D2Cスタートアップが、早くも悩み多きクリスマスシーズンを迎えている。11月から12月にかけては年間目標を達成できるかを左右する重要な時期だ。例年大量の注文で発送が遅れクレームをつけられるといった苦労はあるが、今年は例年以上に流通は混乱しており、さらに実店舗主体の小売り大手もオンライン販売に参戦するのだ。
EC事業者やD2Cスタートアップが、早くも悩み多きクリスマスシーズンを迎えている。11月から12月にかけては年間目標を達成できるかを左右する重要な時期だ。例年、大量の注文で発送が遅れクレームをつけられるといった苦労はあるが、今年の大変さはそれどころではないと各社のCEOは口をそろえる。
自社サイトやAmazon、ターゲット(Target)、グープ(Goop)、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters, Inc.)などで商品を販売しているヒーロー・コスメティクス(Hero Cosmetics)のCEO、ジュー・リュー氏は「今年は例年と違いすぎて、まるで目をつぶって飛行機を操縦しているかのようだ」と語る。 家庭用商品ブランドのブルックリネン(Brooklinen)のCEOリッチ・ファロップ氏は「今年はかつてない出来事が重なりすぎて、何を計画すればいいのか想像もつかない」と明かす。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、店舗ではなくオンライン購入が増えたことで売上が伸びたECスタートアップは多かった。だが第4四半期も安心、とはいかないようだ。米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(ModernRetail)がD2CブランドのCEOに話を聞いたところ、出荷の遅れや割引競争の激化といった悩みを打ち明けるCEOも多かった。彼らは物流面でのパートナーを増やし、ブラックフライデーなどの大幅セールに先駆けての注文受付や、大幅値下げ以外の方法で消費者を引き付けようと取り組んでいる。
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それと同時に、コロナ禍のなかで最悪のケースに備えているようだ。
物流の混乱
米国では今年の第1、第2四半期でオンライン販売が31.8%増加しており、FedExやUPS、USPS、DHLといった運送業者が配達の遅れを余儀なくされている。中小企業向けのフルフィルメントサービスを提供するシップボブ(ShipBob)によると、上記4社いずれも陸上輸送にかかる平均日数はコロナ以前より長くなっている。
ECスタートアップにとっては、この忙しいクリスマスシーズンにあって配達までの時間がさらに伸びることを覚悟せねばならないようだ。また、秋から冬にかけて再び感染者が増加するおそれもあり、倉庫の一時的な閉鎖や業務の縮小といったリスクも考えねばならない。さらに他国での感染拡大によっては、生産工場にも影響がでる可能性がある。
対策として各社のCEOは、ある運送会社で配達に問題が生じそうな場合に、ほかの運送会社の利用を増やすといった対策を建てるとともに、配達が遅れてしまった場合にイライラしているカスタマーの怒りを鎮める方法も考えているようだ。男性用ボディケアブランド、ヒューロン(Huron)のCEO、マット・マレナクス氏「当社は『7日前に注文した商品がまだ倉庫から発送されていない』とカスタマーに言われた場合の対策を考えている」と語る。ブルックリネンのファロップ氏も、出荷遅れといった「予期しない事態を想定して、カスタマーへのメッセージをすぐに切り替えられるキャンペーンを検討している」という。
マレナクス氏はここ数カ月、特にUPSとUSPSで2日から1週間ほどの遅れが発生するようになっていると語る。同氏は特に遅れがひどかったケースでは新たに商品を送り直すだけでなく、自らシティバイクに乗ってニューヨークのカスタマーに直接商品を届けに行ったことすらあるという。
だが12月のニューヨークで自転車配達は危険だ。そこでヒューロンではFedExとDHLでクリスマスシーズンにきちんと商品が届きそうかテストし、ほかの物流企業にもあらかじめ依頼できないか相談しているという。フルタイムの社員が3人しかいないヒューロンの場合は選択肢も限られている。
一方、今年初めに5000万ドル(約53億円)の資金調達をおこなったファロップ氏は、陸上輸送ではなく「コストはかかるが必要経費として割り切って」空輸するようになったという。
「カスタマーがサイトを訪問してから商品が配達されるまでの体験が一貫していいものであること。我々にとって非常に重要なのはそこだ。もしラストワンマイルの物流サービスが一貫性を欠くのであれば、それまで当社が苦労して積み上げてきた体験が台無しにされてしまう」。
例年以上の競争
どの企業もセールを打ち出すブラックフライデーの時期にあって、どうやってブランドを目立たせるかというのも課題だ。あらゆる分野で今年は特に大幅割引が予想されている。ターゲットやホームデポ(Home Depot)といった小売大手は10月からセールを始めると発表している。
「どこもカスタマーに注目してもらおうと、例年より宣伝を前倒ししている」とヒーロー・コスメティクスのリュー氏は語る。同氏は、ほかのEC企業のCEOと話したときも、今年のセールのプロモーションをどうするかの話がもっとも盛り上がったという。「たとえば『ブランケットが2割引、とするよりも、戦略的に割引率をあげてセット販売したほうがインパクトがある』といったアイデアをみんなで話していた」。
男性向けのTシャツやスウェットなどを取り扱うアパレル企業、マック・ウェルドン(Mack Weldon)のブライアン・ベルガーCEOは「(コロナを踏まえた今年に限らず)例年、第4四半期は各社がマーケティング面で他社を出し抜こうと相当な競争になる」と語る。同氏は「マーケティングの観点からカスタマーに対し、どれだけ即応性をもたせられるか」に気を配っている。
そのため同社ではクリスマスシーズンだからといって特別なマーケティングはおこなっていないという。マック・ウェルドンでは、第4四半期にFacebookやGoogleの広告費が上昇すると予測して、テレビCMの割合を増やす予定だ。実際に、広告を出す企業が増えるクリスマスシーズンは、Facebookの広告費が高くなる。だがベルガー氏は、今年は実店舗メインの企業もオンライン販売を増やしているため、さらに広告費は高くなるだろうと予測し、次のように語った。
「今年はこれまで経験したことのないほど激しい競争が繰り広げられるだろう」。
[原文:‘Flying blind’: How DTC CEOs are preparing for the holidays]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)