D2Cのウェディングドレスブランド、アザジー(Azazie)は非常に好調で、特別な日に着用する衣類を提供する第2のブランドのローンチを計画していた。だがコロナ禍により各種イベントのキャンセルが相次いだ。そこで第2のブランドでは時節に合わせたファッションを提供することを決断したという。
D2Cのウェディングドレスブランド、アザジー(Azazie)のCEOチャールズ・ゾン氏が同ブランドを立ち上げたのは6年前だ。今年に至るまで同ブランドは非常に好調で、同氏は特別な日に着用する衣類を提供する第2のブランドのローンチを計画していた。
だがパンデミックにより結婚式やその他イベントのキャンセルが相次いだ。そこでゾン氏はキャッシュフローを確保するため、第2のブランドでは時節に合わせたファッションを提供することを決断した。
それが5月上旬にローンチしたオンラインのファストファッションブランド、ブラッシュマーク(Blush Mark)だ。ブラッシュマークはZ世代をターゲットにしており、デザインチームはインスタグラムやTikTokのインフルエンサーたちや、ケンダル・ジェンナー氏などの有名人からインスパイアされたファッションを提供している。ブラッシュマークとアザジーのCMOラヌ・コールマン氏は、現在同ブランドはサイト上でショートパンツやクロップトップなどのルームウェアや、ストレッチ素材と遊び心のあるプリントを特徴とするファッションなどを提供していると語る。平均価格は15ドル(約1600円)だ。
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「カスタマーのニーズがカジュアルウェアへとシフトしたことに気づいた。そこで普段着のファストファッションを提供できるよう可能な限り迅速に動いた」と、コールマン氏は語る。
ブラッシュマークの売上はローンチ以降、毎月200から300%の成長を記録している。これは同ブランドと提携しているインフルエンサーによる宣伝や、製品の品質自体によるところが大きい。さらにファストファッションブランドの店舗の閉鎖が相次いでいることも追い風となっている。ファストファッション分野では「オンラインこそが未来だ」と同氏は語る。「売れ行きは間違いなく伸びるだろう。届いた服を着てSNSに投稿し、そしてまた新しい服を買って投稿する、というサイクルだ」。
Z世代における本当の価値観
Z世代は価値観を大切にし、社会的責任を重視する企業を後押しする傾向があるとされている。だがことファッションとなると、SNSで人気の可愛く安いブランドになびきやすいというのが実情だ。今年のTikTokブームもその傾向に拍車をかけている。
英国のオンラインファッションブランドのエイソス(Asos)は7月に、6月30日までの4カ月で10%売上が伸びたことを報告している。一方ライバル企業のブーフー(Boohoo)は5月31日までの四半期で約44%の収益増を記録した。ただし6月に同社のサプライヤーの工場が低賃金かつ危険な労働環境で従業員を働かせているという疑惑が浮上し、このスキャンダルにより同社の市場価値は半減したとも報じられている。だがヴォーグ・ビジネス(Vogue Business)が7月にZ世代105名を対象に行ったアンケートによれば、大半の回答者はファストファッションブランドで服を買っており、報道にもかかわらず50%以上がブーフーの製品を買い続けるとしている。
8月12日夜、英国のチャンネル4(Channel 4)は4部作のドキュメンタリー「インサイド・ミスガイデッド(Inside Missguided)」の第1部を発表した。これはインフルエンサーを活用した英国のファストファッションブランドであるミスガイデッド(Missguided)の舞台裏にスポットライトを当てた番組だ。フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)によれば、この番組は同ブランドの役員を通じて「インスタグラム、ファッション、ブロガー、インフルエンサーといったものと私たちの生活は切っても切り離せない」という同ブランドの哲学に切り込んでいるという。
ブラッシュマークにとって、手頃な価格設定は成功に欠かせないとコールマン氏は語る。そもそも安価な設定にも関わらず、カスタマーは25%割引やキャンペーンコード、送料無料キャンペーンといったチャンスを待っているという。
インフルエンサーたちとの協働
同ブランドには無報酬ながらアンバサダーとなっているマイクロインフルエンサーが70名ほどいる。彼らは毎週のようにインスタグラムとTikTok、そして時にはYouTubeにブラッシュマークの服を着て投稿しているという。たとえばTikTokのインフルエンサーらが同ブランドの白のクロップトップや黒いドレスを投稿したときは、トラフィックと売り上げが急増したため、デザインチームは別の色を追加投入することに決めたという。今月初めに3000名のフォロワーを抱えるインフルエンサーがブラッシュマークの投稿を行ったときにはTikTokで再生数360万回を達成、同社サイトのトラフィックや売上、インスタグラムのエンゲージメントも大きく伸びた(具体的な数字は非公開)。
ブラッシュマークのチームがトレンドをピンポイントで把握し、サイト上でそれに合わせたスタイルを提供するまでにかかる時間は平均で14日ほどだ。ほかのファストファッションブランドとは異なり、同社では大量生産は行っていないとコールマン氏は語る。かわりにスタイルごとに16着程度の小規模なバッチ生産を採用しており、売れ行きに応じて生産量を増やす方式だという。また、ブラッシュマークは毎週新たなスタイルを登場させていることも特徴だ。
ブーフーのブランド、プリティ・リトル・シング(Pretty Little Thing)は米国市場が売上の3割を占めている。同ブランドもインスタ映えするデザインはそのままに、3月からより安価でカジュアルなスタイルへと移行した。パンデミック下において、同ブランドの売上トップ50はいずれもバイクショーツやクロップパーカー、ブラレット、ジョガーといった部屋着が占めていた。同ブランドのマーケティング担当リーダーを務めるニッキ・キャップスティック氏によれば、これまで春から夏にかけては外出やフェス向けのファッションの売れ行きが好調だったという。
「当社は数カ月、数年先にどのような製品を発売するかは決めていない」と同氏は語る。「マーケティングの支出も、何を買うかもすぐに変化させられるという迅速な対応が当社の強みだ」。同社は5から7日で新しいトレンドに合わせたスタイルをウェブ上で販売できるようになっているという。
キャップスティック氏によれば、同ブランドのデザインは「セレブ文化」、特にカーダシアン一家やジェンナー一家の影響を大きく受けているという。2016年には、カイリー・ジェンナー氏がプリティ・リトル・シングのイベントで着用した20ドル(約2100円)のオレンジ色のドレスが20万枚もの売上を記録した。さらに2017年にはコートニー・カーダシアン氏とコラボした製品を発売している。
「ライフスタイルブランドでありたい」
同社は現在インスタグラムを第1、TikTokのチャレンジを第2の軸に置いてマーケティングを展開しており、そのなかでさまざまなマイクロインフルエンサーやブランドアンバサダーたちと提携している。売上にもっともつながっているのはインスタグラムやFacebookの有料投稿だ。
キャップスティック氏によれば、具体的な数字は明かせないものの、3月以降、注文あたりの購入数は増加傾向にあるという。そして同氏は、初めてネットショッピングを行う新規カスタマーが大幅に増えているのではないかと予測している。
プリティ・リトル・シングは2012年の立ち上げ以降、インフルエンサーが同ブランドのコンテンツを作成できるような舞台を整えることを目標としている。現在同ブランドはロサンゼルス、マイアミ、パリ、ロンドンに大型ショールームを展開しており、10月にはドバイにもオープンする予定だ。ショールームでは商品販売ではなく、イベント開催、インフルエンサーやセレブリティのスタイリストを招待してのスタイリング予約受け付けなどを行っている。ロサンゼルスのメルローズアベニューにある7000平方フィート(約650平米)のショールームはネオンサインとピンクの装飾が特徴で、正面の窓には大きなユニコーンが飾られている。マイアミのショールームでは、インフルエンサーたちが#pltxmiamiとタグ付けして1000回以上写真を投稿している。プリティ・リトル・シングはロックダウンの解除に伴い、いち早くインフルエンサーをショールームに呼び戻している。
「当社はウェブサイト上だけの存在ではなく、ライフスタイルブランドでありたい」と、キャップスティック氏は語る。今後、同ブランドは持続可能性をさらに重視した戦略を展開していくとのことだ。
[原文:Gen Z’s TikTok habit is fueling fast fashion]
JILL MANOFF(翻訳:SI Japan、編集:長田真)