世界各地のファッションウィークは持続可能性や次世代デザインなどのテーマを取り入れている。一方、ニューヨークファッションウィークでは今後テクノロジーコラボレーションが中心になるかもしれない。今シーズン、複数のデザイナーがそれを試みた。エキサイティングに感じられる要素にはテクノロジーの統合があった。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
世界各地のファッションウィークは持続可能性や次世代デザインなどのテーマを取り入れている。一方、ニューヨークファッションウィークでは今後テクノロジーコラボレーションが中心になるかもしれない。今シーズン、複数のデザイナーがそれを試みた。
これまでNYFWの自慢だった伝統的なプレタポルテはそれほどフォーカスされなくなっている。事実、今シーズンのコレクションについて、コロナ後の改革よりも商業的な成功にフォーカスされていてつまらないとまで言っている関係者もいる。しかし、エキサイティングに感じられる要素にはテクノロジーの統合があった。例を挙げると、アメリカのブランドは仮想世界のセカンドライフ(Second Life)でショーを開催したり、参加者に無料のNFTを提供したりすることによってクリエイティブディレクションの次の段階を定義しつつある。
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アルチュザラとバブルハウスの試み
アルチュザラ(Altuzarra)の2月13日のショーのゲストには、今シーズンのコレクションのインスピレーションになった本などの入ったパッケージが配布された。また、アルチュザラ氏からの個人的なメッセージやインスピレーション画像も含まれていた。インスピレーション画像は、ソーシャルNFTマーケットプレイスのバブルハウス(Bubblehouse)の協力を得てNFT形式で制作された。これらのNFTには様々なプリントカラーウェイがあり、コレクターズアイテムとして異なる価値レベルを持つものだ。アルチュザラ氏は声明で、「最新のショーでバブルハウスと協働したことによって、未来のアルチュザラのタッチポイントについて再考することができ、新しいメディアでクリエイティブな活動ができた」と述べている。NFTを所有することになったショーの客は、バブルハウス上のアルチュザラの独占「コレクタークラブ」に招待されたり、将来のNFTドロップへのアクセスやプライベートイベントへの早期アクセス、アルチュザラへのプレミアムアクセスを受けられるようになる。
ブランドの単発的な試み
また今回発表されたものには、ファッションブランドのマルカリアン(Markarian)のためにバブルハウスが制作したバブルが表面に並べられたジュエリーボックスのNFTもあり、バブルハウスのQRコードをスキャンしたゲストに配布された。これは、アルチュザラのNFTと同様に、顧客に対して将来の「プレミアム」アクセスを提供する基盤になるものだ。バブルハウスは、2021年12月、カーボンニュートラルで環境に優しい初のNFTマーケットプレイスになり、イーサリアムよりも炭素効率が99.99%以上高い、気候に配慮したブロックチェーンであるポリゴン(Polygon)ブロックチェーン上に構築されている。また、エコーズラッタ(Eckhaus Latta)とイミテーション・オブ・クライスト(Imitation of Christ)も同じ週に限定版NFTをローンチしている。
これまでのところ、追加の消費者タッチポイントとして機能する単発の試みがファッションブランドがNFTを発表する主な方法になっている。しかし、メタバース専門家との会話では、コミュニティにフォーカスした長期的なNFTプロジェクトでは時の経過とともにもっと良い成果が得られる点が強調されている。多くのブランドにとって、ニューヨークファッションウィークはメタバースでの将来の活動についての意図に関するロードマップを(ブランドのファンの)コミュニティに示す良い機会になったであろうと思うのだが、それは見られなかった。
ジョナサン・シムカイの仮想化コレクション
ただ、ファッションウィーク中のデジタルに焦点を当てたプロジェクトすべてがNFT中心だったわけではない。デジタルデザインスタジオと協力して、コレクションをゲーム環境で仮想的に披露してユーザーが仮想的に着られるようにしたデザイナーもいた。シックなシルエットとユニークなディテールで知られるジョナサン・シムカイ氏は、セカンドライフのクリエーターであるミシ・マクダフ氏が創設したデジタルファッション制作スタジオ、ブルーベリーエンターテイメント(Blueberry Entertainment)と協力してコレクションを仮想化した。このプロジェクトには、デジタル世界ディベロッパーであるエブリレルム(Everyrealm)も関与した。
ジョナサン・シムカイの2月14日に行われた実際のショーの開始時に、作品はセカンドライフの仮想世界内でも披露された。コレクションから選ばれたアイテムはNFTとしてオークションにかけられ、ほかの数十のメタバースプラットフォームで着用できるようになる。
セカンドライフはゲーム業界において長い歴史を持っているが、最近では、仮想環境でデジタルプレゼンスを築くことを目指すブランドから頼られるプラットフォームになっている。マクダフ氏によると、セカンドライフはもっとも古いメタバース環境のひとつであり、ユーザーが作成したコンテンツがもっとも多く、長年のファンベースが存在するという。シムカイ氏にとっては、セカンドライフの選択は既存のファンを疎外することなく、最大のファンベースにリーチするためだった。
「アクセスと地域のアクセシビリティ、そしてコミュニティの構築が重要だ」とシムカイ氏は述べている。「ジョナサン・シムカイのコレクションを見逃さず、一貫してアクティベーションに関与してくれる忠実な顧客を見つけられるという点はエキサイティングだ。また、インクルシビティの要素もある。つまりメタバースに関与してはいるものの、ブランドとしてのジョナサン・シムカイをよく知らない新規顧客へのアクセスが得られる。いまでは参加者に服を利用して関与してもらい、デジタルアイデンティティを作ってもらうことができる」。
メイジー・ウィレンとYahooのホログラムコラボレーション
クロスチャネルアクセスのアイデアは、テクノロジーを使いオムニチャネルアプローチに簡略化できるものである。2月12日に披露されたメイジー・ウィレン(Maisie Wilen)とYahooのホログラムコラボレーションは「人々がいる場所で彼らにリーチする」点にフォーカスしたと、Yahooの社長のジョアンナ・ランバート氏は述べている。その場所が自宅でも、スマホのARプロジェクションでも、実際のNYFWの会場であってもだ。
非日常にインスピレーションを受けたこのメイジー・ウィレンコレクションでは、反射するホログラフィックな生地とオプティカルイリュージョンのプリントが生み出された。(トレンド予測会社の)WGSNは、2月17日に発表した「Big Ideas in Womenswear」レポートで、デザイナーたちはメタバースに触発された未来と空想の曖昧な性質を探求しており、彼らの継続的なトレンドの1つとして「デジタルワンダー」を特定している。このトレンドはほかのデザイナーのコレクションにはそれほどはっきりと打ち出されてはいなかったものの、次のシーズンにはもっと多くのデザイナーに影響を与える可能性がある。
シムカイ氏は次のように述べている。「コロナ禍以来、我々は機敏に適応して新しいことに挑戦し、オーディエンスにリーチするために新しい方法を見つける必要性を学んだ。これはテクノロジーを最前線に置くことを意味する」。メタバースとファッションウィークをめぐる会話はまだ始まったばかりだが、NYFWにエキサイティングな未来をもたらすかもしれない。
[原文:NYFW Briefing: New York Fashion Week is becoming a launchpad for technology]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)