eスポーツ業界は今年、収益で10億ドル(約1088億円)を越すことが予想されている。しかし、ゲームに興味のない人間なら、eスポーツが何なのかすら、ちゃんと説明できない人がほとんどだろう。しかし、当然、この成長しつつある消費者ベースにどうやって入り込むのがベストなのか広告主たちは探っている。
eスポーツ業界は今年、収益で10億ドル(約1088億円)を越すことが予想されている。しかし、実際にプレイヤーとして参加しているか、eスポーツコミュニティで働いていない限りは、eスポーツが何なのかすら、ちゃんと説明できない人がほとんどなのが現状だろう。Twitch(ツイッチ)という名前を聞いたことがあるかもしれない。ゲーマーたちがゲームをプレイしながら自分たちとそのスクリーンを撮影し、ライブストリーミング配信できるインタラクティブなプラットフォームだ。もしくは人気ゲーム、リーグ・オブ・レジェンズ(League of Legends)のチャンピオンシップシリーズがテレビ放送されているのを目にしたことがあるかもしれない。業界は若者に偏っており、ゲーマーでなければeスポーツ業界がどれだけ拡大しつつあるか、見当もつかないだろう。
当然、この成長しつつある消費者ベースにどうやって入り込むのがベストなのか広告主たちは探っている。2018年のニールセン・ゲーム調査(Nielsen Games study)によると、Twitchユーザーは平均で年間の世帯収入が7万2500ドル(約788万円)となっている。しかし、アドバタイジングウィーク(Advertising Week)におけるTwitch主催のeスポーツサミット(Esports Summit)では、業界が抱えている大きな問題のひとつが特定されている。スケールがあまりにもグローバルに拡大しているため、マーケターが広告支出の効率性をトラッキングするためのローカル化されたメトリックスや標準的なメトリックスの有効さが限られてしまっているのだ。
Twitchのスポンサーシップ部門シニアディレクターであるネイサン・リンドバーグ氏は、「グローバルなリーチというeスポーツの最大の強みは、同時に最大の弱みでもある」と語る。
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新しいクライアントがリンドバーグ氏のもとを訪ね、eスポーツ、テレビ、サッカーの試合中のスポット、のどれに広告支出を費やすのがベストか、と質問してきたとする。そのときに、サッカーの試合中の広告と、Twitchでのストリーミングセッション中の広告とでは、同じ結果を生み出すことができ、データを通じて正当化することは非常に重要だと、彼は言う。
マスターカード(Mastercard)のグローバル・マーケティングとスポンサーシップの責任者であるブライアン・ランシー氏も、「たとえば、1ドルがここにあるとして、これをeスポーツに払うか、テレビのスポットに払うか、それとも何か別の物に払うか、どれがベストか、という質問を問うことになる。その回答をデータで正当化できないのであれば、eスポーツは常に広告を獲得し損ねることになるだろう」と言う。
しかし、分ごとの平均オーディエンス数といった、eスポーツ業界で標準化されたメトリックスがいまだ存在してないことをパネリストたちは嘆いた。広告を出すパートナーたちも、eスポーツに広告支出を投下したいものの、新規顧客や価値創出をトラッキングする手法がなければ継続して投資を行うことはできないと述べていると、リンドバーグ氏は言う。データ・トラッキングのための標準化されたシステムを作る方向へとプッシュすること、それがTwitch内での取り組みであり、リンドバーグ氏が業界全体が取り組んで欲しいと思っていることだ。
eスポーツはゲーミングと同じことか
答えはイエスでありノーだ。このふたつはつながってはいるものの、同じではないと、ランシー氏は言う。「eスポーツはある種、メジャーリーグベースボールのようなものだ。そしてゲーミングはスポーツ自体だ」。リーチするオーディエンスを幅広くしたいのであれば、ゲーミングが対象となる。しかしより深く、思い入れの大きい顧客にリーチしたいと考えているのであれば、eスポーツの方が良いオプションだろう。
eスポーツはただ一部のパートナー向けではない
マスターカードは「(ゲーミングに)固有ではないパートナー」としてカテゴライズされているが、リンドバーグ氏は「ゲームのアイテムを購入するのに使うカード以上に固有なものってあるだろうか」と述べている。非固有のパートナーではあるものの、ヘッドフォンメーカーやPCリテーラーといったゲーミング固有パートナーと同じモデルを使った実験的キャンペーンで、オーディエンスのリーチに成功してきていると、ランシー氏は語った。
たとえば、マスターカードはインフルエンサーによる「アンボックス(新製品のパッケージ開封)」動画のアイデアを活用して、リーグ・オブ・レジェンズのゲーマーたちにゲームのデザインを使ったギフトを贈るというプロモーションを行っている。マスターカード自体のブランディングは最小限に留められたこのギフトは、22カ国のゲーマーたちに送られ、彼らはTwitch上で彼らのフォロワーたちとシェアしたのだ。
「こういったブランドが持っている、楽しいスケールの大きさがまさにこれだ。グローバルブランドはグローバルな方法でインタラクションを持つ方法がある。それでもそれぞれのマーケットにいる人々にとっては、非常にローカライズされたものに感じられるのだ」と、リンドバーグ氏は言う。そしてこういったアクティベーションは、プロのeスポーツ選手たちによる、コアなコミュニティと広告パートナーを結びつけるだけでなく、自宅でこれらの選手たちを観覧している何百万人ものゲーマーとも結びつけてくれる、と彼は語った。
こういったパートナーシップは相互に共生関係にある。マスターカードやホンダ(Honda)といったグローバルブランドは広告で業界に参加することで、eスポーツ業界への信頼や承認を与えてくれるのだ。
eスポーツのもうひとつの問題はアクセス
プロのeスポーツ組織であるチーム・リキッド(Team Liquid)のオーナーであり共同CEOであるスティーブ・アーハンセット氏は、eスポーツ・コミュニティとコンタクトを取りたいものの、eスポーツのコミュニティについて理解が不十分であると感じているようなブランドたちは、パートナーシップの主導をeスポーツ側に渡すことを提案する。
ジャージーマイクズ・サブス(Jersey Mike’s Subs)がチーム・リキッドのフォロワーたちにリーチしたいとアプローチしてきた際に、アーハンセット氏は彼らのソーシャルメディア部門に指示書を渡したという。そこには文面から、投稿の厳密なタイミングまでが記されていた。チーム・リキッドは、パートナーたちがeスポーツ業界を進むガイダンスを提供するコンサルタント組織として捉えていると、彼は言う。これは往々にして、ブランドパートナーやエージェンシーたちが、eスポーツ側のニーズを理解していなかったり、実際のeスポーツ団体がファンベースと持つコミュニケーションと同じ方法で、オーディエンスとのエンゲージメントに成功するためのノウハウを持っていないことが理由だ。
Kayleigh Barber(原文 / 訳:塚本 紺)