美容分野において、もっとも大きな転換期を迎えているカテゴリーのひとつがフレグランスだ。顧客の行動に変化が表れ、ショッピングをめぐる状況が変わったことに適応するために、ブランドたちはいま、eコマース戦略を組み直ししている。
美容分野において、もっとも大きな転換期を迎えているカテゴリーのひとつがフレグランスだ。コンバージョンを生み出すためには実際に香りを嗅いでもらうことが決定的に重要なため、これまではブランドたちも強固なeコマース戦略を適応するスピードは遅くなりがちだった。しかし、顧客の行動に変化が表れ、ショッピングをめぐる状況が変わったことに適応するために、ブランドたちはいま、eコマース戦略を組み直ししている。
NPDのデータによると第1四半期におけるフレグランス売り上げは2019年の第1四半期と比べて13%下がっている。と同時に、セルフケアプロダクトの人気が高まるなかで、自宅でアロマオイルを楽しむためのディフューザーやロウソクといった付属的な香り関連のプロダクトの売り上げが高まっている。オンラインでの香水の売り上げは1日平均が77%増加しているが、これは母の日の売り上げに加えて、実店舗での勾配がeコマースへと移行したことが理由である可能性が高い。
アトリエ・コロン(Atelier Cologne)は人々がギフトを贈ることを促し、新規顧客を獲得するためにeコマースサイトのリニューアルに取り組んだ。通常であれば、人々がフレグランスをオンラインで購入する理由は、持っていたものを補充することだと、アトリエ・コロンの顧客エンゲージメント・eコマースビジネス・ディレクターのビクセンテ・バーネッチェ氏は言う。しかし、彼らはそれを変えようとしている。パフューム検索のメニュータブでは、インタラクティブなアンケートを設置。ユーザーは「どこかに逃亡することができるなら、どこがいい?」といった質問に答えたり、香水が体現すべき感情を選んだり、ということができる。プロダクト情報のページでは、香水の成分をページ上でARで可視化するボタンが設置されている。また3月15日に再度ローンチされたサイト上での1対1のライブ会話も可能だ。
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手法だけでなく、顧客も変化
コロナウイルス以前は、アトリエ・コロンのマーケティングは口コミとお金をかけないメディア露出がメインの駆動力となっていた。しかし5月15日、リファイナリー29(Refinery29)とともに、5週間のインフルエンサーと広告キャンペーンをローンチした。香水をプレゼントするというテーマを押し出すため、愛の香りとはなにか、を中心に作られている。リファイナリー29はキャンペーンのトップページに愛の香りの解釈として6パターンを特集し、それぞれ6人のインフルエンサーたち(エイミー・リー、キア・マリー、オリオン・ヴァネッサ・カルロート、エリス・クリスティーナ、ドリュー・スコット、そしてエイミー・セラーノ)とひとりずつペアとなっている。インフルエンサーたちは自身のインスタグラムチャンネルやYouTubeチャンネルにおいて愛の香りとはどんなものか、自分たちの考えをシェア。アトリエ・コロンのギフト促進の取り組みとして、すべてのギフトに対して無料で色付きのギフトタグ、そしてカスタマイズ文章を選べるようになっている。キャンペーン中は30mlのローラーボール・プロダクトを購入すれば、10mlのローラーボールのギフトコードを提供している。顧客がそれをまた誰か別の人にギフトすることを狙ってのことだ。
「五感のひとつが使えないのであれば、(顧客とエンゲージメントを持つ)ほかの方法を探す必要がある」と、バーネッチェ氏は言う。「ARのようなもの利用をして、意味のあるコンテンツを作りたかった。ただ美しいビジュアルを提供するだけではなく」。
オンラインで香水を購入することを厭わない顧客が増えるとともに、彼らが欲しいと思う香りも変わってきている。香料メーカージボダン(Givaudan)のリサーチによると、アメリカとフランスにおける18歳から65歳の女性300人に行った調査で、コロナウイルス前であれば顕著であった「セクシー」「魅力」といった要素よりも「気が落ち着く」「リラックス」といった香水を欲しがる購買客が増えていることがわかった。
ジボダン北米の高級香水部門責任者であるエミリー・ボンド氏は「馴染みのある香りへと消費者を引き寄せるノスタルジアがある。クラシックである彼らのお気に入りのプロダクトを再発見するだろう。百貨店におけるこれらのクラシックではデザイナー香水やときに『マスティージ(大衆と高級を掛け合わせたコンセプト)』カテゴリーに属する。これらは香水におけるセレブリティの存在だ」と述べた。
「すべてのトーンを変え、適応する」
デザイナー香水ブランドであるヴィクター・アンド・ラルフ(Viktor & Rolf)もまた、香水ギフトにフォーカスしている。母の日には香水、ボディケア商品、ロウソクが含まれた7つのパッケージセットを提供したと、ロレアルUSAデザイナーフレグランス(L’Oréal USA Designer Fragrances)のマーケティング部門SVPを務めるローラ・アザリア氏は言う。ヴィクター・アンド・ラルフはオンラインで販売されており、セフォラ(Sephora)、メイシーズ(Macy’s)、ノードストローム(Nordstrom)のようなリテーラーでも販売されている。アザリア氏はヴィクター・アンド・ラルフの香水の何%がeコマースで販売されているか述べなかったが、ウェブサイトとリテールパートナーを通じた売り上げは、2桁台後半の成長を見せていると語った。特に母の日の前後での成長が顕著だという。パッケージセットを提供することの彼らの狙いは3つだ。35ドルから150ドルのあいだのより手の届きやすいプロダクトを顧客に提供すること、香水を通じてセルフケア体験を生み出すこと、香水がほかの香りプロダクトとつながった形で販売されること、だ。
6月上旬にはヴィクター・アンド・ラルフは、新しいデジタル香水検索ツールを彼らのD2Cサイト上に導入する計画を持っている。フラワーボム(Flowerbomb)香水のサンプルを400万個製造するためにサンプル予算を2桁増やし、支払いプランのプロバイダを導入、そして有料と無料のインフルエンサー戦略を再検討し、コンバージョンにフォーカスするとのことだ。
「コロナウイルスは現状を揺るがしている。それはブランドの視点からだけでなく、消費者の視点からもだ。提供するプロダクトからセルフケア重視の観点まで、我々がオンラインで行っていることのすべてのトーンを変え、適応することを促している。こういったことが現状の環境におけるヴィクター・アンド・ラルフの重要度を高めてくれる」。
Emma Sandler(原文 / 訳:塚本 紺)