世界中の企業がメールを送っているなかで、設立から間もないスタートアップがカスタマーの注目を集めるのは容易なことではない。そんななかでもなんとか目立とうと、セールや重要イベントのプロモーションにテキストメッセージを活用するスタートアップが登場している。
最近、筆者のところには「ラストチャンス」セールのお知らせメールが毎日のように届く。GAPやメイシーズ(Macy’s)といった小売企業による、できる限り買い物客から収益を得ようとする取り組みのひとつといえるだろう。
だが、世界中の企業がメールを送っているなかで、設立から間もないスタートアップが顧客の注目を集めるのは容易なことではない。そんななかでもなんとか目立とうと、セールや重要イベントのプロモーションにテキストメッセージを活用するスタートアップが登場している。
その一例が生理用下着を販売するシンクス(Thinx)だ。同社は8月に行った3割引セールを、テキストメッセージで宣伝している。同社のエンジニアリングおよびデジタル製品担当バイスプレジデント、ブレンダン・ヘイスティングス氏によると、SMSから同社のウェブサイトにアクセスしたカスタマーのうち、25%がセール期間中に商品を購入しているという。
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眼鏡レンズやフレーム、コンタクトレンズをオンライン販売しているレンザブル(Lensabl)のアンディ・ビリンスキーCEOによると、同社ではeメールよりテキストメールによる通知のほうが登録ユーザーが増えやすいデータが得られており、ブラックフライデーとサイバーマンデーで売上を伸ばすためにテキストメッセージを使う予定だという。
加速度的に増加しているSMS利用
D2Cスタートアップのなかには、いまだにセールを嫌がるところは多い。また、メールではなくテキストメッセージを使うという取り組みを行うスタートアップは以前からあった。
だが、特にブラックフライデーやサイバーマンデーといった全国規模でセールが行われる時期にあって、自社のセールをいかに目立たせるかというのは大きな課題だ。そしてカスタマーの側からすれば、企業に電話番号よりメールアドレスのほうが教えやすい。SMSが検討されているのはこういった理由もある。とはiえ、小売企業からテキストメッセージを送られるのに慣れていないカスタマーは多く、せっかく送ったところでスパムメッセージだと思われるリスクも小さくない。
SMSの利用はすでに加速度的に増えている。マーケティングプラットフォームのオムニセンド(Omnisend)によれば、今年の第2四半期に、同社のソフトウェアを介してカスタマーにテキストメッセージを送った企業数は、前年同期比で239%も増加しているという。一方、それでも同社のクライアントが第2四半期に送信したテキストメッセージは180万通にすぎず、それに対してeメールは実に24億通だった。
「EC企業にメールアドレスを教えるのは、実際は電話番号を教えて、テキストメッセージで割引をはじめとする情報を得る前段階に過ぎないと考えている」と、ビリンスキー氏は語る。
「コンバージョンが倍近くに高くなる」
ほかのD2Cブランドと同様、レンザブルもまた今年になって初のセールを実施した。これまで同社は、ホームページに初めてアクセスしたカスタマーに対し、同社のメールリストに登録すると2割引クーポンが手に入ることが書かれたポップアップ画面を表示していた。だが、約2カ月前に同社はポップアップ画面の内容を変更した。メールアドレスを教えるか、ブランドにテキストメッセージを送信するかをカスタマーが選択し、選んだほうで割引コードを受け取る内容となった。ビリンスキー氏によると、それ以降およそ4割のカスタマーがメールではなくテキストメッセージを選択しているという。
「テキストメッセージの送信日のコンバージョンが週、月でもっとも高い。同じようなプロモーションをメールで実施するより、倍近くもコンバージョンが高くなる」と、ビリンスキー氏は語る。
レンザブルは現在、週に2本のメールを、月に2本のテキストメッセージをカスタマーに送信している。クリスマスシーズンが近づくなか、ビリンスキー氏はテキストメッセージを週に1本に増やすことを予定しているという。ブラックフライデーとサイバーマンデーでは、サイト全体のセールではなく、眼鏡のレンズやフレーム、コンタクトレンズといった製品ごとに分けてセールを行う。
また、レンザブルは、カスタマーの登録解除を増やさないようにしつつ、カスタマーへのテキストメッセージの送信頻度も増やす方法を模索している。「テキストメッセージは、もともと煩わしいと感じさせにくいチャネルだ」と同氏は語る。
「スパムに感じさせないことが重要」
一方、シンクスはここ7カ月間、カスタマーサービスにテキストメッセージを活用している。カスタマーは、注文時にテキストメッセージで通知を受け取るかどうか選択できるようになっている。昨年末のセール時には、一部のカスタマーにテキストメッセージでセールの通知も行った。だがSMSの登録者全体にテキストメッセージで通知を行ったのは、8月のセールが初めてだったという。このときのカスタマーのクリックスルー率は11%を超えた。
「メールを登録しているカスタマーのほうが多いので、より収益につながっているのはメールだ。それでもこの結果は、非常に満足がいくものだった」とヘイスティングス氏は語る。
同氏は今後、年間で6〜8種類のキャンペーンにテキストメッセージを活用する予定だという。
「登録しているカスタマーには、クリスマスシーズンにSMSで通知を行う。当社の目標は、スパムメッセージのように感じさせないことだ。当社のテキストメッセージに価値があり、新しい情報が見つかると思わせたい」。
[原文:Fearing a holiday email onslaught, DTC startups turn to text messaging to promote sales]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
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