他の創業者たちと同じ課題に直面した。すなわち「しっかり運営できる、効率的なビジネス」を構築するという課題だ。
インフルエンサーは、フォロワーによってプラットフォームが作られる。ブランド創業時には、彼らが最初に購入してくれる可能性はあるが、必ずしも忠誠心のある顧客ベースになるとは限らない。投資家がブランドに興味を持つには「持続的な需要」が必要だが、「それを証明するには時間がかかる」とボウサバ氏は話す。
そして飽和状態の美容市場においては、価値のある製品であることが非常に重要だ。「製品のイノベーションが必要」とボウサバ氏は言う。「技術的な知的財産である必要はない」が、すでに出来上がっている保湿剤にラベルを貼り付けるだけでは通用しない。その例として同氏が例に挙げたのは、デイが最近発売した、髪にツヤを出すトリートメント「スターグロス(Stargloss)」だ。「中にキラキラ光るものが入っているの!」、つまり競争が熾烈な美容市場では、消費者が興奮する何かが製品に無くてはならないのだ。
メガベイブの創業者であるケイティ・ストゥリーノ氏も、製品にフォーカスする重要性を強調する。「私たちは常に製品にフォーカスしている。私たちが提供するのは革新的で、課題を解決する製品だ」と同氏。「私のコンテンツと知名度は、たしかにマーケティング戦略の一部ではあるが、ブランドの持久力や成功を促進するのは力強い経営管理、強固なインフラ、そしてプロダクトマーケットフィットだ」。同ブランドが販売する太ももの摩擦防止スティックは夏の必需品となり、アリュール(Allure)のベスト・オブ・ビューティなど数々の賞を獲得した。
「私たちは、必ずいつか買収されると考えており、今後2年以内になるのではないかと信じている」とストゥリーノ氏。「買収されるとするならば、それは業界最高クラスの製品や、忠誠心の高い顧客、財政の状態、グローバルな成長可能性によるものだろう。ブランドは私個人よりもはるかに大きく、私のインフルエンサーという地位はそれほど重要ではなくなる」。
ハイダー氏はアレイを、夫であるニシャント・サマントレー氏と共に創業した。工夫を凝らしたメールが奏功し、メリッサ・ウッド・テッパーバーグ氏やローリン・ボスティック氏などのインフルエンサーが製品を手に取ったことなどから、創業から6カ月以内に利益が出るようになった。マリアンナ・ヒューイット氏も自ら製品を購入し、認知度や売上の向上に貢献した。現在アレイは、ボウサバ氏から受けた資金も含め、300万ドル(約4億2,325万円)を調達している。ハイダー氏は女性のベンチャーキャピタルからの資金調達を優先している。
「これまでに多くのセレブブランドが失敗するのを見てきた。インフルエンサーが創業したブランドも同様だ」とハイダー氏。「イグジットの規模や会社の成功は、インフルエンサー、つまり創業者がどのように会社を経営するかに大きく左右される」。
「誰かが私に『まぁ、あなたがアレイの創業者なの。私はアレイが大好き』と言ってくれると、事業が私自身よりも大きく成長したことにとても嬉しくなる」と同氏。「もしもインフルエンサーの存在感が事業よりも大きなものであり続けるなら、事業はどれほど大きくなれるだろうかと疑問を抱き始める」。
[原文:Glossy Pop Newsletter: The path to acquisition for influencer-founded brands]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)