複数のブランドを抱えるリテーラーの間でオンラインの競争が激しくなるにつれ、オフラインでのコラボレーションが増加している。これは一時的な「休戦」というわけではなく、今後消費者から求められるであろう「価値あるリアルな体験」を提供するための、必要不可欠なパートナーシップになる可能性が高い。
複数のブランドを抱えるリテーラーの間でオンラインの競争が激しくなるにつれ、オフラインでのコラボレーションが増加している。
米百貨店チェーン「ノードストローム(Nordstrom)」の3つの店舗で、川久保玲がプロデュースするセレクトショップ「ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market、以下DSM)」がインショップ出店をすることが先日発表された。ノードストロームが展開する「スペース」は、同社のクリエイティブプロジェクト担当バイスプレジデント、オリビア・キム氏が立ち上げたブティックで、新進デザイナーに注目している。
このスペースにて、DSMの縮小版が6週間展開される予定だ。DSMはこれまで実店舗を、銀座やニューヨークなどの都市でグローバルに出店してきた。今後ニューヨーク、ロサンゼルス、バンクーバーの消費者は、ノードストロームの店頭にてDSMの商品を手にすることができるようになる。
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リテーラーのコラボが生み出す価値
ブランド同士のコラボレーションは至るところで目にするようになったが、リテーラー2社が協働するというのは斬新な戦略だ。何年ものあいだ、デジタル広告のコストの上昇は消費者をめぐるリテーラー間の熾烈な競争に光明を投じてきた。だがパンデミックによってeコマースが加速し、フィジカルな体験が希薄となるなかで、店舗を持つリテーラーはユニークなチャレンジを迫られており、チャレンジすることへの警戒も緩めている。
今回のようなふたつのリテーラーの組み合わせは、単体の場合よりも価値ある体験を生み出す可能性が高くなる。
「(キュレーションされた、フィジカルでの)体験がビジネスにとって非常に重要であることを、リテーラーは心得ている。だが一方で、その実現のためにはスキルや配慮が必要であることも理解していて、必要なリソースを現在すべてのリテーラーが持っているわけではないことは悩みの種だ」と語るのは、新世代のデパート、ショーフィールズ(Showfields)の共同創業者兼CEO、タル・ズヴィ・ナサネル氏だ。「だからリテーラーは、コラボレーティブなアプローチに未来を見出している。『顧客の目に留まること』というのは、あらゆるリテーラーに共通する命題だからだ」。
1月には米老舗百貨店サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)がニューヨーク本店の5階と、グリニッジ(コネチカット州)の小さな路面店(かつて同社が「ザ・コレクティブ[The Collective]」を運営していた場所)にて、バーニーズ・ニューヨークの後継店舗バーニーズ・アット・サックス(Barneys at Saks)の展開を開始した。このリテーラー同士のパートナーシップは、2019年下旬にバーニーズを買収したブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group)が、破綻処理の一環として実施したものだ。
施策のコンセプトは、新進デザイナーの発掘に強みがあるバーニーズによって、サックスの商品供給体制を強化すること。注目のスタイルを定期的に入れ替えるほか、脳の健康を追求するレストランのハニーブレインズ(Honeybrains)も展開する。バーニーズは閉店前、とても人気のあるレストラン、フレッズ(Freds)を運営していた。
「賭け」に出るリテーラーたち
バーニーズ・アット・サックスの成功について話すのはまだ時期尚早だと、サックスのチーフ・マーチャントであるトレイシー・マーゴリーズ氏は語る。単体で挑むリテーラーや、消費者がブランドを見つける場として存在感を増すインスタグラムと競うための、賭けみたいなものなのだという。
「ファッションを体験し、探求し、発見する最終目的地にしたい」と同氏。「我々にとってもっとも重要なのは、消費者を興奮させ、最高のセレクションを提供することだ」。
同様のコンセプトを先んじて実践してきたファーフェッチ(Farfetch)傘下のブラウンズ(Browns)は4月初め、旗艦店をロンドンのメイフェア地区に移してオープンさせた。ホリー・ロジャースCEOによると、アーティストやデザイナーだけでなく、リテーラーとのクリエイティブなパートナーシップは、同社の要になっているという。「カルチャーやコミュニティのため、そして商品を超越したところでのストーリーテリングを実現するために、店舗の販売スペースを提供している」。
ブラウンズはこれまで、昨年閉鎖されたレンタルプラットフォームのアルマリウム(Armarium)と2018年に、スニーカー専門のリセーラーであるスタジアムグッズ(Stadium Goods)とは2019年に、それぞれコラボレーションを実現してきた。提携の声がかかることも多く、2017年にはロサンゼルスの人気セレクトショップであるフレッド・シーガル(Fred Segal)にて、傘下のベルリンで展開するセレクトショップ、ノマド(Nomad)を米国向けにローカライズしたポップアップストアを開いた。同社はこのようなコラボレーション戦略に今も積極的だ。
「消費者の行動が絶えず変化する今日のリテール市場では、コミュニティをシェアするという新しい概念でのアプローチが必要だと理解している」とロジャース氏は語る。
新興百貨店たちは冷静
老舗ブランドが、新参ブランドのコミュニティやコンセプトによって興味や関心を引こうとするのは、必ずしも古い手法ではない。
たとえば、創業から2年のショーフィールズは、3月にマジックボックス(Magic Box)をローンチした。目指しているのは、サステナビリティやPOC(有色人種)が立ち上げたブランドなどのテーマで、特別かつ付加的な店頭体験を提供する際に、リテーラーから頼りにされるパートナーになることだ。
「ブランドやアートをより見つけやすく、そして共感してもらえるような展示方法を顧客に提供できないかと、常に模索している。そして、それを実現できる場所でありたいと、我々は望んでいる」とショーフィールズCEOのナサネル氏。1年以内に「数千もの」マジックボックスを展開することが目標だという。
デジタルによる代替策はそれほど魅力的ではない、とナサネル氏は言う。「オンラインマーケティングは(パンデミック期に)文字通り、武器になった。というのも、ブランドにとってもリテーラーにとっても、それが残された唯一の手段だったからだ。オンラインの競争は以前よりも明らかに激化している」。
自らを「新しいタイプの百貨店」と称する2017年創業のリテールプラットフォーム、ネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)は、リテーラーとのコラボレーションを急いではいないようだ。だがコラボレーションは両社に価値をもたらすと、共同創業者兼CEOのマット・アレクサンダー氏は考えている。
「(伝統的な百貨店との)コラボレーションには、とても興味がある。彼らのあいだに、若いブランドやローカライズされたブランドと組むことを目指す動きがあるのは素晴らしいこと」と同氏。「この、百貨店とマルチブランドをくっつけたようなリテールの世界では、物事を複雑にとらえすぎることがある。でも結局のところ、ブランドや商品を適切に組み合わせているかどうかが問題なのだ」。
今後はパートナーが不可欠に?
際立つ商品を提供するために、パートナーが不可欠となる場合もあるだろう。2020年に事業が成長して「想定外の新たな収益性」を見出したネイバーフッド・グッズには現在、新たな需要が生まれている。アレクサンダー氏によると「(パンデミック期に)大規模なリテーラーや百貨店の大きな問題に幻滅した」ラグジュアリーブランドや格式ある伝統ブランドが、替わりの販売チャネルを探し求めているのだという。
ネイバーフッド・グッズが有名な百貨店と異なる点は、プラットフォーム型の事業モデル以外にもある。店舗をモールではなく「活気のあるエリア」に出店することだ。たとえば3月にオープンしたオースティン店は、サラダ専門店「Sweetgarden(スイートガーデン)」のテキサス1号店やクリエイター向けの会員制サロン「ソーホーハウス(Soho House)」と隣接。店内にはレストランも備えるほか、オンデマンド配達にも対応している。
大手リテーラーのなかには、認知度を上げるためネイバーフッド・グッズと提携し、店頭でプライベートブランドの販売を開始したところもあるというが、アレクサンダー氏は企業名の特定は避けた。
「利便性、コミュニティ、コンテンツ、キュレーション、コネクションといったものが、今日の顧客にとってどのような意味があるのか、あらゆるリテーラーは自問すべき。その結果が、このような(リテーラー同士の)コラボレーションなのだ」とナサネル氏。「リテーラーとは結局のところ、オーディエンスを抱えるパブリッシャーのような存在。彼らをわくわくさせるコンテンツを作り続けるのは難しいことだが、成功のためには不可欠だ」。
[原文:Fashion Briefing: Why retailer x retailer collaborations are catching on]
JILL MANOFF(翻訳:田崎亮子/編集:分島翔平)