フィンテックスタートアップの台頭にともない、これまで堅苦しかった金融サービスや経営コンサルティングの企業がデザインに熱い視線を注いでいる。
デザインと金融、コンサルティングの接近は、最近の企業合併や買収にも見てとれる。ベンチャーキャピタルKPCBの2016年度「#DesignInTech」レポートによれば、2004年以降に買収されたデザイン会社は42社にのぼり、その半分は過去1年のあいだに行われたものだ。
フィンテックスタートアップの台頭にともない、これまで堅苦しかった金融サービスや経営コンサルティングの企業がデザインに熱い視線を注いでいる。
デザインと金融、コンサルティングの接近は、最近の企業合併や買収にも見てとれる。ベンチャーキャピタルKPCBの2016年度「#DesignInTech」レポートによれば、2004年以降に買収されたデザイン会社は42社にのぼり、その半分は過去1年のあいだに行われたものだ。
たとえば、米金融持株会社キャピタルワン(Capital One)はデザインスタジオのモンスーン(Monsoon)を、スペイン大手銀行ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)はUXデザインコンサルティングのスプリングスタジオ(Spring Studios)を、それぞれ2015年に買収している。
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そして2016年も、仏大手経営コンサルティングのキャップジェミニ(Capgemini)がデザインコンサルティングのファーレンハイト212(Fahrenheit 212)を買収した。

KPCBの2016年度「#DesignInTech」レポートより
スタートアップという脅威
求人市場もこのトレンドを反映しており、エージェンシーはデザイナー探しに四苦八苦している。「ここ数年、金融業界でこの傾向が加速している理由はわからない。だが、経営コンサルティングがデザインの分野にまで広がるのは自然な流れだ。そもそも、コンサルティング業界は実行よりも戦略を重んじていると批判されることが多いくらいなのだから」と、英デザインコンサルのブランドユニオン(Brand Union)でクリエイティブディレクターを務めるサム・ベッカー氏は語る。同氏によると、デザインはコンサルティング戦略をロジカルに表現したものだという。
旧来の銀行はいま、ベンモー(Venmo)、ベターメント(Betterment)、ウェルスフロント(Wealthfront)など、プロダクト体験の向上を目的に設立された専門性の高いスタートアップに脅威を感じている。プロダクトデザイン企業インビジョン(InVision)の戦略パートナーシップ担当バイスプレジデント、スティーブン・オルムステッド氏は次のように述べている。
「大企業は、小規模で効率的なスタートアップが巻き起こす混乱に対して自分たちが脆弱であることを認識しはじめた。デザインは(デジタル混乱の)根本だ。金融業界のような業界は、そのような混乱にあらかじめ備えて、覇権を守るため、デザインインフラに巨額の投資をおこなっている」。
ブランド再構築の手段
顧客の資産管理を担う全米教職員年金保険基金(TIAA)にとって、デジタル・モバイル時代に向けてブランドを再構築するうえで核となるのがデザインだ。TIAAは5年がかりで、約50人からなるユーザー体験チームを社内に組織した。
「我々は過去15年間、年金サービス機関から多目的金融機関への転換をはかってきた。2016年の改称(旧称はTIAA-CREF)を機に、我々はデジタル資産を根本から見直し、人々に我々のブランドについて知ってもらう必要性を認識した」と、TIAAのブランド戦略・総合マーケティング担当責任者、ジェイム・パニシル氏は言う。
「デザイン志向の顧客中心アプローチ」に基づき、TIAAは2016年2月にWebサイトをリニューアル。コンテンツ管理システムを刷新し、パーソナライズ機能が加わった新サイトでは、訪問者が属するユーザー層に応じてカスタマイズされたコンテンツが提供される。75歳のユーザーと25歳のユーザーには異なる資産運用アドバイスが提示される、といった具合だ。
パニシル氏によると、6月の時点で、サイトのトラフィックは前年比40%増、クリック率は前年比800%増だという。同氏は、「我々のブランド認識とマーケティング目標はデザインに支えられている。いまの我々はまるでフィンテックスタートアップだ」と、述べた。
TIAAは買収ではなく直接雇用でデザイン能力の強化を図っているが、もっとよく見られるのは、デザイン企業を吸収し、タレントプールを構築することで、デザイン能力を向上しようとする傾向だと、大手コンサルティング企業PwCでデジタルサービス部門のグローバルリーダーを務めるトム・プティヤーマダム氏は言う。
全員参加アプローチが必須
しかし、そこで多くの企業が同じ過ちを犯している。新設のデジタルチームや才気あふれるクリエイティブを、ほかと隔離してしまうのだ。「必要なのは全員参加アプローチだ」と、プティヤーマダム氏は言う。
「旧態依然の金融サービス会社や経営コンサルティング企業が、ある日突然デジタルプロダクトを提供できるようになるはずがない。組織内のビジネス、金融、経営に関する見識を総動員して、クリエイティブデザインの糧とし、デジタルソリューションの開発にあたるべきだ」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)