デジタル市場が圧倒する小売環境において、香水分野はしっかりと足場を確立するのに苦労している。しかし、いくつかのブランドはそんな業界全体の傾向を裏切る動きを見せている。コロナ禍が香水業界に与える影響にもかかわらず、デジタルファーストの香水としてグロッシアー・ユー(Glossier You)は高い評価を得ている。
デジタル市場が圧倒する小売環境において、香水分野はしっかりと足場を確立するのに苦労している。しかし、いくつかのブランドはそんな業界全体の傾向を裏切る動きを見せている。
コロナウイルスが香水業界に与える影響にもかかわらず、デジタルファーストの香水としてグロッシアー・ユー(Glossier You)は高い評価を得ている。NPDグループ(NPD Group)によると、2020年の香水部門の売上高は8%減少しており、これはオンラインショッピングの影響が一因となっているという。それでもクリスマス時期におけるプレゼント販売を含めて、年末には堅調な売り上げを見せたこともあり、香水分野の下半期の収益減少率は化粧品やスキンケアに比べてもっとも低かった。しかし、グロッシアー・ユーは2017年のローンチ以来、売上を毎年2桁の割合で伸ばしており、2020年にはコスメブランドのグロッシアー(Glossier)全体において売上トップ5に入った。
750人を対象に2020年7月に実施した顧客調査では、グロッシアー・ユーを購入した人の25%が、一度も試さずに購入したと答えた。さらに、昨年購入した顧客の40%近くが、このブランドを購入した経験がまったくなかった。調査回答者の半数が、コロナウイルスのために香水をあまりつけていないと答えているが、香水をつけるときには、軽くてそれほど強くない香りの配合を持つグロッシアー・ユーのような香水を選ぶとのことだった。
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「(グロッシアーにおける)香水のポジションの(議論を進化させる)ため、顧客ベースがどのようにグロッシアー・ユーと関わっているかについての洞察を集めたかった」と、マーケティング部門シニア・バイスプレジデントのアリ・ワイス氏は言う。
レビューがもっとも重要
ワイス氏によると、グロッシアーはソーシャルメディアのチャンネルでより頻繁にグロッシアー・ユーを紹介し、有料広告をより展開することで、同プロダクトへの注目を再活性化しているという。主な焦点は製品のレビューを利用することで、現在2500件近くのレビューがあり、Glossier.comで平均4.5(5点満点)の評価を得ている。調査の回答者たちは、同ブランドから購入する際、Glossier.comのレビューがもっとも重要な考慮事項であると答えている。グロッシアー・ユーの購入者にとっては、サンプルに次いでレビューがもっとも重要な要素との調査結果だった。グロッシアーは、2017年から継続的な香水サンプリングプログラムを実施している。
顧客レビューはグロッシアー・ユーの製品ページで目立つように扱われている。ページのレイアウトを見てみると、製品の説明のあとに「Add to Bag(買い物カゴに追加)」ボタンがあり、そのすぐ下には、レビューの抜粋が掲載されており、クリックするとさらに読むことができる。グロッシアーの製品レビューはすべて、肌のタイプ、年齢、肌の色、写真付き、の項目で絞り込みができる。これらのレビューを読むと、まるで作家プルーストが好物のマドレーヌについて描写する時のようなコメントが並んでいる。レビューでは、香水を映画的かつ文学的に描写するものがある一方で、あまり印象的でないレビューでも、香りが重すぎないことへの言及、人から賞賛を受けたという体験、香りが時間とともに変化するというコメントなどが、共通の要素としてある。これらの要素を気に入ったと評価する人もいれば、好ましくない、とコメントする人もいる。
香水(のレビュー)にこれほどの熱意や細かな考察が注がれているのは奇妙に思えるかもしれないが、これはグロッシアーが当初から奨励してきた同社全体に共通する特徴である。2014年、「イントゥ・ザ・グロス(Into the Gloss)」ブログは、ビューティ分野への参入として、読者の理想の洗顔料について尋ねた。そこでグロッシアーのCEOエミリー・ワイス氏は理想の洗顔料(自体)を女優が映画で演じるとしたら、エル・ファニングだろう、と形容した(これは後にミルキージェリークレンザ[Milky Jelly Cleanser]というプロダクトとなった)。ブログ読者はこれに対して、エディー・レッドメイン、エマ・ストーン、ケイト・ブランシェットといった俳優たちを彼らのミューズとして挙げて反応した。また、人々の香水に対する態度が、外見的なセックスアピールよりも内面的な美しさに向かって進化してきたことも示している。ワイス氏によると、グロッシアーは顧客レビューに対するインセンティブを提供していないが、香水を購入した顧客には、購入から約2週間半後にレビューを書いてもらうよう促すメッセージを送るという。
ブランド唯一の香水製品
CBインサイツ(CB Insights)のアナリストであるケンヤ・ワトソン氏は、「自らをライフスタイルブランドとして位置づけ、消費者をコミュニティにすることをグロッシアーは得意としている」と述べている。「自らをビューティ分野のエコシステムと見なしている。グロッシアーが新製品をリリースするたびに、消費者はブランドとのコラボレーションをしていると感じている。彼らに商品が売られているのではなく、商品が差し出されている感じだ」。
また、グロッシアー・ユーはグロッシアーが提供する唯一の香水プロダクトであることも、大きな長所となっている。選択の幅とそこから生まれる混乱や矛盾を減らすことにはメリットがある。特に、香水はおそらく美容業界内でももっとも主観的な商品であるだけでなく、まだ完全には理解されていない感覚に関連していることからも、その意義は大きい。
「(香水のプロダクトがひとつしかないことで)顧客は、グロッシアーが香水に関して持つ独自の視点にフォーカスすることができ、我々の香水へのアプローチがビューティ分野へのアプローチと一貫していることを理解することができる」と、ワイス氏は語る。「ほかの人、周りの人間にどのように見られるか、ではなく香水が自分自身にどのような効果を与えるか、という香水の概念は、新しい進化のひとつだ」。
彼女は、同社の独自の視点があることは、香水プロダクトが今後拡大することや、グロッシアー・ユーの成功を妨げるものではないと付け加えた。グロッシアー社は現在、この香水の固形バージョンを復活させる方法を模索している。この製品は、2018年2月に発売されてから2019年11月に発売が中止されたものだ。ワイス氏は、発売時期については明らかにしなかった。
[原文:Glossier You and the power of digital-only fragrance]
EMMA SANDLER(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)