かつて、ゲームのプレイ中は広告と無縁だったが、今やブランドがゲームメーカーと提携し、ゲーム内に広告出稿するケースが増えている。いまだにブランドのマーケターが十分に追えていないケースもあるものの、ゲームに惜しみなくお金をつぎ込む若者をターゲットに、もっとも急速に成長しているメディアとなっている。
かつて、ゲームのプレイ中は広告と無縁だったが、今やブランドがゲームメーカーと提携し、ゲーム内に広告出稿するケースが増えている。
ブランドが提供したキャラクター、単発のイベント、プログラマティック広告。マーケターはゲーム内にブランドを登場させるさまざまな手法を模索してきた。ゲームが、生活のメインストリームの一翼を担うようになったためだ。いまだにブランドのマーケターが十分に追えていないケースもあるものの、ゲームに惜しみなくお金をつぎ込む若者(彼らは広告を嫌うのだが)をターゲットに、もっとも急速に成長しているメディアとなっている。
コロナ禍ですら、ゲームのこの大きな成長を阻むことはなかった。むしろ、ほかのエンタメ分野が苦戦するなか、ゲーム業界はさらなる成長を遂げている。市場調査会社のNPDグループ(NPD Group)によると、米国における8月のゲームの売上高は前年比で37%増の33億ドル(約3400億円)となっている。ゲーム業界は8月だけでなく、前年同月比で3月から実に5カ月連続で売上の大幅増を達成している。
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だが、これほどの急増を予期していなかった広告主が大半だった。たしかにゲームは、コロナ禍以前からメディア業界でより注目を集める存在になっていた。たとえば、NetflixのCEOであるリード・ヘイスティングス氏は2019年1月の時点で、動画配信サービスの最大のライバルとしてディズニーやHBOなどではなく、「フォートナイト(Fortnite)」を挙げている。それでも、これほどのスピードでゲームが伸びるという前提で動いていたマーケターはほぼ皆無だっただろう。
可能性を秘めた媒体
コロナ以降、ゲームは広告業界からも決して見過ごせない存在として脚光を浴びている。一方で、ゲーム内の広告に関する教科書的な戦略が存在しないこともあらためて浮き彫りとなった。ゲームに関する話題が散々挙がってすでに数カ月が経過した今も、出稿計画を完成させた広告主はほとんどいない。ただしそれは、方法を模索していないというわけではもちろんない。
各社が取り組みを進めるなかでも、特に先行しているのがビールブランドのバドライト(Bud Light)だ。この5年にわたり、同ブランドはeスポーツ業界に積極的に売り込みを続けている。今やバドライトはeスポーツにおいて看板的存在のビールブランドとして認知されており、複数のチームやプレイヤー、番組、大会などに出資をおこなっている。そして現在はゲーム業界へも参入し、同様の取り組みを進めている。来月にはあるゲーム内(タイトルは未公開)でブランド提携のキャラクターを登場させる予定だ。
バドライトのスポーツマーケティング担当ディレクターを務めるジョー・バーンズ氏は「12月にはゲーム内にキャラクターを登場させる。ゲームとブランド提携において、これまでより進んだかつてない関係性を示せるはずだ」と、その意気込みを語る。「マーケティング媒体としてのゲームの魅力は、出稿するにあたってエンゲージメントのルールがまだ確立されていないことだ。イノベーションの裾野が広がっているから、さまざまな可能性を秘めている」。
10年前に、マイクロソフトがXboxのゲームの広告を購入するよう広告主の説得を試みたときのことを考えれば、これは非常に大きな変化といえるだろう。かつては、ゲーム内広告に関して高い費用対効果を実現するインフラが整っていなかった。そもそもゲームパブリッシャー自体が広告主との提携に今ほど積極的ではなく、ゲーム内に広告を実装するのにかかるコストも高かった。しかし、徐々にゲーム内広告のインフラが整い始め、今ではアンズ(Anzu)をはじめ、マーケターのゲームにおける大規模なインプレッション購入を支援するアドテクベンダーが存在し、実験的なものも含めて、広告出稿の数や回数は増え続けている。
ゲームがコミュニティとブランドを結びつける
ライアットゲームズ(Riot Games)でグローバルeスポーツパートナーシップ担当責任者を務めるナズ・アレタハ氏は「2020年にマスターカード(MasterCard)やSpotify、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)をはじめとする21のブランドが、サモナーズリフトアリーナ(Summoner’s Rift Arena:リーグ・オブ・レジェンドの公式大会で使用されるマップ)内に掲げられるバナーに広告を提供した」と語っている。「当社とのパートナーシップは、ゲームとスポーツの両面において意義があるものであり、スポンサーおよび我々コミュニティの双方の価値を高める相互補完的な関係にある」。
当然ながら、エージェンシーもこの動きを察知している。たとえば電通では、夏に英国とアイルランドでゲームを専門とするDゲーム(DGame)部門を立ち上げており、すでにケロッグ(Kellogg’s)やモンデリーズ(Mondelez)、サンタンデール(Santander)などがクライアントとなっている。
Dゲームのクライアントパートナー担当のピーター・ジェイコブス氏は、「ゲーム内広告のブームが膨らんだのは、アドテクで購入できるインベントリーが登場し、かつ増えたという側面が大きい」と語る。「大手ゲームメーカーも新たな収益源として広告主との提携を模索しており、そこで我々エージェンシーを通じて提携することで、プレイヤーの体験を損なうことなく広告を出稿できるという声を聞いている」。
その一例が電池メーカーのデュラセル(Duracell)だ。今月初め、同社はプロサッカー選手のガレス・ベイルが人気サッカーゲームの「FIFA 21」のeスポーツチームとして立ち上げた、イレブン・スポーツ(Eleven Sports)で初のユニフォームスポンサーとなった。同契約は2020〜2021シーズンのみとなっているが、好調な場合は延長となる可能性が十分にあるという。
英国でデュラセルのマーケティングディレクターを務めるクリスティーナ・ターナー氏は「2020年は、子供や大人を問わず、ゲームがこれまで以上に友人とのつながりや社会的なつながりを支えた年になったといえるのではないか」と語る。ゲームは今や、オンラインを通じた人々の交流の場となっている。たとえばフォートナイトは単なるバトルロイヤルゲームではなく、プレイヤー同士の意見交換、情報交流の場ともなっている。
ブランドの「新規」参入も
優れたゲームによくあるように、ゲームと広告主の提携も予期せぬ形で拡がった。サブカルチャーからメインカルチャーへと移行しつつあるゲームに注目しているのは、何もバドライトやデュラセルに限った話ではない。これまではゲーム業界とのつながりが薄かった企業も、参入の機会をうかがっている。
かつてはロレアル(L’Oréal)がゲーマーをターゲットとした広告を出すというのは、考えもつかなかった。ゲームを楽しむ女性は少ないのが主な理由だった。当時としては正しい判断だったかもしれないが、今や状況は変わっている。実際、統計プラットフォームのスタティスタ(Statista)によると、米国ではゲーマーの41%が女性だと報告している。それゆえロレアルは、ゲームに広告を「出すかどうか」ではなく、「いつ出すか」で検討を進めている。
ロレアルのCDO(chief digital officer)、ラボミラ・ロチェット氏は「当社はユーザーがいるなら、どこでもマーケティングを展開していきたい。そして今、女性がゲームをプレイする時間はますます増えている」と語る。「ゲーム内のアイテムなどをマイクロトランザクション(アイテム課金)で購入できるタイプのゲームで、商品を展開することを考えている」。
BMWも同様の計画を立てており、同社の広報担当は次のように述べている。「ゲーム内広告をはじめ、さまざまな形での広告を検討しているが、現時点ではそれ以上のことは言えない。現在進行中のプロジェクトだ」。
「ゲーム内広告は可能性を秘めている」
ロレアルやBMW、バドワイザーといったブランドは、これまで有名人を採用し、心に残るようなキャッチコピーを使って世界的な企業へと成長してきた。だが最近では、少なくともかつての考え方とは異なった形でのメディア展開を推進している。その結果、ライアットゲームズといったパートナーと提携し、あまり押し付けがましくない広告を重視してメディア予算をより多く割くようになっている。
ゲーム開発企業のユービーアイソフト(Ubisoft)が保有する、開発スタジオのナデオ(Nadeo)でスタジオ責任者を務めるフローレント・カステルネラック氏は、「ゲーム内広告は、我々のコンテンツの収益化の可能性としては氷山の一角に過ぎない」と、その可能性に自信を覗かせる。「たとえば多くのオーディエンスがプレイする、フリーゲームにおける広告展開はポテンシャルを秘めている。他人のゲームプレイを視聴する層が増えているのも、ビジネスチャンスとして活用できるはずだ」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)