今秋初め、デザイナーのタニヤ・テイラー氏はマディソン・アベニューに初の旗艦店をオープンした際に、その店をどこか個性的にしたいと思っていた。そこでケイト(Khaite)の店舗デザインも手がけたデザイナーのジェシカ・ハイランド氏とともにほぼ1年をかけて、ブランドとテイラー氏自身にとってパーソナルで特別なディテールを内装に施した。壁にはテイラー氏がミシェル・オバマ氏のために描いた花のデザインが彫られ、店の一角に置かれたキャビネットは、テイラー氏がファッションデザイナーのジェナ・ライオンズ氏から購入したものだ。
テイラー氏いわく、目指したのはブランドを生き生きと具体化した空間を作ること。また、純粋な商業施設ではなく、住居のような、つまり具体的にはマディソン・アベニューのシックなアパートのような雰囲気の店舗にしたかったのだという。
商品を売る以上の役割を果たす、ブランドの空間としての店舗
テイラー氏は、いま実店舗を活性化させる方法を求めている多くのファッションブランド創業者のひとりだ。オンライン顧客獲得コストの高騰で、ブランドは顧客獲得と関係構築の代替手段を模索する方向へと駆り立てられており、その代替手段として人気となっているのが実店舗である。パンデミックは、ブランド幹部が実店舗へのアプローチ方法を再考する期間となった。現在、多くのブランドがブランドアイデンティティを参照した店舗デザインの要素を優先したり、顧客と店員の比率をコントロールしたりといった、新たな戦略を取り入れている。
今秋初め、デザイナーのタニヤ・テイラー氏はマディソン・アベニューに初の旗艦店をオープンした際に、その店をどこか個性的にしたいと思っていた。そこでケイト(Khaite)の店舗デザインも手がけたデザイナーのジェシカ・ハイランド氏とともにほぼ1年をかけて、ブランドとテイラー氏自身にとってパーソナルで特別なディテールを内装に施した。壁にはテイラー氏がミシェル・オバマ氏のために描いた花のデザインが彫られ、店の一角に置かれたキャビネットは、テイラー氏がファッションデザイナーのジェナ・ライオンズ氏から購入したものだ。
テイラー氏いわく、目指したのはブランドを生き生きと具体化した空間を作ること。また、純粋な商業施設ではなく、住居のような、つまり具体的にはマディソン・アベニューのシックなアパートのような雰囲気の店舗にしたかったのだという。
商品を売る以上の役割を果たす、ブランドの空間としての店舗
テイラー氏は、いま実店舗を活性化させる方法を求めている多くのファッションブランド創業者のひとりだ。オンライン顧客獲得コストの高騰で、ブランドは顧客獲得と関係構築の代替手段を模索する方向へと駆り立てられており、その代替手段として人気となっているのが実店舗である。パンデミックは、ブランド幹部が実店舗へのアプローチ方法を再考する期間となった。現在、多くのブランドがブランドアイデンティティを参照した店舗デザインの要素を優先したり、顧客と店員の比率をコントロールしたりといった、新たな戦略を取り入れている。
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ビルケンシュトック(Birkenstock)、アンソロポロジー(Anthropologie)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)など数十のファッションブランドの店舗を設計してきたTPGアーキテクチャー(TPG Architecture)のクリエイティブディレクター、スコット・フォシュー氏はこう語る。「ただの店舗ではなくブランドの空間として店舗を表現することは、ブランドが自らをどのように概念化するかを考える上ですばらしい方法だ。そうした空間には単に商品を販売する以上のことが期待されている」。
たとえば、テイラー氏の店舗では、1400平方フィート(約130平方メートル)の空間を、彼女が愛する多くの小規模なブランドを展示する機会として活用している。タニヤ・テイラーのウェブサイトとは異なり、この店ではヘレ・マーダル(Helle Mardahl)やヘイ(Hay)のインテリア雑貨、モニカ・ソード(Monica Sordo)やカイリー(Khiry)のジュエリーなど、他のブランドも販売している。タニヤ・テイラーはいくつかのブランドと卸売りの関係があり、テイラー氏は定期的に発注して店に在庫を確保している。
ドアを開けておくだけで新規顧客を呼び込むツール
実店舗での小売は、タニヤ・テイラーにとって次の大きな焦点であり、特に新しい顧客にブランドを紹介するためのツールだとテイラー氏は言う。住居のような雰囲気、テイラー氏にまつわるパーソナルなディテール、テイラー氏が好きなブランドを紹介するミニマーケットプレイスなどの組み合わせはすべて、ブランドアイデンティティを体験の中心に置くことに貢献している。
「ただドアを開けておくだけで、私たちのことをまったく知らない人たちが入ってくる。私たちとって、そうした人々に試着をしてもらうチャンスなのだ」。
小売は変化し、チャンスも変化している
パリのラグジュアリーブライダルブランド、リム・アロダキー(Rime Arodaky)の創業者であるリム・アロダキー氏にとって、最新の店舗は2番目に大きな市場である米国で自分を紹介するチャンスだった。リム・アロダキーの顧客の40%以上が米国におり、主にオンラインか、ニューヨーク、シカゴ、シアトルといった主要都市の小売店と同ブランドの卸売提携を通じて商品を購入している。しかしオンラインの顧客はメインのブライダルドレスではなく、セカンドルックのみを購入する傾向があり、また実際に見てから買っているとアロダキー氏は言う。そのため、ブランドの監視の目が行き届かない卸売り小売店が、多くの顧客がアロダキー氏のドレスを初めて体験する場となっている。
ニューヨークのソーホー地区にオープンした2000平方フィート(約186平方メートル)の新店舗に対するアロダキー氏の中心的な目標は、できるだけ多くの新しい人々にブランドを紹介することだ。入店したすべての顧客にグラスでシャンパンが提供されるなど、ブライダルショップでは定番の手法も採用している。また、顧客が選択したカスタムプレイリストを聴きながら買い物ができるといった、よりデジタルに先進的なアイデアも取り入れた。店内の実際のレイアウトは新規顧客の獲得を念頭に設計されている。通りを行き交う人々がウィンドウ越しに店内を見ることができるよう、鏡が戦略的に配置された。店舗には限定商品も置かれている。
ほかのブランドも違った方法で、店の外から見た店内の様子に力を入れている。たとえばデザイナーのジョナサン・アンダーソン氏とサイモン・ポート・ジャックムス氏は、彫刻やアートなど人目を引くオブジェを優先して服を強調しないスタイルのウィンドウデザインを採用している。
「小売は変化しており、チャンスも変化している」とアロダキー氏は述べた。彼女はCovidの前にウェストヴィレッジに出店しようとしていたが、その計画は中止した。「新しい空間はそれよりも広くて、ソーホーの活気がある。2年間の賃貸契約を結んだが、すべてがとてもスムースで簡単だった」。
eコマースでは不可能な方法で商品をアピール
フォシュー氏が手がけてきた、ビルケンシュトックやスポーツウェアブランドのティア(Tear)といったブランドのあいだでは、店舗における3次元的な性質に再び注目が集まっているという。フォシュー氏はこれを、いまでは多くの顧客が、購入しようとしている商品を画面上の平面的な二次元のものとして見ることに慣れているためだと考えている。そこで店舗ができるもっとも強力なことは、eコマースの状況では不可能な方法で商品をアピールすることだという。
「ビジュアルマーチャンダイジングでは、多くのブランドが自社製品を中心に据えたヒロイックな大きな瞬間を作り出している」とフォシュー氏。「我々が仕事をしているリッチなビジュアルストーリーテリングを得意とするブランドには、アーバンアウトフィッターズやアンソロポロジーがある。これらのブランドは店舗をかなりモジュール化しており、新しいものを展示するためにつねにデザインを変更している」。
ほとんどのブランドが物理的な製品を使った立体ディスプレイを取り入れているが、H&Mのように、よりすばやく交換できる3Dホログラフィックディスプレイを店内に取り入れ始めたブランドもある。
フォシュー氏は、新しい店舗の設計方法におけるもうひとつの大きなトレンドは柔軟性だと述べた。彼の顧客は、パーティやパネルディスカッション、教室、プライベートショッピングのアポイントメント、音楽の演奏などもできる店舗を求めている。
ショッピングモールへの出店を選ぶブランドも
不動産サービス会社のJLLは、2023年のラグジュアリー小売レポートで、ラグジュアリーブランドの場所の選択など、小売にアプローチする方法を数多く明らかにしている。タニヤ・テイラー、ヴァレンティノ(Valentino)、ランバン(Lanvin)、そしてもっとも注目すべき4万5000平方フィート(約4180平方メートル)の店舗を構えるエルメス(Hermès)といったブランドがすべて、今年マディソン・アベニューに出店している。だがレポートによると、今年ラグジュアリーブランドがリースした65万平方フィート(約60387平方メートル)の小売スペースのうち、38%はショッピングモールへの出店だった。
ショーン・ステューシー氏が創業したストリートウェアを象徴するブランド、ステューシー(Stussy)も、ショッピングモールを選んだブランドのひとつだ。11月、ハワイ店はワイキキのロイヤルハワイアンセンターにある2倍の広さの空間に移転した。新しい店舗は、リアーナ氏のスーパーボウルのハーフタイムのショーも手がけているペロン=ロエッティンガー(Perron-Roettinger)のデザイナー、ウィロ・ペロン氏とブライアン・ロエッティンガー氏がデザインしており、ステューシーの元々のハワイ店とは大きく異なっている。
店員と顧客が接する機会を増やす戦略
新店舗はこれまでとは違う方法で運営されている。ステューシーのハワイ店は、以前よりも広い場所になったにもかかわらず、陳列する商品点数を減らしている。また以前の店舗とは異なり、ディスプレイされていない衣類はすべて奥にしまわれ、実際の店舗フロアにはディスプレイのみが置かれている。それでもすべてのシーズン商品が一度に陳列されるわけではないので、それぞれのアイテムはあらゆる角度から見たり感じたりできるよう、十分な余裕を持って配置されている。ホノルルのステューシーのバイスプレジデント、ブロックトン・コダマ氏によれば、この変更はパーソナルで高尚な雰囲気を作り出すために行われた。
「必然的に、スタッフが顧客と接する機会が増えた」とコダマ氏は言う。「それがポジティブな大きな変化だ。顧客を知るために多くの時間を費やすことができるようになった。顧客は必要なものを手に入れるために私たちの店に来なくてはならないのだから」。
コダマ氏はこの戦略はうまくいっていると話すが、この戦略にはさらに多くのスタッフが必要になるという欠点もある。ステューシーはハワイの新店舗で新しい戦略を管理するために従業員の数を増やしている。
「店はとても賑わっているため、店の前にはほぼいつも行列ができている」とコダマ氏は述べた。「一度に入れる人数が限られているので店内が混雑することはないし、従業員ひとりにつきひとつのグループまでにするようにしている。来店するすべての人が、1対1の買い物体験をしているかのように感じてくれるはずだ」。
[原文:Fashion Briefing: The emerging trends in post-Covid retail spaces]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)