ファレル・ウィリアムス氏のオークションサイト、ジュピター(Joopiter)は、将来を見据えたフレームワークを提供している。成長、シームレスな変化、柔軟性、さらにはインクルーシビティのために設定されたそのサイトは、デザインによって従来のパラメータからはできる限り解放されている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
eコマースの古いルールはもはや通用しない。
ファッションとビューティがパンデミックの瓦礫の中から立ち上がり、小売の風景が一新されているのを感じているなかで、ブランド・アイデンティティの進化、保護、強化に対して新しく早急に対応することがトレンドとなっている。ファレル・ウィリアムス氏のオークションサイト、ジュピター(Joopiter)は、立ち上げに携わった多くの関係者が述べているように、将来を見据えたフレームワークを提供している。成長、シームレスな変化、柔軟性、さらにはインクルーシビティのために設定されたそのサイトは、デザインによって従来のパラメータからはできる限り解放されている。
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この会社は10月に華々しくローンチした。だが、このストーリーに貢献している利害関係者たちはそれぞれ何らかの形で、まだ始まったばかりだと表現している。
初オークションで成功を収め、今後が期待できるジュピターとは?
複数の肩書きを持つウィリアムス氏が考案したジュピターは、文化的に卓越している彼自身の持ち物のオークションでデビューした。そのなかには、ウィリアムス氏が2000年代に身につけていたダイヤモンドのペンダントネックレスや、授賞式で着用した「Women’s Rights」と書かれたジャケットなどがあった。525万ドル(約7億円)を売り上げたこのプレミア・オークションを、CEOのケレン・ローランド氏は成功したと評価している。当初予想されていた320万ドル(約4.3億円)を上回り、97%の売れ行きを達成した。だが、今後のオークションでは、注力する製品やオーディエンスなど他の要因に合わせて、体験を一新する予定である。たとえば、ジュピターのオークションアイテムの価値は主にその来歴に基づいているため、ストーリーテリングのために専門のコピーライターを新たに起用するつもりだ。
常駐のクリエイティブ・ディレクターをコレクティブに置き換えている現代のブランドを想起すると、ジュピターの正社員はわずか10名だ。ローランド氏は、CX(カスタマーエクスペリエンス)のビジョンを推進した同社のプロダクト担当バイスプレジデントであるアンドリュー・ライチ氏と、編集の基礎を築いたコンサルタントのアナ・アンドジェリック氏の名前を挙げた。ブランド開発は、テクノロジーからデザインにいたるまで、それぞれの分野の外部専門家やイノベーターに大きく依存している。その中には、ヴァージル・アブロー氏が創業したクリエイティブエージェンシー、アラスカ アラスカ(Alaska Alaska)や、eコマースエージェンシーのワンロックウェル(One Rockwell)がある。後者は、Shopifyの競合で創業4年のコード(Chord)や、オークションに特化したバスタ(Basta)などのSaaS企業と契約している。
ローランド氏はハーシェル・サプライ・カンパニー(Herschel Supply Company)からウィリアムス氏のアイ・アム・アザー(I Am Other)に移り、オペレーションを率いることになった。このクリエイティブ・エージェンシーは、ブラック・アンビション(Black Ambition)やヒューマンレース(Humanrace)など、ウィリアムス氏の多くのビジネスを支えている。「Son of Pharaoh(サン・オブ・ファラオ)」と名づけられたジュピターの最初のオークションは、デジタルファーストの現代のオークションハウスの需要を証明したという。また、文化的遺物の寿命を延ばすという新たな現象も引き起こした。
ドレイク氏はこのオークションで得たものをミュージックビデオで着用し、キッド・クーディ氏はジュピターに投資して入手したものを自身のワードローブの定番にしたのだ。
高額なオークションアイテムに加え、ジュピターはグッズでブランドを構築し、より多くの人々がコミュニティに参加できるようにしている。
絶対厳守のルールは避け、流動的なアプローチのスタイルガイド
アラスカ アラスカのチームは当初、ジュピターのロゴを作るためだけに雇われた。しかし、最終的にはブランドの「フレームワーク(同スタジオはそう表現している)」全体の制作を担当することになった。このチームは、ブランドのガイドラインというよりは並列的なブランド要素を定義し、さまざまなオークションやブランドコラボレーターの指示にしたがって交互に用いることができるようにした。ちなみに、この記事のためにインタビューしたアラスカ アラスカのチームメンバーたちは、個人としてではなく、スタジオ全体の意見として引用されることを希望している。
なかでも注目すべきは、アラスカ アラスカが、ジュピターのために2種類のロゴを定義したことだ。ひとつは「きわめてクラシカル」で「より従来のオーディエンスに語りかける」ロゴ、もうひとつはサンセリフのフォントのよりモダンなバージョンである。さらに、語彙からカラーパレットにいたるまで、ブランドのあらゆるクリエイティブ表現において、クラシックとモダンの選択肢を定義していったという。同時に、絶対厳守のルールは避けた。たとえば、パープルはブランドが使用する色のひとつではあるが、「決してブランドカラーではない」とチームは言う。
この戦略の根幹にあるのは、「インクルーシビティ」の醸成だ。その意図は、高値で落札するために、あるいは単にアイテムについて知るためにサイトを訪れたとしても、人々がその体験のなかでくつろいだ気分になれるということにある。同様にこのサイトでは、どのアイテムもほかのアイテムよりも価値があるという位置づけにはなっていない。アラスカ アラスカのブランドスタイルガイドに対する流動的なアプローチは、ウィリアムス氏のジュピターの基盤となっている「Letting things go(物事を手放そう)」を反映したものでもある。
音楽、アート、プロダクト、グラフィックデザインなど、さまざまなプロジェクトを手がけているアラスカ アラスカのチームは「我々は文化、プロダクト、消費主義の分岐点にいる。そこでは自分自身を真剣に考えすぎると終わってしまう」と語る。
つねに新しいアイデアを導入するウェブサイトの構築
同じくジュビターのシームレスなローンチと長期的なビジョンでカギとなったのは、非固定的な機能を持つウェブサイトの設定だった。厳しい納期と、つねに新しいアイデアの導入が求められるこのサイトの開発を管理するため、ワンロックウェルが採用された。
ワンロックウェルの共同創業者でプレジデントのポール・ヒーリオン氏は、このプロジェクトを「動く標的」と表現する。
「クライントが月曜の朝、起き抜けに新しいアイデアを思いつき、それを実行に移すということだ」と彼は言う。「でも『それは先月決めたことと違う』とは誰も言わない」。
オープンシステムで参入するという決定を破棄したあと、ワンロックウェルはローンチ2週間前に入札者のIDチェックを円滑に進める担当となった。そして数カ月後、ジュピターのマーチャンダイズのアイデアが浮上し、それまでリアルタイム更新のライブオークションに特化していたサイトに、従来のショッピング機能を追加する必要が生じた。
このプロジェクトにおけるワンロックウェルの役割は、プロジェクトが発展するためのスペースを作り、イノベーションの限界を押し上げ、潜在的なリスクを伝えてそれを軽減することだと、ヒーリオン氏は総括している。ワンロックウェルが推奨するコードやバスタといった、市場に出たばかりのプラットフォームに賭けることに、ローランド氏は賛同したという。一方でワンロックウェルは、いまのところオンラインで成功させるのは不可能な、超急進的なアイデアに関して意識を合わせなくてはならなかった。
高尚なeコマース技術は民主化されてきた
ワンロックウェルの貢献を支えたのは、かつてグロシエ(Glossier)にいたヘンリー・デイビス氏とブライアン・マホニー氏が立ち上げたコマースプラットフォームのコードだ。
ビジネスを支えるにあたりFacebook広告の売上には頼れないいま、所有するテクノロジーとファーストパーティデータがブランドにとって新たな重要性を持つ、というのがコードの売りだ。マホニー氏によると、コードは「データで勝負」する。簡単に理解できて、すぐに実行できる責任ある方法で、ブランドのクライアントにそれを提供するのだ。
さらにマホニー氏いわく、コードは「2年後に必要になるだろうとわかっているツールを、初日にブランドに提供している」。逆に、オンラインでレベルアップするための不変の回答として「そのためのアプリを見つける」ことは、顧客体験を損ない、ブランドの進化スピードを妨げるという。彼によれば、ジュピターの技術スタックの80%はコードが占めている。バスタは、そのミックスを仕上げている。
高尚なeコマース技術は民主化されてきたと、ヒーリオン氏は言う。つまり「革新的で市場投入の早いヘッドレスサイト」のコストは、数年前の標準的なサイトと同じなのだ。同時に、利用可能なeコマース・ツールは、複雑さを増すことなく、より強力になっている。そのため、今では小規模なブランドでも、ユニークなユーザージャーニーやそのほかの高度な顧客体験を実現して、業界の大手企業と有利に競合できるようになった。
大規模なチームワークで作り上げた未来へのプロジェクト
ワンロックウェルのCEOシェリー・ソコル氏は、ジュピターのように、長期的な目標に向かってカスタムサイトを開発するブランドが増えるだろうと予想している。
しかし、それは大規模なチームワークを必要とするかもしれない。ソコル氏はジュピターのプロジェクトについて、ローンチ前の関係者との「24時間無休のコミュニケーション」を指し、「これほど協力的な経験はなかった」と述べた。
ジュピターのアプローチは、進化と同時にクリエイティビティにもふさわしい。ウィリアムス氏が関与していることを考えれば、まさにぴったりはまっている。
ローランド氏は、同社は近々新規採用を行うと述べた。それに加え、さらなるオークションも控えているが、詳細についての言及は避けた。アラスカ アラスカは、サイトに近々動画が登場する可能性を示唆している。
「それが最終ではない。このプロジェクトは現在の姿よりもはるかに大きなものだ」と、同スタジオは述べている。
これはじつにエキサイティングだ。
マホニー氏は現在の業界の課題と機会を指摘し、「ブランド構築の栄光の時代に戻った」と語った。「優れたブランドを作り、優れた製品を作り、そして物事にトライすることができるのだ」。
[原文:Fashion Briefing: Why Pharrell’s Joopiter represents the brand of the future]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)