メタバース進出はブランドだけではない。スタイリストを含む業界のほかの人々もこの領域に踏み入れている。スタイリストのジェマ・シェパード氏は、英国を拠点とする投資会社メタベンチャーズとゲーミングプラットフォームのロブロックスとのコラボレーションの依頼を受け、メタバース初のスタイリストとなった。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ブランドは真っ先にメタバースへと飛びついたが、スタイリストを含む、業界のほかの人々もさほど遅れをとっていない。スタイリストのジェマ・シェパード氏は、トム・フォード氏、アレキサンダー・マックイーン氏、ダフネ・ギネス氏の仕事を手がけているが、最近ロブロックス(Roblox)からメタバースの仕事を依頼された。
デジタルワードローブのための新たな言語の開発
英国を拠点とする投資会社メタベンチャーズ(Metaventures)とゲーミングプラットフォームのロブロックスとのコラボレーションで、ジェマ・シェパード氏はメタバース初のスタイリストとなり、メタバース・グローバル・ファッションディレクターという正式な肩書きを手にした。このパートナーシップの詳細やシェパード氏のサービスの費用についてはまだ公表されていない。英国のチャンネル5で放送された番組『10 Years Younger in 10 Days』(10日で10歳若返る)のスタイリングでよく知られているシェパード氏だが、今度はロブロックスのユーザーの購入品のスタイリングや、ユーザーのワードローブを通じてアバターを個性的にする手助けをすることになる。今後数カ月以内に開始するサービスには、バーチャル・ワードローブのカスタマイズ、バーチャル試着の指導、デジタルウェアラブルのルックブックの開発、パーソナルスタイリング・ショールームの主催などが含まれる予定だ。まだ開発中のこの役割についてシェパード氏は、「アバターをスタイリングしたり、別人格というコンセプトで遊んだりするだけでなく、こうしたスタイリングの体験はエイジレスであると同時に、(これまでとは違ったかたちではあるが)そこに集って時間を過ごせる空間を提供することになるだろう」と述べている。
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ラグジュアリー、エンターテインメント、ハイストリートファッションの分野で20年以上の経験を持つシェパード氏は、業界のベテランとしてデジタルワードローブのための新たな言語を開発するのに適任である。デジタル空間は現実を超越し、個性的な要素や特徴、テクスチャーを含有することができるため、これらは物理的なものをそのまま反映することはないかもしれない。「私が名付け親になったお嬢さんが、自分のアバター用に靴を買うと話していたのだが、Z世代が多くの時間を費やしているのはここなのだと気づいた」とシェパード氏は言う。「私にとって重要なのは、行動がトレンドやファッションに与える影響の心理的側面を理解することだ。そして、若いオーディエンスを理解するには、若者たちが集っている場所で過ごし、若者がどのように交流し、何をしているのかを見る必要がある」。
ファッションブランドが注目するロブロックス
ロブロックスは最近、アバターをよりリアルにすることで、4320万人のデイリーアクティブユーザーのソーシャル体験を向上させる計画を明らかにした。それにはカスタマイズ可能なスタイル、重ね着可能な服やアクセサリーなど、より多くの服装のオプションが含まれる。シェパード氏とメタベンチャーズはともに、この春にファッションブランドをフィーチャーするメタバース・ファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)に関わっている。これは人々がデジタルファッションを見つめる方法を拡大することを目的としている。メタベンチャーズは最近では英国最大のロブロックス開発企業デュービット(Dubit)への580万ポンド(約9億525万円)の投資を主導した。昨年、ロブロックスはバーチャルのグッチ(Gucci)のバッグを35万ロバックス(4082ドル、約47万円)で販売し、バーチャルがフィジカルを凌駕する可能性を示している。
若いユーザーがゲーミングプラットフォームに集まっているため、ロブロックスはファッションブランドにとってとくに魅力的な存在となっている。そのカスタマイズ可能なフォーマットとブランド・パートナーシップは、ブランドやマーケターがオーディエンスにリーチするための新たな道を切り拓いた。昨年ロブロックスは、ナイキ(Nike)やグッチなど、少なくとも5つのファッションブランドがロブロックスプラットフォーム上に体験型ワールドを設置する際の主催者を務めている。同社の2021年のレポートによると、ロブロックスユーザーの5人にひとりが、もっとも売れている3Dフェイスマスクといったファッションアイテムで毎日アバターを更新している。2021年には、同プラットフォームの新規クリエイター数の成長率が300%を超えた。とくに女性コミュニティの成長が顕著で、前年比353%増となっている。
メタバースで検討したアイデアを現実世界で展開
ブランドがデジタルウェアを開発する理由として、ますます注目されているのはサステナビリティだ。消費者の関心がデジタルワールドに移行するにつれ、現実世界での廃棄物を削減に役立つかもしれない。シェパード氏は、アバターの着こなしを考える次世代に向けたスタイリングの重要性を意識している。「メタバースを通じて、多くのブランドが行動傾向を知ることができ、それが数量を決定することになるかもしれない。私たちはメタバースでの需要に基づいた『コンセプトドロップ』というアイデアをいろいろと検討することができるし、それを現実世界で展開することもできる」。
Z世代の専門家クイン・マ氏によると、アルファ世代が自己表現を重視していることを考えると、デジタル世界のためのスタイリングは新しいアプローチを採用するだろうという。「おそらく本当にメタバースを所有するのはアルファ世代だろう。なぜなら、この世代が23歳から25歳の最適な年代になったときに、メタバースは実際に存在することになるからだ。この世代は、自己認識を大切にし、キャラクターが好きに選べるワードローブを求めるだろうから、メタバースにおけるスタイリングを再考する必要がある。これまでのような定義のスタイリングは、この世代の考え方とは対極にある。この世代がデポップ(Depop)で買い物をするのには理由がある。つまりパーソナルなスタイルを求めているのであって、着るものを誰かに指示されたくはないのだ」。
[原文:Stylist Gemma Sheppard is the first metaverse global fashion director]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)