婚約&結婚指輪すらも、 D2C の時代へ:「ミレニアル世代のライフスタイルにあわせて」

2015年にアヌブ・シャー氏は、「PoC」として婚約指輪のD2C企業フォーマイン(Four Mine)を立ち上げた。いまや高額商品のオンライン購入に対する抵抗はなくなりつつあり、D2Cブランドによるパーソナライズされた体験に人気が集まっている。シャー氏は、そんなトレンドにおいて、いまこそダイヤモンドの婚約指輪におけるビジネスチャンスがあると考えたという。

「私の調査によれば、ミレニアル世代の90%が婚約指輪をオンラインで調べている一方で、実際にオンラインで購入したのは10%に留まっていた」と、同氏は語る。「なぜここまで開きがあるのか? この開きを埋めるためのサービスを提供したかった」。

昨年6月にエージェンシーのフランクコレクティブ(Frank Collective)によってウィズクラリティ(With Clarity)とブランド名を改めた同社の昨年の売上は1800万ドル(約20億円)だった。注文の平均額は7000ドル(約76万円)だ。婚約指輪や結婚指輪をD2C形態で提供しているのはシャー氏だけではない。婚約指輪探しのあり方を変えようとするD2Cブランドは近年急増している。ウィズクラリティ以外にもアーストワイルジュエリー(Erstwhile Jewelry)、マンリーバンズ(Manly Bands)、マジェスティダイヤモンズ(Majesty Diamonds)、ブリリアントアース(Brilliant Earth)、ブライ(Vrai)といったブランドが、ミレニアル世代をターゲットとして実店舗ではなくオンラインで婚約(および結婚)指輪を販売している。

これらD2C指輪ブランドの考えはこうだ。「ミレニアル世代には、押しの強い宝石店の店員からプレッシャーを受けながら数十万円の買い物をするよりも、自宅でじっくり調べて購入できるほうが喜ばれるのではないか?」。婚約指輪は安い買い物ではない。ノット(The Knot)の調査によれば、その平均価格は5764ドル(約62万5000円)だ。上記ブランドの創業者らは、D2Cマットレス企業の台頭によってオンラインで高い買い物をすることに対し、若い世代のあいだで抵抗がなくなったと口をそろえる。

「婚約指輪は高額商品であり、衝動買いをするものでもない」と、マンリーバンズの創業者ジョナサン・ラギエロ氏は語る。今年同社は数十億円規模の収益をあげる見込みだという。「我々の道を本当の意味で切り開いたのはマットレス企業だ。マットレスをオンラインで購入するなんて、それまで考えたこともなかった。だが、オンライン広告を目にするようになり、じきに慣れた。彼らが壁を打ち破ったことで、高級品がD2C業界に参入しやすくなった。いまや20万円以上するマットレスをオンラインで購入することに抵抗のない人が増えており、それならば結婚指輪を買ってもらうことも可能だ」。

結婚業界における革新

D2Cブランドの創業者らが結婚業界という金になる市場に目をつけるのは理にかなった選択だ。市場規模は大きく、IBISワールド(IBIS World)の調査によれば、今年だけでもその売上は760億ドル(約8.2兆円)にも達するという。アメリカ合衆国国勢調査局によると、米国では毎年およそ240万の結婚式が挙げられている。2017年には1日あたり約5800の挙式があった計算になる。

ヤードNYC(YARD NYC)で戦略ディレクターを務めるキャロライン・セクリー氏は「結婚業界は長いあいだ革新が起こらなかった」と指摘する。「ミレニアル世代は自分たちのライフスタイルを理解し、それに合致するようなブランドを求めている。それまでのブランドは堅苦しく、自分たちのブランドというより親世代のブランドと感じる人が増えている。ウェディングドレスから結婚祝いに至るまで、ミレニアル世代のライフスタイルと価格帯にあわせたオンラインサービスへの移行が進んでいる。彼らは高額になることなく高品質なサービスを求めており、それを提供できるのがD2Cとなっている」。

婚約および結婚指輪を扱うD2Cブランドが増えていることについて、アーストワイルジュエリーの共同創業者アリッサ・クラスナー氏は宝石業界全体で変化が起きていると指摘する。「かつては非常に狭い業界だった。ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(Gemological Institute of America)で学び、見習いになるといった流れがあった。だが、いまやすべての情報は、オンラインで簡単に手に入る。下積みなしでもある程度の専門知識を得られるようになり、いわば民主化が進んだのだ」。

消費者リーチの民主化

さらに同氏は宝石業界の民主化だけでなく「インターネットとソーシャルメディアによってカスタマーへのアクセスが民主化された」と語る。「かつて宝石商は、基本的にデパートや小規模な小売店を介さなければクライアントにリーチできなかった。自分で実店舗をオープンするだけの資金があれば別だが、高額になる場合が多かった。だが、ウェブサイトのローンチははるかに安いコストですみ、ソーシャルメディアのアカウント開設にいたっては無料だ」。

D2Cの結婚および婚約指輪ブランドは一般的なD2Cブランドと同様に、GoogleやFacebook、インスタグラム(Instagram)の広告でカスタマーへリーチしている。ウィズクラリティなどは、広告のなかで価格を表示していない。高級感が損なわれるためだ。一方でマジェスティダイヤモンズのように価格面で差別化を試みるブランドもある。

GYKアントラー(GYK Antler)の統合メディアディレクター兼バイスプレジデントを務めるポーラ・セラフィノ氏は「人々がどれだけFacebookやインスタグラムに時間を費やしているかを考えれば、結婚指輪を含め、どんなコンテンツもプッシュするのに最適な場だ」と語る。「理想の結婚式場、ドレス、指輪についての調査や決定も行われている。Facebookとインスタグラムのアルゴリズムのおかげで、消費者がどれくらい興味を持っているかを十分に把握したうえで最適なタイミングでD2Cブランドがリーチできる。そして適切な消費者を見つけたあとは拡大も容易だ」。

「シェアしやすい出来事」

OHパートナーズ(OH Partners)でソーシャルメディアおよびPR担当バイスプレジデントを務めるジェイソン・ミラー氏は「店員に邪魔されるのは嫌な人たちが、ターゲティングされるのは良しとするのは皮肉ともいえるが、全体的にみてD2Cモデルのほうが客側に『すぐに決めなければ』とか『店員の意見に惑わされないようにしなければ』といったプレッシャーが少ないのも確かだ」と語る。

「インスタグラムの投稿のなかから気に入った指輪を探して、婚約者にタグ付けする手間と、1日以上かけて指輪店をクルマでめぐる手間を比べたらよく分かる。これは大きな変革であるとともに大切な式を計画する次世代のカップルにとってシームレスに馴染むプロセスなのだ」。

婚約指輪や結婚指輪をどこで買うか友人に相談する人も多い。上記D2Cブランドの創業者らは、この点においてもオンラインで購入すると、投稿にブランドのタグ付けされることが多く、メリットになりやすいと語る。「婚約というのは人生においてもっとも他人とシェアしやすい出来事だ」と、シャー氏は語る。

昔ながらを求める声も

その一方、当然ながら、消費者に広告をターゲティングし、ミレニアル世代が望むようなオンライン体験を実現したからといって成功が確約されるわけではない。あるミレニアル世代の男性は、本稿執筆の週末にプロポーズする計画を立てており、サプライズにするため匿名を条件に米DIGIDAYのインタビューに回答した。この男性はインスタグラムの広告を見てブリリアントアースやウィズクラリティを試したものの、オンライン購入は自分には合っていないと感じたという。

「自分だけの特別感がなかった。婚約指輪は最初から最後まで自分で決めたかった」と男性は語り、次のように述べた。「彼女が好きそうな写真を集めてオンラインでまとめてみたが、自分がみじめに思えた。友人たちからも、宝石店で直接契約したほうが確実な取引ができると強く勧められた。個人的にD2Cで好きなブランドはたくさんある。だがプロポーズに関しては昔ながらのやり方のほうが自分に合っているようだ」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)