通常よりも長引いた米国大統領選挙の影響で、米国ではコロナ禍に対する経済対策が遅れている。しかし現状、こうした不透明な先行きにも関わらず、広告支出の削減はあまり行われていない。
マーケターたちが恐れていたことが現実になろうとしている。通常よりも長引いた米国大統領選挙の影響で、コロナ禍に対する経済対策が遅れているのだ。
欧州においても、状況は決して良いとはいえない。感染拡大の第2波に襲われているフランスやドイツ、そして英国も、ロックダウンの規模拡大を決定した。いま求められているのは、新たなコンティンジェンシープラン(災害や事故といった、想定外の事態に備えて事前に定めておく対応策や行動手順)だ。それは、今年上半期に見られたような、パニックを伴った対応ではなく、これから起きる経済の混乱をより現実的に捉えた計画でなくてはならない。
また、米国のマーケターは、大統領の交代を受け、今後の政策やその影響に関する見通しを改めなければならないだろう。たとえば、今後ロックダウンが実施されるとしたら、それに伴う消費者の購買チャネルも変化する可能性がある。しかし現状、こうした不透明な先行きにも関わらず、広告支出の削減はあまり行われていない。
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「忍耐力が必要になる」
ここ数カ月、広告主は急速な感染拡大のなかでも経済を回すため、政府による大規模な経済対策が必要だと表明してきた。経済を支え、消費者の支出を伸ばし、成長へと結びつけるためだ。しかし、大統領選挙が長引いたこともあり、経済対策の先行きはまだ見えてこない。
選挙前に、経済対策の規模について合意していた地域については、何らかの対策が行われる可能性も残されてはいる。しかし政策アナリストの予測は、包括的な支出については来年以降までかかるだろうというものが大半だった。景気対策が長引けば、消費者は貯蓄を使い果たし、雇用創出も鈍化する。マーケターにとっては厳しい状況だ。しかし現在は、第3四半期に米国経済が回復の兆しを見せたこともあり、広告費を大きく変えずに辛抱強く待つマーケターは多くなりそうだ。
PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の、テクノロジーメディア・通信企業戦略リーダーを務めるダン・ヘイズ氏は、「景気対策の影響が現れるのは、実施から半年、1年とかかる可能性もある」と語る。「消費者の支出は、すぐに急激に変化することはないだろう。忍耐力が重要になる」。
欧州におけるロックダウンの影響
欧州のマーケターの大半は、ロックダウンによる自社の事業、さらには国の経済への影響について、さほど心配していないようだ。
リスクが存在しないから、というわけではない。今回のロックダウンで、欧州経済が不況に陥ると指摘している経済学者も少なくない。しかし、グループエム(GroupM)でビジネスインテリジェンス担当グローバルリーダーを務める、ブライアン・ウィーザー氏は、「仮に深刻なシナリオが待っていたとしても、いまは以前よりも比較的対処がしやすくなっている。世界各地の消費者がどう反応するか、今年の春よりも高い精度で予測できるからだ」と分析する。企業がビジネスの意思決定をする際、いまでも感染防止や消費者行動の変化といった要素を加味する必要があるのは事実だ。しかしいま、広告主は第1四半期よりも、事業の回復とその時期について、より現実的な見通しを持っている。
デジタルエージェンシーのスリーパイプ(Threepipe)のCEO、ジム・ホーカー氏は、「コロナ危機当初は、影響の大きいクライアントを失うこともあった。しかしいまは、新規のクライアントも獲得しており、非常に良い調子だ」と語る。「今四半期で予算を使い切らなければと切迫しているクライアントも多い」。実際、旅行やエンタメといった、春に大打撃を受けた業界では、それ以降メディア支出がほぼ皆無となっている一方、部屋着といった分野は逆に好調で、広告支出が増加している。
メディアは以前ほど寛大ではない
一方、エージェンシーのグッドウェイ・グループ(Goodway Group)傘下の子会社、コントロールvエクスポーズド(Control v. Exposed)の社長、ポール・フランプトン氏は「11月第2週に入って、第1週とは異なる報告も出てきている」と語る。「マーケターからは、成果に対する説明責任と、購入したメディアの価値を高めるための取り組みを、より強く求められるようになった」。
しかし、たとえ広告主が支出を削減したくとも、数カ月前ほど容易にはいかない可能性もある。というのも当時は、契約について変更を求める広告主に対し、メディア側が寛大な対応を見せてきた。しかしいまは、メディア側はこのときに失った予算を確保しようと躍起になっている。
ある消費財ブランドのメディア担当役員は「メディア、特にテレビ局は以前ほど寛大ではないだろう」と語る。「パンデミック当初に寛大な対応をしたことで、年末にかけてそれを取り戻す必要に迫られているのだ。柔軟性はあまり期待しないほうがいいだろう」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)