美容・パーソナルケア業界では最近、事業利益だけでなく公益を重んじる会社を評価する「 B Corp認証 」制度が注目を集めている。米国の非営利団体B Labが運営するこの制度には、企業の活動やビジネスモデルを深く掘り下げ、社会的影響力を評価するという意図があるからだ。
美容・パーソナルケア業界では最近、事業利益だけでなく公益を重んじる会社を評価する制度が注目を集めている。「B Corp認証」である。
B Corp認証制度の運営母体は2006年に発足した米国の非営利団体B Lab。同団体は「社会と環境への配慮、公的透明性、法的説明責任における高い基準」を満たした企業にB Corp認証を与えているが、これには企業の活動やビジネスモデルを深く掘り下げ、社会的影響力を評価するという意図がある。
「B Corp認証の評価対象は事業活動全体であり、サプライチェーンのみを評価するフェアトレード認証より徹底している」と、B Lab のB Corp事業開拓・活性化部門でスチュワード(執事)をつとめるアンディ・ファイフ氏(Andy Fyfe)は語る。 「昨今、多くの企業がサステナビリティや環境に配慮した取り組み、非毒性物質の使用などに力を入れているが、この認証は『マーケティング上手な会社』と『良い会社』を見分ける方法でもある」。
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これまでにB Corps認証を取得した企業は世界で3000社を超える。美容業界の上場企業ではナチュラ(Natura & Co.)、ユニリーバ(Unilever)子会社のサンダイアル・ブランズ(Sundial Brands)、ナチュラ子会社のボディショップ(The Body Shop)。ほかに、CBDブランドのプリマ(Prima)のような独立系企業も取得している。
B Labによれば、B Corps企業の総数は2014年から2019年のあいだに347%増加し、美容・ウェルネス・パーソナルケア業界だけでも166%という伸びを見せた。
プリマの共同創業者でCOOのローレル・アンジェリカ・マイヤーズ氏(Laurel Angelica Myers)は次のように述べている。「企業にはさまざまな利害関係者がいる。B Corp認証の本質は、損益計算書に表れる利益だけでなく、環境、コミュニティ、従業員への配慮にある。その方針は行動憲章や経営判断に反映されていなくてはならない」。
B Corp認証を取得するには
B Corp認証ではまず、B Labがオンラインで無償提供する評価ツールを用いてアセスメント(価値の計算的評価)を行うが、これは5つの分野における企業のパフォーマンスを測定するもので、183の質問から構成されている。評価対象はコーポレート・ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境への影響、顧客に恩恵をもたらす製品の5分野。B Corp認証は金融、コンシューマー製品、機械など業種を問わず応募でき、審査にあたっては個々の業種の特性が考慮される。
アセスメントでは企業の影響力を0点から200点までのスコアで表し、認証取得の最低基準は80点。創業年数の数値に重みづけした採点方式のため、長期にわたって良い実践を続けている企業のほうが歴史の浅い企業よりスコアが高くなる可能性がある。B Labによれば影響力スコアはプリマが87.3点。ボディショップは82.6点、ナチュラは120.3点、ビューティカウンター(Beautycounter)は94.9点を獲得した。
アセスメント完了後、認証取得を希望する企業にはB Labの担当者がつき、綿密な監査が始まるのだが、これは提出文書にもとづく監査で訪問調査は行われない。文書には企業のカーボンインパクト(CO2排出の影響)の算定方法、カーボンオフセットの取り組み(例:カーボンニュートラルの証明)が記載される。また、製品の安全性を示すため、原材料のサプライチェーンに関する情報に加えて、有給休暇や健康保険など従業員向け福利厚生関連の情報も必要だが、プリマのマイヤーズ氏によれば、提出文書の大半は既存の社内データをもとに作成できるという。ボディショップのサステナビリティ/アクティビズム部門のディレクターであるクリス・デイヴィス(Chris Davis)は「当社ではB Corp認証取得に向けて、4000点近い文書をB Labに提出した」と述べた。
B Lab のファイフ氏によると、アメリカとカナダでは2020年の年初からこれまでに228件の影響力アセスメントが行われ、実施件数は前年同期比で32%増えた。新型コロナウイルス感染拡大が続くなかでも件数が伸びたわけだが、「この事実は『危機に直面した企業はサステナビリティのような施策は後回しにする』という想定が誤りであることを示している」と、ファイフ氏は言う。
B Corp認証のもうひとつの条件として、営利法人の一種であるパブリック・ベネフィット・コーポレーション(public benefit corporation、以下PBC)という法人格の取得が求められる。この条件は、PBCが法人とみなされない州に拠点をおく企業の場合、B Labにより免除される。独立系ブランドであるプリマは、早い段階からB Corp認証をめざし、2018年にPBCとして登録した。認証にあたっては創業以来の業績も審査対象となる。プリマの場合、5カ月という期間を経て2019年6月にようやくB Corp認証を取得するにいたった。
ファイフ氏はB Corp認証について次のように語った。「社外に知られずに無料で測定・評価できる、この影響力アセスメントをあらゆる会社に勧めたい。『測定できないものは管理できない』という原則が当てはまるのは主に財務の分野だが、我々は測定対象をさらに広げ、社会と環境に与える影響という観点で組織の力を評価しようとしている」。
B Corp認証維持にかかるコスト
企業は登録維持料(1年間の認証維持に必要な手数料)を支払うことでB Corp認証のロゴなど知的財産の使用を許される。年間売上高が1ドル~15万ドル(約107円〜約1609万円)の企業の場合、登録維持料は1000ドル(約10万7000円)から。維持料は売上高が増えるにしたがって上がっていき、年商7億5000万ドル~9億9990万ドル(約804億円〜約1070億円)の企業であれば5万ドル(約536万円)になる。年商10億ドル(約1070億円)以上の場合は、事業の規模や複雑性に応じてB Labが定めた維持料を支払う。
B Corp認証のメリット
B Corp認証は、これを取得した企業が公表した方針にしたがって運営され、活動に透明性があり、信頼するに足ると認定するもので、環境、従業員、顧客に恩恵をもたらす組織であるという証明になる。B Labのマイヤーズ氏は、認証のもうひとつのメリットは同様の意図をもつB Corp企業との交流が可能になることだと語る。例としてはシューズ・アンダーウェアのメーカーのオールバーズ(Allbirds)、アイスクリームのベン&ジェリーズ(Ben & Jerry’s)、アウトドアウェアのパタゴニア(Patagonia)など。また、企業間の交流にはB Corpの地方支部も活用できる。
「我々にとって重要なのは、適切な方法で事業活動を行うだけでなく、同様の志をもつ企業や人々のコミュニティに参加し、営利法人のビジネスモデルのあり方をあらためて検討し、社会変革につなげることだ」と、マイヤーズ氏は言う。
また、B Corpのロゴの宣伝効果も大きい。認証企業であることを外部に向けて発信し、環境と社会に貢献する決意を示せるからだ。ボディショップは認証取得後、世界69カ国に展開する3000店舗にB Corpのロゴ入りサイネージを掲示し、B Corp について顧客を啓蒙できるよう販売員を教育した。いまのところ製品のパッケージにはロゴを入れていない。デイヴィス氏が得た情報では、ナチュラの子会社のイソップ(Aesop)は2021年、エイボン(Avon)は2030年の認証取得をそれぞれめざしているという。「B Corpは社会運動として効果的で、良いものを求めたければB Corp企業の製品を選ぶべきだと消費者に訴えている」とデイヴィス氏は語る。
マイヤーズ氏によれば、消費者は以前から、企業がその価値観に沿った責任ある行動をとることを期待してきた。地球温暖化や制度的人種差別、新型コロナウイルスによる経済への影響といった課題に世界が直面するいま、企業の行動の重要性はこれまでになく高まっている。2009年、リーマンショック後の世界経済危機のさなか、B Corp認証を取得した企業の存続率は取得していない企業より63%高かった。このデータについてファイフ氏は、「金銭的利益だけを追うのでなく、社会のために力を尽くす企業が、厳しい経済環境下でも回復力を発揮することの証明になる」と述べた。
「物事にはすべてつながりがあり、交わる部分がある」と、マイヤーズ氏は言う。「世界には社会、文化、人権、環境にかかわる問題が山積している。企業間の連携、協力、リーダーシップなしでは対処できない問題だ」。
[原文:Glossy 101: What is a B Corp and why does it matter?]
EMMA SANDLER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)