試食品エリアは、ブランドにとって新規の消費者を獲得する場として機能していた。しかしパンデミックにより、その多くは停止されている。そこで、ある冷凍食品企業は新たなアプローチを試している。試食が果たしていた新規顧客獲得という役割を、スーパーマーケットの外で行うというものだ。
試食品エリアは、ブランドにとって新規の消費者を獲得する場として機能していた。しかしパンデミックにより、その多くは停止されている。
そこで、ある冷凍食品企業は新たなアプローチを試している。試食が果たしていた新規顧客獲得という役割を、スーパーマーケットの外で行うというものだ。植物ベースの冷凍製品を製造するストロングルーツ(Strong Roots)は、ニュージャージー州ジャージーシティで、いま注目の新業態、「ゴーストフードトラック(ghost food trucks)」を活用したテストを開始した。ゴーストフードトラックはレストラン業界で成長を見せている業態のひとつ。レストラン内のテーブルでウェイターが給仕をして客が食事をするのではなく、オンラインで注文を受け、ドアダッシュ(DoorDash)やウーバーイーツ(Uber Eats)といったデリバリーアプリで配達をする、いわばオンラインレストランだ。個々のレストランは、さまざまなメニューを提供している。
ストロングルーツが行っているテストは小規模だが、最終的には全国展開を目的に実施されている。多くの消費財メーカーたちは、新規の顧客にプロダクトを試してもらう方法を見つけるのに苦戦しているが、ストロングルーツはデリバリーアプリで直接販売することが、新たな解決策になる可能性があると見ている。
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コラボレーションのきっかけ
このコラボレーションは、ストロングルーツのファウンダーでありCEOのサム・デニガン氏の自宅から、通りを3つ下ったところにゴーストトラックがあったことをきっかけに、この5月にスタートした。デニガン氏はそこを何度も行き来しており、以前から試験的なコラボレーションが実現できないかを考えていたという。かつてストロングルーツは、アイルランドと英国で、ウーバーイーツとデリバルー(Deliveroo)といったプラットフォームと直接契約を結ぼうとしたことがあったが、失敗に終わっている。
「彼らは植物ベースの商品に勝ち目があるとは思わなかったのだろう」とデニガン氏。「というのも、それらプラットフォームで売れている食品の多くは、ピザやフライドポテトだからだ」。
しかし、ニュージャージーを拠点に、ゴーストフードトラックを展開する企業、「ゴーストトラックキッチン(Ghost Truck Kitchen)」は、ストロングルーツとのコラボレーションに興味を示した。デニガン氏とゴーストトラックキッチンのファウンダー、アンドリュー・マルティーノ氏は共に、ストロングルーツの魅力を最大限デモンストレーションできるメニューを作った。「仮に、今回のテストが完璧なコラボレーションにならなくても、両者にとって役立つ経験と情報が得られるだろう」と、デニガン氏は述べた。「マルティーノ氏は新商品のメニューを、私(デニガン氏)は新しいチャネルを獲得した」。ちなみに、開発された新商品には、カリフラワーのバッファローサンドイッチや、ビーツと豆のバーガーなどがある。
認知拡大に貢献
マルティーノ氏は、ゴーストトラックキッチンのオンライン専門レストラン(ここでは肉を使った商品も販売される)のメニューに、これらの新商品を追加。そして、ストロングルーツも外部のデリバリーアプリ上で限定メニューとして新商品を販売した。なお、いずれのチャネルから購入した顧客に対しても、新商品を注文する際にはストロングルーツの販促パンフレットや、スーパーマーケットで利用できるクーポンなどを受け取ることができる。
ストロングルーツのメニューは、すでに大きな人気を集めており、ゴーストトラックキッチンがカバーする地域のスーパーマーケットでは、クーポンの利用が増えているという。ストロングルーツが米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)に語ったところによると、メニューの売り上げは月比較で50%以上の増加したという。以前はスーパーマーケットに配送するために確保していた試食用の在庫枠も、現在は新商品の試食品デリバリー用に置き換えられている。
「新商品のおかげで、消費者の家庭に入り込むことが出来ている」とデニガン氏。(スーパーマーケットに試食用在庫を配送するという)このアイデアは、ストロングルーツを聞いたこともない人に、名前を知ってもらうためだった。結果、デリバリーアプリ経由で、多くの人にその名を示すことができたようだ。「多くの人が我々のブランドを体験してくれている。メニューに載っているほかのブランドではなく、我々を選び、ポジティブな体験を得ているのだ」。
パフォーマンス施策としても機能
また、これら一連の取り組みは、ストロングルーツにとってパフォーマンスマーケティングとしても機能している。同社は、小売店舗で無料で商品を試食してもらう代わりに、ゴーストトラックキッチンにストロングルーツの新商品を提供し、購入可能な地域で販売している。現在、この商品はニュージャージー州の5つの郵便番号に対応した地域で購入可能だ。
また、複数のフードデリバリーアプリの活用と同時に、この地域の人々に向け、ソーシャルメディアでターゲッティング広告も配信。投稿には、デリバリーアプリとリンクされたURLが貼られており、ホールフーズ(Whole Foods)のような、チェーン店でも試食できることを伝えている。
本来、店舗外における潜在顧客の獲得は、購入に繋がりにくいと、ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者であるジェイソン・ゴールドバーグ氏は語る。「というのも、オンラインでの購買は、ブランドのセレンディピティが生まれにくいからだ」。続けて同氏は、ストロングルーツの試みはブランド認知度を高めるひとつの手法として評価しつつ、「商品購入のサイクルにおいて、理想とは少し違った形で顧客を得ている。それが課題だ」と述べる。
ほかのブランドも類似のアイデアを検討中
また、同氏によれば、昨今ほかのブランドたちも類似のアイデアを、より多くのコストをかけて試しているという。消費財企業のなかには、店舗でサンプルを無料配布しているが、個別に包装されており、自宅で試されることを目的としている、と彼は述べる。
一方デニガン氏は、現時点での計画では、ニュージャージー州でのコラボレーションを6カ月間試した後に、何が上手く行ったのかを見極めると語る。現時点ではストロングルーツはケーススタディを構築している段階ではあるが、場合によっては全国規模にこの企画を拡大することも検討しているという。「ブランドがマーケティングを行う上で、長期的に維持することが可能な方法だと思う」。
[原文:Ghost trucks emerge as a potential solution to the disappearance of supermarket product sampling]
(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)