「なにやらものすごい」:ウォルマート謹製「動画配信」サービス計画の中身

ウォルマート(Walmart)は、アメリカ中西部に向けたサブスクリプション制の動画配信サービス計画はあきらめたが、それでも動画配信への野望を捨てたわけではない。

この野望の中心には、同社が2010年に買収した動画配信サービスのブードゥー(Vudu)がある。ブードゥーは8000以上の映画とテレビ番組を(広告付きで)無料視聴できるサービスだ。さらに15万以上の映画とテレビ番組コンテンツの購入およびレンタルが可能となっている。これまでウォルマートはブードゥーについて、全米でAppleのiTunesとAmazon Prime Videoに次ぐ、3番目の規模を誇る動画サービスとしてきた。2018年10月に、ウォルマートはブードゥーの登録ユーザー数が2500万人に達したと発表している

昨年末からウォルマートは無料のオリジナル番組とライセンス契約番組への投資を進めており、成長を続ける動画広告事業へとつなげようとしている。最終的な狙いは、同社のもつ小売の力とカスタマーの購入データを駆使して実際に買い物ができる広告(ショッパブル広告)を動画で大規模展開し、こうしたサービスに強い関心のある広告主をひきつけることだ。だが、この野望はいまだに実現には至っていない。

ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)の最高コンテンツ責任者を務めるサム・トールズ氏は「コンテンツを視聴しているオーディエンスと購入を結びつける方法がわかれば、それはとてつもない革新だ」と語る。トールズ氏は以前、映画スタジオのMGMでデジタル部門および新プラットフォーム部門のシニアバイスプレジデントだった際に、ウォルマートおよびブードゥーとのあいだで80年代の名作コメディ、「ミスター・マム(Mr. Mom)」の続編の制作契約を結んでいる。「従来型のCMを嫌がるオーディエンスが増えている。だから将来的に、番組をどのように事業として成立させていけば良いか考える必要がある。もしもウォルマートが『ミスター・マム』を選んで視聴したカスタマーのデータを保有していて24缶入りのコーラを売れるならば、その事業の将来性は大きいはずだ」

ウォルマートの広報担当からは、本記事についてコメントは得られなかった。

オリジナルおよびライセンス契約番組の契約条件

ニューフロント(NewFronts)で行ったプレゼンのなかで、ウォルマートはブードゥーでおよそ12のオリジナル番組と映画を制作していると発表している。

最初のプロジェクトは昨年発表されたMGMによる「ミスター・マム」の続編で、長さ11分の1話目が今夏ブードゥーで配信される予定だ。ニューフロントで行ったプレゼンで、ブードゥーはほかにも進行中のいくつかのドラマやそれ以外のプロジェクトを発表している。クイーン・ラティファ氏による旅行番組や、ランディー・ジャクソン氏によるエンタメ番組、エヴァンジェリン・リリー氏が主演の犯罪ドラマなどが発表された。

Netflix(ネットフリックス)やディズニー(Disney)をはじめとするサブスク動画配信サービスはオリジナル番組に数10億ドル規模の投資を行っているが、関係者によると、ブードゥーのオリジナル番組予算ははるかに少ないという。ブードゥーへ売り込みを行った経験のある関係者2人によると、ブードゥーの予算は「中間層」の価格帯のケーブル番組に相当するという。両関係者とも、「1話あたりおよそ20万ドル(約2200万円)」としている。ブルームバーグ(Bloomberg)が4月に報じたところによると、ウォルマートは1話あたり200万ドル(約2億2000万円)程度にまで予算を引き上げる用意があるという。

先述の関係者のうちひとりは、「ディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー番組予算と、ブードゥーのドラマの予算が同程度」だとしている。

また関係者によると、ウォルマートとブードゥーは北米市場を重視しているため、提携する制作企業はブードゥーのオリジナル番組を世界市場でライセンス供与できるという。これに関し、ウォルマートは提携する制作スタジオとの共同保有の可能性についても検討していた。ウォルマートが制作投資を広告収益で回収し、制作スタジオと収益を折半するという形だ。

ブードゥーのほかにも重要な特徴としてあげられるのが、制作スタジオなどの動画制作者が映画やテレビ番組を非独占契約かつ無料で配信できるという点だ。そしてブードゥーが番組のライセンス料を払っていない場合、この配信動画であがった広告収益を折半する仕組みとなっている。ただし、関係者によると広告収益の最低保証はないようだ。また、関係者によれば、ブードゥーにおける広告収益は同社が単独管理しているようだ。

ある関係者は「折半というのは理想的な取り分ではないが、ウォルマート相手では仕方ない」と明かしている。

「みんなで見る番組」をはじめとする重要な番組ジャンルを重視

オリジナル番組でもライセンス番組でも、ウォルマートとブードゥーが重要としている番組ジャンルがある。

複数の関係者によると、ウォルマートがオリジナル番組、ライセンス番組のいずれについても最重要視しているのが「みんなで見る番組」だ。家族や友人など、ほかの人と一緒に見るような番組で、たとえば子供にも安心して見せられるようなアニメ番組や、「ジョン・ウィック」のような友人グループで見たくなるようなアクション映画だという。

オリジナル番組でブードゥーが注目しているのは女性のキャラクターやセレブが主役の家のリフォーム番組やアニメ、子供向け番組といったジャンルだ。関係者によると、ブードゥーはコメディにも興味を示しており、深夜のコメディ番組のフォーマットを真似た番組を検討しているとのことだ。

これはいずれもウォルマートの目指す動画配信サービスの対象が「アメリカ中部」であることに由来する。今年早春、ニューヨークで行われたニューフロントのプレゼンで、ブードゥーのシニアディレクター、ジュリアン・フランコ氏は「別に配信地域はウィリアムズバーグやシルバーレイクだけではないのだ」と語っている。

この「中部アメリカ」重視の戦略は、ウォルマートによるブードゥーのリブランディングにもつながる可能性がある。関係者によると、ウォルマートは動画配信サービスの名称変更を検討しているという。最近、同社はコンテンツパートナーに対し、ブードゥーの名称と規則が変更した際は、パートナー側に契約を打ち切る権利があるという法的な通知を行っている。関係者によると、ウォルマートが候補としている名称が「ウォルマートTV(Walmart TV)」、「ウォルマート・ストリーミング(Walmart Streaming)」だが、まだ決定には至っていないとのことだ。

今回の契約改定について通知されたある関係者は次のように語っている。「確かにブードゥーは何の意味もない名前だ。ウォルマートTVのほうが理に叶った名称だと思う。ウォルマートの名前は誰もが知っているからね」。

Netflixなどのサブスクリプションサービスと競うつもりではない

昨年、ウォルマートがNetflixやAmazon、Hulu(フールー)などと競合するようなサブスクリプション製の動画配信サービスの立ち上げを検討していると報道された。だが今年1月、CNBCはウォルマートがこの計画を撤廃し、将来に向けた最善の戦略は、ブードゥーへの投資をさらに増やすことだとする決定を下したと報じている。

ブードゥーが無料配信を行っている大きな理由として、サブスクリプション制の動画配信サービスと比較すれば、コンテンツのカスタマー獲得に要する資本コストがはるかに少なくてすむことが挙げられる。

ブードゥーの営業を受けたある関係者は次のように明かしている。「かなり厳しく自らを律している印象を受けた。ハリウッドみたいにスターを並べ立てて自らの首を締めるようなことはしていない」。

いうまでもないが、無料動画配信の市場は非常に競争が厳しい。1月にはAmazonが傘下のIMDbを通じて無料動画配信サービス、「フリーダイブ(Freedive)」を立ち上げた。そしてさらに現在ニュース番組を中心とする第2の無料配信サービスも立ち上げを進めているとされている。ロク(Roku)は「ロクチャンネル(The Roku Channel)」を展開しており、同社プラットフォームにおける配信アプリで五指に入る規模のリーチを有するとされている(ロクは正確なリーチ数については明かしていない)。

ほかにも大手サービスとしてバイアコム(Viacom)が今年はじめに3億4000万ドル(約374億円)で買収したプルートTV(Pluto TV)やズモ(Xumo)、トゥビテレビ(Tubi TV)などが挙げられる。CBSはニュース、スポーツ、エンタメニュースの無料動画配信を3チャンネル展開しており、NBCニュース(NBC News)もABCニュース(ABC News)もライブ中継の配信チャンネルを開始した。さらにYouTubeはマーケターへの営業攻勢を強めており、テレビ画面で配信されているYouTube動画は1日あたり合計で250万時間以上になるとしている。同社が資金提供したオリジナル番組のいくつかを、有料サービスのYouTube Premium以外でも視聴できるようにしたのもこのためだ。

そのような環境下で、視聴者をひきつけられるような注目度の高い番組なしに目立った存在になるのは難しいとする向きもある一方で、関係者のなかには予算をかければヒット番組ができるわけではないという声も大きい。

ある関係者は次のように指摘する。「Netflixでヒットした番組を見ればよく分かる。『ロスト・イン・スペース(Lost in Space)』より近藤麻理恵のお片付け番組のほうが大流行したんだ。番組費用と視聴者数が比例するように語られがちだが、そんなに単純な話ではない」。

コンテンツとコマース

ブードゥーはニュースフロントのプレゼンで、自らを含む複数の配信サービスに広告ネットワークを展開する計画を明かしている。ショッパブル広告も展開する予定となっており、これはユーザーが商品をウォルマートの買い物カートに追加してオンライン購入または店舗でピックアップできる仕組みだ。

動画広告とコマースの融合は、広告主にとって興味をそそられる魅力的なサービスだが、動画におけるショッパブル広告が大規模に成功しうるか確信を持てない広告主も多い

TVレブ(TVRev)の共同創業者のアラン・ウォルク氏は「(動画におけるショッパブル広告が)大きな話題になっているが、実際は人々がいうほど良いものではない可能性もある。コンテンツが供給過多ないま、ブードゥーの番組にとりわけユニークなものも見当たらない」と指摘する。

ウォルマートの優位性は、同社が北米市場における最大の小売企業であることだ。ウォルマートで商品を売りたいブランドは多く、こうしたブランドへの同社の影響力は大きい。ブルームバーグ(Bloomberg)が報じたところによると、ウォルマートはすでに大手広告主から数十億円規模で前払いの広告契約を取り付けているという。

トールズ氏は次のように語っている。「ウォルマートは世界最強の小売企業だ。大手ブランドの関係性は強く、力を合わせればものすごいサービスを作り上げられる可能性はある」。

Sahil Patel(原文 / 訳:SI Japan)