ラグジュアリーブランドやマスブランドによる店舗や工場の買収に関する発表が増えており、リースや第三者への依存から脱却しつつある。最初の購入には多額の費用がかかるが、長期的なメリットとして、ブランドは投資ポートフォリオの一部として不動産を利用したり、職人による生産といった将来に備えたビジネスに不動産を活用したりすることが可能となる。
ほとんどのブランドはいまも小売店舗を賃貸している
店舗不動産を購入するのは、通常、複数のブランドを所有するLVMHやケリング(Kering)のような巨大コングロマリットに限られている。LVMHは今年、パリのシャンゼリゼ通りとイーストハンプトンの小売店舗を購入しており、イーストハンプトンには2200万ドル(約31.2億円)の投資を必要とした。一方、LVMHのライバルであるケリングは、4つの店舗スペースをすべてパリに確保している。
LVMHのチーフファイナンシャルオフィサーであるジャン=ジャック・ギオニー氏は、7月25日の第2四半期決算説明会で、同社には店舗を所有するというグローバル戦略はないものの、特別な場所については例外を設けていると述べた。「賃貸は問題ない。純粋な金融用語では、所有と賃貸はまったく同じものであり、不動産の価値は賃貸料の割引価格である」。
特に賃貸料が上昇するにつれ、長期的には購入した方が理にかなっている場合もあるという。「世界的な不動産価値を評価する際、経験上、実際の想定価値よりも賃貸料が急速に増加しているような歴史ある立地がある」とギオニー氏は言う。「それなら所有することは理にかなっている。一定の価格で購入する機会が市場にあるからだ。今後数年間賃貸する場合、賃貸料がさらに高くなる可能性がある。賃貸するよりも所有した方がいい」。
ラグジュアリーブランドやマスブランドによる店舗や工場の買収に関する発表が増えており、リースや第三者への依存から脱却しつつある。最初の購入には多額の費用がかかるが、長期的なメリットとして、ブランドは投資ポートフォリオの一部として不動産を利用したり、職人による生産といった将来に備えたビジネスに不動産を活用したりすることが可能となる。
ほとんどのブランドはいまも小売店舗を賃貸している
店舗不動産を購入するのは、通常、複数のブランドを所有するLVMHやケリング(Kering)のような巨大コングロマリットに限られている。LVMHは今年、パリのシャンゼリゼ通りとイーストハンプトンの小売店舗を購入しており、イーストハンプトンには2200万ドル(約31.2億円)の投資を必要とした。一方、LVMHのライバルであるケリングは、4つの店舗スペースをすべてパリに確保している。
LVMHのチーフファイナンシャルオフィサーであるジャン=ジャック・ギオニー氏は、7月25日の第2四半期決算説明会で、同社には店舗を所有するというグローバル戦略はないものの、特別な場所については例外を設けていると述べた。「賃貸は問題ない。純粋な金融用語では、所有と賃貸はまったく同じものであり、不動産の価値は賃貸料の割引価格である」。
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特に賃貸料が上昇するにつれ、長期的には購入した方が理にかなっている場合もあるという。「世界的な不動産価値を評価する際、経験上、実際の想定価値よりも賃貸料が急速に増加しているような歴史ある立地がある」とギオニー氏は言う。「それなら所有することは理にかなっている。一定の価格で購入する機会が市場にあるからだ。今後数年間賃貸する場合、賃貸料がさらに高くなる可能性がある。賃貸するよりも所有した方がいい」。
店舗購入のメリット
「店舗を購入することは、家を購入することと同じなので、30年間維持できる最良の立地と建物を見つけようとしている」と述べたのは、フットウェアブランドのP448の親会社であるストリートトレンド(StreetTrend)のエグゼクティブチェアマン、ウェイン・クリン氏だ。ストリートトレンドはこれまでに店舗を賃貸しているほか、ポップアップなどの店舗形態も試している。
「購入すれば、あらゆる面をコントロールできる」とクリン氏は言う。「しかし店舗を借りることで、時間軸がわかっている特定の場所に柔軟に出店できる上に、スピードにも柔軟に対応できる。つまり、長期的な資本を不動産に縛られることがない」 。
「これはコントロールの問題だ。ラグジュアリーブランドは、販売を推進するためにサードパーティへの依存を減らしたいと考えている」と語るのは、データ分析会社グローバルデータ(GlobalData)の小売アナリスト、ニール・サンダース氏だ。「ほとんどのラグジュアリーブランドは、経費がかかるにもかかわらず、(店舗を所有する)コストを吸収できるだけの十分なマージンを確保している。店舗の機能と活用をコントロールすることで効率を高め、大規模な小売ネットワークを利用することでコストを削減し、消費者に直接販売することでより高いマージンを得ることができる」。
「大規模なブランドは投資ポートフォリオを多様化し、よりバーティカルなサプライチェーンをコントロールする機会として(活用できる店舗を)検討するだろう」と、法律専門のフィクサーアドバイサリーグループ(Fixer Advisory Group)の創業者でCEOのニキール・マーラ氏は述べている。「だが、このようなイニシアチブを(成功させるために)推進するには、事業のコアミッションから外れた、グループ内のさらなる余力、専門知識、エネルギーが必要だ」。
賃貸か購入か
ニューヨークを拠点とするコンテンポラリーラグジュアリーファッションブランドのラファイエット148(Lafayette 148)にとって、その答えはやはり賃貸だ。同ブランドは、過去2カ月でビバリーヒルズとシカゴに新しいブティックをオープンし、小売ネットワークを通じて昨年成長を遂げている。
同ブランドの共同創業者兼CEOであるディアドレ・クイン氏は、「リースにすれば、常に適切な場所と隣接地に店舗を構えて、顧客に最高のサービスを柔軟に提供できる」と述べた。「フロントエンドへの投資が減ったことで、ブランド体験の向上に集中し続けることができるようになった」。
しかし、そこには欠点もある。「店舗はこのような一等地にあるが、長期的な資産価値の上昇の恩恵にあずかる余裕はない」とクイン氏。「今日、テナントにとっても、家主にとっても、環境はさらに厳しくなっている。ビジネスが好調な一方で、賃料は上昇している」。
サプライチェーンの垂直統合が、職人の技術の将来性を保証する
同時に、ラグジュアリーファッションの生産をめぐるM&Aも、特にイタリアでは以前から活発に行われてきた。垂直統合とは、ブランドが自社工場を所有することで、規模の経済性の向上や物流コストの削減を通じてビジネスに利益をもたらすと同時に、そこで働く労働者に安心感を与えることを意味する。
6月、プラダグループ(Prada Group)とエルメネジルド ゼニアグループ(Ermenegildo Zegna Group)は共同で、イタリアのニットメーカー、ルイジ フェデリ エ フィリオ(Luigi Fedeli e Figlio)の株式15%を取得したと発表した。2021年には、両社はウールとカシミアのサプライヤーであるフィラティ ビアジオリ モデスト(ilati Biagioli Modesto)の株式の過半数を共同で取得している。また、バーバリー(Burberry)は3月にイタリアのアウターウェアメーカーに投資している。
一方、LVMHは2022年9月、タンナーであるイタリアのヘンロン(Heng Long)の過半数株式と、レザーとスエードメーカーのロバンス(Robans)の少数株式を取得した。2021年8月、シャネル(Chanel)はイタリアのニットウェア会社パイマ(Paima)の株式の過半数を取得。そしてゴールデングース(Golden Goose)は2022年10月、最大のサプライヤーであるイタリアンファッションチーム(Italian Fashion Tea)を買収、フェンディ(Fendi)も同じ月にイタリアのニットウェア会社マリフィーチョマティス(Maglificio Matisse)の株式の過半数を取得した。
だがこうした投資を誘致している国はイタリアだけではない。2019年、LVMHはカリフォルニア州に2つの工場を開設したのに続いて、テキサス州に米国で3つ目となる工場を開設した。そして4月、エルメス(Hermès)はフランスに3つの工場を購入している。ビルケンシュトック(Birkenstock)やラファイエット148(Lafayette 148)などのヘリテージブランドも自社工場を所有しており、D2Cブランドでさえ垂直統合を検討している。
自社工場の所有と垂直統合
ラファイエット148は中国に自社工場を所有しており、そこですべての衣料品を生産している。それによるブランドのメリットは品質管理ができることであり、デザインチームと開発チーム間の調整が容易になることだ。「私たちは戦略的に市場の進化に対応して補充を行うことができ、VIP顧客にはカスタムメイドのスペシャルオーダーを提供することが可能となる」とクイン氏は言う。
中国工場への初期投資は高額だったが、これは長期的な事業計画の一部だった。「27年前のブランド創業以来そうしてきたように、生産と、もっとも重要な人材への投資を継続していく」とクイン氏は言う。「工場が忙しく、効率的であり続けることは大きな責任だ。経験豊富な製造パートナーがいなければ、企業は大きな不利益を負うことになるだろう」。
ストリートトレンド(StreetTrend)のフットウェア、P448はイタリアの現地生産に頼っており、自社工場は所有していない。クリン氏は機会を逃したことをこう説明する。「垂直統合によって、製品の価格設定はもちろん、納期や一貫性、品質のコントロールを完全に透明化することができる」。
「裏を返せば、工場で働くすべての人に給料が支払われるため、ブランドが確立された生産ペースを維持できなくても、固定費は変わらない。マージンは非常に低いし、次世代の人々はキャリアとして工場で働くことに興味がないので、質の高い職人を見つけるのはかなり難しい」。
サプライヤーへの投資で伝統を維持
多くのコンテンポラリーブランドやラグジュアリーブランドが頼りにしている地元の職人の技術を維持するためには、品質を重視したサプライチェーンへのブランド投資が必要だ。「これらのブランドは生産にそうした職人を必要としており、そのビジネスがヨーロッパ内外の経済と小規模コミュニティを支えている」とマーラ氏は言う。「ブランドや大手(コングロマリット)と提携して(サプライヤーへの投資を)行うことは、何世代にもわたって伝統が確実に維持されるようにするためのすばらしい方法だ」。
結局のところ、事業の長期的な成長目標のためにラグジュアリーメゾンは垂直統合を確立し、店舗を所有するインセンティブをもっとも手にしている。だが、生産と顧客データをコントロールすることに価値を見出すブランドが増えれば、店舗と生産への投資が普及していく可能性が高まるだろう。
[原文:Fashion Briefing: What are the brand advantages of owning stores and factories?]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)