物理的なショールームが持つ力に賭ける者がいる。10イレブン(10Eleven)のベッツィ・アイゼンバーグ氏は、ファッション業界における自由な創造活動の場であり、今日知られているコンテンポラリーマーケットを形成したものだと語る。デジタル化の進展にあっても、オフラインの重要性は潰えない。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
1月中旬のいま、いまだ衰えぬ物理的なショールームが持つ力に目を向ける。
10イレブン(10Eleven)はオーナーのベッツィ・アイゼンバーグ氏が語るように、ショールームはファッション業界の人々が自由に創造していた時代にクリエイティブな拠点としての役割を担っていた。その結果、33年の歴史あるこのショールームが、今日知られているコンテンポラリーマーケットを形成したのだ。
Advertisement
コンテンポラリーファッションを生んだ伝説のショールーム
現在、LA、ニューヨーク、ダラスに支店をもつ同社について、アイゼンバーグ氏は「最初の20年間は、いまとは違うビジネスだった」と述べている。「私たちはブランドと一緒に商品(のマーチャンダイジング)とマーケティングを行っており、さまざまなショップと一致協力していた」。
90年代後半から2000年代初頭、eコマースがまだ出現したばかりの頃に10イレブンはヴィンス(Vince)やアンドリュー・ローゼン氏のセオリー(Theory)を軌道に乗せている。また、ダイアン・フォン・ファステンバーグ(Diane von Furstenberg)のリローンチも後押しした。スタイリストのアンドレア・リーバーマン氏がデザインスケッチを持ってアイゼンバーグ氏を訪れたことが、2009年のALCブランドの立ち上げにつながっている。
「戦略など存在しなかった」とアイゼンバーグ氏は振り返る。「当時は試しに何かをやってみて、それがうまくいくかどうかを探ることができた」。
プランナーはリスクを取らない
現在のアイゼンバーグ氏の事業は以前とはまったく対照的であり、小売業者の厳しい要求にますます影響を受けるようになってきている。
「すべては数字のゲームだ」とアイゼンバーグ氏は指摘した。「アーティストとは正反対のプランナーと仕事をしている。そして、プランナーはリスクを避ける。一緒にリスクをとるという真のパートナーシップではなく、すべてのリスクをメーカーに押し付けている」。2020年には10イレブンの膨大な注文キャンセルで、40人いたスタッフを縮小せざるを得なくなったとも彼女は付け加えた。現在、彼女は20人の社員を抱えている。そしてメーカーへの支払いを滞らせないために、初めてオフプライスの小売店への販売に頼らざるを得なくなった。
パンデミックが始まって以降、生き残りという名の下に、業界全体で企業はコスト削減の優先度を高めている。消費者行動が変化し、従来の小売業者はeテイラーやマーケットプレイスと新たに競合するようになった。さらにD2Cへの対応力や現在の高いマージンの必要性を認識して、卸売のパートナーシップから徐々に撤退するブランドが増えている。コアサイトリサーチ(Coresight Research)によると、2021年には5000以上の店舗が閉鎖された。
厳しい状況下でショールームが持つ実店舗の強み
だがニューオーダー(NuOrder)やジョア(Joor)といった卸売りマーケットプレイスが台頭しても、実店舗のショールームモデルは持ちこたえている。1月上旬、LVMHのLキャタルトン(L Catterton)が支援するフランスのブランド、バッシュ(Ba&sh)が、10イレブンを北米における独占卸売小売業者として発表したことが、それを証明している。
バッシュ・ノースアメリカのCEOデジレー・トーマス氏は、「米国で当社の代理を務めることになるパートナーはかなり慎重に選んだ」と述べた。トーマス氏は2012年から2016年まで、10イレブンでセールス・エグゼクティブバイスプレジデントを務めている。「10イレブンの内部の運営事情を知っていることが、非常に役に立った。ブランドの流通戦略(を定義する)だけでなく、ブランドがビジョンに向かって努力する際のアドバイザーという意味でも、ベッツィのアプローチは協力的で思慮深く、戦略的だ」。
「さらに、直接会って会話をすることに代わるものはない」とも付け加えている。
アイゼンバーグ氏いわく、10イレブンは2020年初めにバーチャルショールームを開設したが、その後やめてしまった。「1日だけなら楽しかった」と彼女は言う。「真の小売業者なら、実際に商品に触れ、商品をその目で見て感じる必要がある。趣味でやるならオンラインでできる」。
最終消費者にとってのタッチ&フィールの必要性は、ブランドが実店舗の開設を正当化する際にもよく言われることだ。同様に、リアルな店舗を単なる販売拠点以上の存在にすることも、小売業者にとって重要な優先事項となりつつある。実店舗が競合する相手はeコマースサイトや快適な自宅であり、また物理的なショールームが立ち向かうのは、卸売プラットフォーム上でスクロールするだけという便利で移動の手間が省かれる行為だ。
対面型の見本市はキュレーションでバイヤーを呼び込む
もちろん、同じことはリアルな見本市(展覧会)についてもいえる。ファッション・ライフスタイル見本市を主催する創業9年のブランドアッセンブリー(Brand Assembly)は、小売業者のビジネス獲得に関しては「キュレーション、教育、発見」で勝負を挑む。コンテンポラリーマーケットにも注力している同社は、創業時からラブシャックファンシー(LoveShackFancy)やスコッチ&ソーダ(Scotch & Soda)などのブランドと提携してきた。新規クライアントの多くは、最近実店舗の閉鎖を余儀なくされたマルチブランドのショールームである。
ブランドアッセンブリーの共同創業者でCEOのヒラリー・フランス氏は、今年すでにダラスで開催されたマーケットに参加し、「まずまずの」参加者数だったと述べている。ブランドアッセンブリーは1月17日にLAでプレフォール・ショーのキックオフを行う予定だ。
フランス氏はその市場にコンテンポラリーブランドが圧倒的に多い点を指摘し、「私たちが提供するブランドのセレクションや、私たちが語るストーリーのおかげで、バイヤーが来たくなるような空間を作り上げている」と述べた。「さらに、一貫してアクセスしやすく楽しい環境を提供しているため、強力なコミュニティを築いている」。
過去2年間、ブランドアッセンブリーはショーのバーチャル版を主催するために、一時的にあるプラットフォームと提携していた。そのパートナーシップを中断して以降、フランス氏はコンテンツと発見が中心となるような、よりカスタマイズされたバーチャルコンセプトの提案に取り組んでいる。「私は、どうやって注文したらいいのかを小売業者に教える人になるべきではないのだ。小売業者はほかにも多くのプラットフォームで取引できるのだから」と彼女は言う。「何を発注したらいいかを小売業者に教える立場であるべきなのだ」。
ブランドアッセンブリーがブランドに提供しているそのほかのサービスには、物流やオペレーション、会計の管理などがある。
厳選されたブランドとのみ提携する
10イレブンもブランドとのパートナーシップを結ぶ際にいまだ慎重な姿勢だ。パンデミック以前は累積13のブランドと提携していたが、現在は9ブランドとなっている。提携をやめた4つのブランドのうち、3社は20年来の付き合いだった。そのうち一社はD2C販売に注力するため、もう一社はサプライチェーンの問題で身動きがとれなくなって廃業するなど、提携解消の理由はそれぞれ異なっている。
全般的に、アイゼンバーグ氏は、「資金提供を受けた」将来性のあるブランドにこだわっている。「私のように長いあいだこの仕事をしていると、才能と労働倫理が備わっていてやる気のある人というのは直感でわかる」と彼女は言う。
スタートアップのブランドに対して、10イレブンはALCのときのようにインキュベーターとしての役割を果たし、メーカーや投資家、PRのプロフェッショナルといったコンタクト先とブランドを引き合わせる。しかし「自分のことを仲介者やエージェントとは思いたくない」とアイゼンバーグ氏は話す。「私は自分がブランドと同じチーム、あるいは同じ会社の延長線上にいると思いたい」。
その一方で10イレブンはメーカーへの支払いに応じられるだけの安定性を確保するため、少なくとも設立から半年以上経過している小売業者としか提携はしない。またアイゼンバーグ氏は、10イレブンのブランドリストと確実に釣り合いが取れるようにするために、提携相手の「ブランドマトリックス」を調査している。
「つねにボリュームを重視しているため、私のところに来るブランドと来ないブランドがある」と彼女は言う。「私がとても力を入れているのは、国内市場、ウィメンズのプレタポルテ(厳選された)ブランドのセレクションだ。自分の仕事に関しては自分が一番という自信がある」。
多様化する見本市や卸売プラットフォーム
一方、ブランドアッセンブリーは、ギフトやインテリアなど、ライフスタイルのカテゴリーへと焦点を拡大することを検討している。フランス氏によると、バイヤーは自分たちの美的センスに合ったアイテムで品揃えを行うために、より多様なマーケットに参加して商品を買うようになってきている。
デジタル卸売プラットフォームも同様だ。6月に4600万ドル(約52億4000万円)の資金調達を発表したジョアは、2020年に家庭用品のカテゴリーに参入した。現在、1万2500以上のブランドを32万5000の小売業者に販売し、年間180億ドル(約2兆508億円)以上の取引を処理している。
また、6月にソフトウェア会社ライトスピード(Lightspeed)が4億2500万ドル(約484億2000万円)で買収したニューオーダーは、3000のブランドと10万の小売業者と取引している。同社は1月18日にインターミックス(Intermix)が最新の小売パートナーとなることを発表する予定だ。
注目に値するのは、これらのデジタルプラットフォームがいずれも、パーソナライゼーションと発見の機会を小売業者に提供することにますます重点を置くようになっていることだ。さらに、最近では業界最大の対面型の展示会が、オミクロン株をめぐる安全対策を理由にいくつか中止されている。プロジェクト(Project)は、1月4日のニューヨークでのメンズ見本市をキャンセルした。また、1月中旬に開催されたピッティ・ウオモ(Pitti Uomo)では、ブルネロ・クチネリ氏やアン・ドゥムルメステール氏など数人のデザイナーが安全上の懸念から参加を取りやめている。
販売以外に何を提供できるかが、ショールームの成功のカギ
2012年に自身の名を冠したコンテンポラリーブランドを立ち上げたタニヤ・テイラー氏は、ローンチ後すぐに10イレブンと提携しているが、その動機となったのは、アイゼンバーグ氏の「商品に対する優れた勘、強力な小売との関係、成長機会(に関する洞察力)」だったと彼女は言う。5年後の2019年、彼女は卸売の成長を指揮する社長を採用し、販売を社内で行うことにして提携を解消した。
それでもテイラー氏は、物理的なショールーム、とくに新興ブランド向けの補完的なサービスを提供するショールームを大いに支持していると話す。
「多くのブランドが消費者への直販ビジネスに力を入れるようになり、小売業者が新興ブランドを発掘するためにソーシャルメディアに目を向けるようになっているなかで、今日のショールームの成功は、販売以外にショールームが何を提供できるかにかかっている」と彼女は指摘した。「適切なネットワークを持たない新しいブランドにとって、適切なバイヤーを呼び込むことができるショールームはビジネスの基礎を築く上で非常に重要だ」。
フランス氏も、今後も物理的な面を重視していくつもりでいる。「ファッション業界は、いつも好みがうるさい」と彼女はいう。「だから私たちはただ、自分たちが知っていることや好きなことに専念していきたい」。
そしてアイゼンバーグ氏によると、ファッションのトレンドの焦点が再生されるのは時間の問題で、それは彼女に有利だという。「商業的なものだけを重視していると、(店頭に並ぶものが)すべて同じに見えてくるようになり、それがアートに対する需要を生む。私たちはつねにアートと商業、あるいはマジックとロジックを結びつけてきた」。また、たしかにデジタル化のトレンドは生まれてはいるが、オフラインで行うほうが簡単なことも多いのだ。
[原文:Fashion Briefing: Why brands are still betting on physical showrooms]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)