この6月、化粧品大手のロレアル(L’Oreal)は、学生からビジネスアイディアを募る毎年恒例のコンテスト「ブランドストーム(Brandstorm)」を、オンライン開催に変更。ファイナリストのプレゼンテーションをLinkedIn(リンクトイン)のライブ配信で行い、世界中の学生たちがコメント欄を通じて交流した。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行に終わりが見えないなか、ネットワーキングや採用活動の機会を増やすため、バーチャルイベントの見直しを図る企業が現れている。このような企業は、Zoomで開催するバーチャルイベントを、ただパネルディスカッションを視聴するだけの場ではなく、人脈作りや就職活動に利用してもらうこと、そして自らの人材発掘の場として活用することを模索している。
バーチャルイベントに、ネットワーキングや人材採用の機会を盛り込むという手法はまだ標準的とはいえない。しかし業界のアナリストたちは、今後数カ月のあいだに新規雇用を行う企業が増えるにともなって、このようなイベントの活用はもっと一般的になるだろうと見ている。
たとえばこの6月、化粧品大手のロレアル(L’Oreal)は、学生からビジネスアイディアを募る毎年恒例のコンテスト「ブランドストーム(Brandstorm)」を、オンライン開催に変更した。過去28年間のブランドストームでは、最終選考に進出した学生たちがパリに集まり、同社幹部の前で直接プレゼンテーションを行ってきた。今年は、このファイナリストのプレゼンテーションをLinkedIn(リンクトイン)のライブ配信で行い、世界中の学生たちがコメント欄を通じて交流した。
Advertisement
非常に有用なチャネル
ロレアルグローバルのCMOで、同社の採用活動を統括するナタリア・ノゴエラ氏によると、このイベントは同社の採用戦略の一環で、これまでに何百人ものロレアル社員がブランドストームを通じて採用されてきた。それもあり、このコンテストの継続は同社にとって必要不可欠な存在だったのだ。6月を皮切りに、ロレアルは171人のファイナリストのうち、約150人と世界各地で採用の話し合いを開始したという。
「ブランドストームは、ロレアルにとって、優秀な人材を早期に発掘するためのもっとも重要な機会のひとつだ」とノゴエラ氏は語る。「毎年、新しいコンテストを一から企画し、学生が取り組みたいテーマに沿って練り上げる。毎年、ブランドストームに参加する膨大な数の学生から、新しい人材を採用している。我々にとって、このイベントは非常に有用な人材発掘のチャネルとなっている」。
バーチャルで開催された今年のブランドストームには、65カ国から約4万8000人の学生が招待され、最終選考に残った学生は171人(チーム制で実施された)。ノゴエラ氏によると、「テレビ番組」のような演出を用いたライブ配信で、学生たちのプレゼンテーションが2時間にわたって行われた。今年のテーマは、サステナビリティ(持続可能な発展)で、学生たちには「プラスチックのない美容業界の未来像を描く」という課題が与えられた。
LinkedInに注力
イベントのライブ配信は複数のソーシャルプラットフォームで行われたが、ロレアルが主に注力したのはLinkedInだった。同社によると、LinkedInのライブ配信では、招待された2300人の学生のうち、イベントにログインした学生は2000人で、はじめから終わりまでをすべて視聴した学生はざっと500人ほどだったという。
LinkedInについて、ノゴエラ氏は「量より質を重視して、ターゲットを絞り込める」と評している。将来的には、LinkedInを活用した就職活動フェアや、リーダーシップコンテンツの発信も検討したいという。「世界中の学生にリーチするというより、ロレアルの事業に適性のある学生にリーチしたい」。
一方、ロレアルのような企業がLinkedInを活用してフィジカルなイベントからバーチャルなライブ配信に移行しているのを目の当たりにして、当のLinkedInも自社のライブイベント戦略の強化に着手した。実際LinkedInは、今月はじめにスポンサードコンテンツを通じ、イベントのプロモーションを行う機能や、アドマネジャーでイベントの参加者をリターゲティングする機能など、新しいツールを公開した。
「LinkedInにはビジネスパーソンのコミュニティを作ることができる強みがあり、イベントにも同様の強みがある」と、LinkedInでプロジェクトマネジメントを統括する、シニアディレクターのリシ・ジョバンプトラ氏は語る。「我々が考えているのは、すでに誰もがやっているライブ配信ではなく、ネットワーキングや対話を促すための仕組みだ」。
コロナ禍のさなかにあっても、ブランドストリームのようなバーチャルな採用イベントやコンテストはまだ一般的ではないが、アナリストたちはいずれそうなるだろうと見ている。
今後の可能性
「時代に遅れることなく、競争力を維持することを望むなら、バーチャルな採用イベントの開催は不可欠だろう」。そう語るのは、アーリーステージのスタートアップに投資するベンチャーキャピタル、レアラーヒポー(Lerer Hippeau)で人材開発を統括する、アマンダ・ムーレイ氏だ。同社が投資する企業の多くも「人材採用イベントを、対面からバーチャルにシフトさせている」。
一方で、コンドラートリテール(Kondrat Retail)の創業者で、プリンシパルのレベッカ・コンドラート氏が指摘するように、ブランドストームのような採用イベントの台頭は、当面は一部の業界に限られるかもしれない。というのも、「ほとんどのブランドで、新規雇用の必要が極めて低いままである」ためだ。
そしてコンドラート氏はこう続けた。「個人的なイメージ、態度や物腰が重要な資質として評価される美容業界では、イベントのオンライン化は加速的に進むだろう。アパレル業界でも、雇用状況が改善すれば、同様の傾向が一気に進むかもしれない」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)