[ DIGIDAY+ 限定記事 ]バーガーキング(Burger King)のグローバルチーフマーケティングオフィサー(CMO)フェルナンド・マチャド氏には、スーパーパワーがある。マーケティングがアートよりもサイエンスに近くなり、マイクロターゲティングとデータが重要という時代においても、彼はクリエイティビティのチャンピオンであり続けている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]バーガーキング(Burger King)のグローバルチーフマーケティングオフィサー(CMO)であるフェルナンド・マチャド氏には、あるアイデアがあった。同社のワッパーバーガー(Whopper burger)をリミテッドエディションで作ってファンに売り込み、美しいレインボーカラーのペーパーで包んで販売するというものだ。客が包みを開けると、なかに入っているのは何年も前からおなじみの、いつもと同じワッパーであることに気づく。2014年、サンフランシスコのプライドパレードに合わせて特別に制作されたこのキャンペーンのメッセージには「私たちの中身はみんな同じ」というものが予定されていた。社内ではなかなか受け入れてもらえなかったが、マチャド氏はこのアイデアを信じ、これがバーガーキングはインクルーシブなブランドであり、現状を変えようとしているということを示すキャンペーンになると考えていた。
マチャド氏のエージェンシーパートナーで、当時WPPグループの傘下にあったエージェンシー、デイヴィッド(David)の共同創業者である(そして広告案件でもマチャド氏と長年組んでいる)アンセルモ・ラモス氏は、案じていた。マチャド氏は大々的で突飛なアイディアを出すことで知られている。だが、この企画を実施したときのメリットに対して、マチャド氏の押しが強すぎるのではないかと気をもんでいたのだ。「私は(マチャド氏に)、この企画を押し通したら、君はクビになるかもしれない。ほかのアイデアを考えよう、と伝えた」と、ラモス氏は語る。
マチャド氏は取り合わず、そうなったら自分は君のエージェンシーで、君の下で働くと言ったという。「プラウドワッパー」企画は実施され、成功を収めた。客は包み紙を集めて持ち帰り、この見事なPR戦略により、バーガーキングはヒップでインクルーシブなブランドであるという、誰もが欲しがる若者世代からの認知度も上がった。
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ひと言で言えば、これがマチャド氏のスーパーパワーだ。マーケティングがアートよりもサイエンスに近くなり、マイクロターゲティングとデータが何よりも重要という時代においても、彼はクリエイティビティのチャンピオンであり続けている。クリエイティブなマーケティングこそがビジネスを牽引すると信じているのである。
「クリエイティビティが結果を生むという事実を示すデータは十分にある。こうした取り組みへの投資から収益も上がっている。プレスにも取り上げられる。文化にも影響を及ぼしている。ソーシャルメディアもある」と、業界内ではフェルで通っている43歳のマチャド氏は語る。「私の言っていることが事実で、それが事実なのだと我々が信じれば、これはかなりシンプルな話だ」。
「クリエイティビティを信じている」
バーガーキングはマチャド氏の指揮の下、ワッパーを早く手にいれるためには、より高い料金を払うよう顧客に求める新しい動画を発表し、ネット中立性に対する同社の立場を明確にしている。また別の動画では、ルーマニアにはバーガーキングが1店舗しかなく、しかもそれが空港内にあるということに焦点を当て、航空券を買ってワッパーを食べにいくよう呼びかけた。ほかにも、フランスでバーガーキングの近くに引っ越すという人たちの引越し費用を負担したり、競合であるウェンディーズをデートに誘ってみたり、運転しているサウジアラビアの女性に無料で「WhoppHER」をプレゼントしたりもしている。また、チキンフライを女性向けには男性よりも値段を高く設定し、「ピンク税」(同じような商品でも女性用のほうが男性用よりも高いとする考え方)について解説したり、ジオロケーションマーケティングの巧妙さを挙げ、マクドナルドの店舗から600フィート(約180m)圏内に入った人がバーガーキングのアプリからワッパーを注文すると1セントで購入できるといったキャンペーンを実施したりもしている。これだけのことを、昨年1年間だけで行なっているのだ。
「組織がよりクリエイティブなものになるよう後押しをして、才能ある人たちが働きたい、働き続けたいと思ってくれる組織にすることが自分の役割だと思っている」と、マチャド氏はいう。「私の仕事は、いまから10年後、15年後の、このブランドのイメージをこういうものにしようと作り上げていくことだ。売上を上げることは責務であり、ブランド構築は後に残していくためのものだ」。
マチャド氏は、マーケティングポジションのリーダーを務めたのち、2年前にバーガーキングのCMOに就任している。彼にとってこの2年間でのもっとも大きな変化のひとつが、検討しなければならない内容のなかでもテクノロジーの要素が「急激に膨れあがった」ことだろう。大抵のマーケティング責任者にとって、これはデータとテクノロジーに特段の焦点を当てること──もちろんマチャド氏もそれが大事であることは理解している──を意味している。だが、マチャド氏にとってそれは、どちらかというと、彼がクリエイティビティのレゾンデートル(存在理由)だと思っているものを強化する理由になっているのだ。「私はクリエイティビティを信じているし、そういう方向に組織を後押ししていく」と、彼はいう。「それを後押しするのは、CFOの役目でもないし、人事担当者の役目でもないだろう」。
「クリエイティビティ」の価値を重視するCMOは、マチャド氏がはじめてではないし、もちろん最後にもならないだろう。だが、マーケターたちが浪費をやめて自らの価値を証明しろというプレッシャーにさらされているこの業界では、マーケティングの力を本当に信じているであろうマーケティング責任者の最後のひとりとして、彼は突出した存在だ。彼の人気が、とりわけエージェンシーのあいだで高い理由は、間違いなくそこにある。
「マーケティングの神のような存在」
「彼の強みのひとつは、全体像を見ながら、細かいところにも深い洞察力を働かせられるところだ」と、コンサルティング企業R3の共同創業者、グレッグ・ポール氏は語る。「一緒にケーススタディをいくつか検討したことがあるが、細かいところをチェックしつつ、同時に戦略的にもなれる数少ないマーケターのひとりだと思う」。
「いまや彼はマーケティングの神のような存在だ。クライアント側にいる協力者といってもいい。我々側に立ってくれている」と、コンサルティング企業オグルヴィ(Ogilvy)在籍時には、一緒にダヴ(Dove)の仕事もしていたというラモス氏も、マチャド氏をそう評している。
ラモス氏にとって、そしてエージェンシー担当者のほとんどにとっても、マチャド氏が特別な存在なのは、代理店が果たす役割が小さくなっていることをマーケターが嘲る時代にあって、彼はそうしないからである。「クライアントが電話してきて『ブランドXで君のフェルナンド・マチャドになりたい』と言われることがある」と、ラモス氏はいう。「彼らにそんなことは不可能だ。なにもかも承認してくれるつもりなのか? どんなことでもやらせてくれるのだろうか?」。
マチャド氏の人気をさらに高めている魅力のひとつに、派手な広告の重要性を理解していながらも、CMOがやることではないだろうと思われるようなほかの仕事にも、多くの時間を割いているというところがある。
ここ6カ月、彼は商品の研究開発により多くの時間を費やしているという。現在、バーガーキングでは、製品を無添加にするというミッションをかかげている。ハンバーガーやサンドイッチから、人工調味料や保存料を完全に取り除こうというのだ(これは昨年秋にマクドナルドが発表した、アメリカで販売している7種のクラッシックバーガーを人工調味料や保存料、着色料を使わないという動きに追随するものである)。
「広告やデザインは、私や私のチームがしている仕事のうちの25%でしかない」と、マチャド氏はいう。あとの75%は、製品とテクノロジーとのあいだを行き来するような部分である。「仕事としては華やかな部分ではないし、もちろん自分たちがやっているマーケティングの仕事にはこだわってもいる。だが、ブランドのためになることをするのは、私にとってはとても楽しいことだ」。
原点は「洗濯用洗剤の箱」
彼の仕事へのこうした取り組み方は、マーケティングの世界で正統派の道を歩んできたことに依る部分もあるだろう。ブラジルで育ったマチャド氏は──意外でもなんでもないが──サッカー選手になりたいと思っていたという。だが、数学と英語も得意だった。機械工学を学んだのち、最初に働いたのがサンパウロ郊外にあるユニリーバ(Unilever)の工場である。そこで彼は、洗濯用洗剤の箱を扱っていた。
ある日マーケティングチームがやって来て、マチャド氏は彼らの仕事に興味を惹かれる。「これはすごい、ビジネスもやってデザインもしている。数字もクオリティも見ているんだな、となった」。
そして、1998年にユニリーバのマネジメント研修生プログラムに参加し、以降18年間同社で働いて、ほぼありとあらゆるカテゴリーの製品を扱ってきた。ユニリーバでのマーケティングといえば、その中心になるのは製品だ。
たとえば、ユニリーバで働いた最後の4年間でマチャド氏はダブを担当し、その間に「リアルビューティースケッチ(Real Beauty Sketches)」というキャンペーンを率いていた。「私は製品関係に多くの時間を費やしたし、パッケージにも関わった。そういったことはなかなか話題にのぼらないが──カンヌライオンズを20部門受賞したとかいう時に持ち出される話ではないので──同じくらい、もしかしたらそれ以上に重要なポイントだ」。
バーガーキングのカンヌでの受賞について、スラスラと語ったのと同じ次元で、オニオンリングのパッケージをしっくりくるものにするのがいかに重要かを語る、この二面性が彼ならではの魅力なのだ。
そして、業界の大物CMOたちが注目している問題についても冷静だ。FacebookやGoogleにどれだけ費用を費やすことになるのか、デジタル広告詐欺でどれだけの予算を無駄にしたのか心配していないのかと問われても動じない。「自分がその問題にどんな影響を与えられるのかわからないときには、その問題には注力しない。バーガーキングにおいて肝心なのはフードのリサーチだと考えているし、いまの品揃えを無添加にするためには、それが今月の売上に影響しないとしても、死ぬ気で闘っていくつもりだ」という。それはつまり、会社内のほかの誰よりもバーガーキングのレストラン内で長い時間を過ごしているということだ(彼はドライブスルーの対応以外は何もかもやり方を把握している──「ドライブスルーはあたふたしてしまう」)。
無駄を心配するマーケターに対しては、自分のアナリティクスを修正しろ、という。「各社が広告詐欺に対して連携していこうと決めるのならば、もちろん自分もそれに賛同はする。だが、ほかにコントロールしなければならないものがあるのに、広告詐欺との戦いに日々の時間を費やすつもりはない」。
アンディ・ウォーホルの失敗
マチャド氏とくれば、アンディ・ウォーホルについて訊かずにインタビューを終わらせるわけにはいかない。なにしろバーガーキングがついこのあいだ出した広告は、スーパーボール史上最悪の広告のひとつとしてあちこちで酷評されているのだ。アンディ・ウォーホルがワッパーを食べているドキュメンタリー映像を使ったこのCMは、ひとりよがりで、消費者ではなく広告エージェンシーに向けたものだと非難されている。USAトゥデイ(USA Today)紙の人気企画であるアドメーター(Ad Meter)では、この#EatLikeAndyというCMが最下位にランク付けされた。クリエイティビティにもリスクはあるのだ。
だが、彼はひるまない。「無駄なことをやっていると思われるのは、我々がすでに優れた企画を沢山やってきているからだ」という。「私はあえて危険を冒したが、間違いは起こる。ただ、我々はこれまで以上にクリエイティビティを大事にしている。こういうことをやってみるのは怖くないのかって? 毎回ひやひやしているよ」。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)