「もっとも環境を汚染している衣服」という汚名を、デニムは何十年も着せられ続けてきた。そんななか、これを主力商品とするブランドたちは、デニムをよりサステナブル(持続可能)な製品にしようと奮闘している。
いま、デニム業界ではサステナビリティの向上に関する取り組みを、多くの企業が開始している。
「もっとも環境を汚染している衣服」という汚名を、デニムは何十年も着せられ続けてきた。そんななか、これを主力商品とするブランドたちは、デニムをよりサステナブル(持続可能)な製品にしようと奮闘している。そこには、多数のコラボレーションや、企業によるサステナビリティな取り組みの規模拡大といった諸要素が組み合わさり、それが可能になってきたという背景がある。
実際、デニムを扱うファストブランドでさえ、サステナビリティに関する取り組みを進めている。たとえばゲス(Guess)は、同社のサステナビリティ重視の戦略が好調だったことから、さらに高い目標を設定したと、先日発表している。なお、あるメーカー企業によると、デニムの持続可能性において一歩抜きんでているのはザラ(Zara)だという。
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「我々は、より多くのスタイルをサステナブルにするため取り組んでいる」。このように語るのは、4年前にデニムブランド、ワープ+ウェフト(Warp+Weft)を立ち上げたサラ・アハメド氏だ。同氏の家族は、パキスタンでBtoBのデニム工場、アーティスティック・デニム・ミルズ(Artistic Denim Mills、以下ADM社)を運営しており、ワープ+ウェフトや姉妹のブランド、DL1961もそこで作られている。
2021年は多くの消費者が、自身の購買行動について熟慮するようになり、消費される衣服に関しても変化が見られた。このところ、スウェットパンツが多く着用されるようになったのは、その例といえる。そんななかデニムブランドたちは、自分たちのこれまでの取り組みを見直し、今後の新たな方向性を模索している。デニムにまつわる、古臭くてネガティブなイメージを払拭するような、サーキュラー(循環型)な明るい側面を伝えようとしているのだ。
リーバイスやギャップの取り組み
デニムブランドのエージー(AG)は2021年4月22日、同ブランドで人気のある3つのスタイルにおいて、生分解性素材で100%構成された製品のカプセルコレクション、ジーンズ・オブ・トゥモロー(The Jeans of Tomorrow)を発表した。また、同日リーバイスも、「Buy Better, Wear Longer(良いものを、長く着よう)」というキャンペーンを展開し、環境負荷低減や製品の耐久性を訴求。3月には、ギャップ(Gap)が同社史上最高にサステナブルなスタイルにスポットライトを当てたキャンペーン「ジェネレーション・グッド(Generation Good)」を公開している。
ただ、デニム業界が現在に至るまでの道のりは大変なものだったし、いまのデニム業界に関しても、グリーン(環境への負荷が低い状態)と呼ぶにはまだ程遠い。この記事のインタビューを受けてくれたブランドの幹部は皆、サステナビリティ目標はまだ道半ばの取り組みであると強調している。アハメド氏は今後2年以内に、ADMを「完全循環型」にすること、そしてクレードル・トゥ・クレードル(Cradle to Cradle)という、環境認証を取得することを目指しているという。なお、同社で作られるジーンズには現在、リサイクル繊維やリジェネラティブ(再生可能)な繊維が1着あたり、20%使用されている。ギャップも、サーキュラリティ(循環性)に関心を寄せている。同社は、水使用量を節約できるデニム洗浄加工技術、ウォッシュウェル(Washwell)によって作られたデニム製品を、全体の75%にするという目標に対し、その比率を91%にまで引き上げることに成功したと、3月に発表している。
「事業モデルをリニア(直線型)から循環型にシフトさせることは、自分たちの未来にとって大切というだけでなく、この業界が真の意味でサステナビリティに取り組み、気候危機に対処するために目指すべき方向性だ」と、ギャップのグローバル製品開発シニアバイスプレジデント、ミシェル・サイズモア氏は述べる。
一方リーバイスの製品には、オーガニックコットンなどサステナブルな素材が83%使用されていると、リーバイ ストラウス(Levi Strauss & Co)のチーフ・サステナビリティ・オフィサー、ジェフ・ホーグ氏は語る。「我々はいま、製品のサステナビリティを『グッド』『ベター』『ベスト』の階層に分けて提供できないかと考えている」。
社内や業界内でのコラボレーションが増加
デニム業界でもっとも進歩が見られたのは、社内やブランド間、業界内でのコラボレーションであった。ホーグ氏によると、「Buy Better, Wear Longer」キャンペーンはリーバイス全体のイニシアティブであり、「単にサステナビリティ部門やマーケティング部門が主導したものではない」という。
「すべての重要な部門からメンバーが集まり、約束を果たすためには何が必要なのか議論を交わした。また現在も、循環型のエコシステムを実現するため、企業としてどのような方向性を目指すべきかを決めた」とホーグ氏。「製品をもっと使ってもらうこと、衣服がリサイクルしやすいようデザインすること、そして製品を安全なリサイクル素材や再生可能な材料で作ることなのだということで、意見が一致した」
ギャップは、循環型経済の実現を目指す英団体、エレン・マッカーサー財団(Ellen MacArther Foundation)のジーンズ・リデザイン(Jeans Redesign)プロジェクトに参加している。デニムの専門家が約80名参加するこのプロジェクトには、フレーム(Frame)やアメリカンアウトフィッターズ(American Outfitters)、リフォメーション(Reformation)といった企業が数十社提携しており、この5月末に終了予定だ。同プロジェクトが目指しているのはブランドへの啓発で、これはデニム製造工程で、有害な物質の使用をやめるという長期的な取り組みの一環だ。提携する企業には、循環型モデルの製品を作って販売することが求められる。
「デニムに使う繊維や生地、裁断の仕方に至るまで、デザインや製造方法を従来とは異なる考え方で作ることが求められた」と、サイズモア氏はこのプロジェクトに関して述べる。「また、チーム間でのコラボレーションや、サプライヤーとの関係性に関しても、さまざまな障壁を乗り越えることが求められた」。
サイズモア氏によると、このプロジェクトを通じて得られた知見は、ギャップの幅広い製品に適用されることになったという。
危機意識を持つことが重要
30年も前に創業したADMには現在、「ザラやマンゴ(Mango)といったグローバルブランド」からの引き合いが数多くあるという。同社が選ばれる主な理由は、サステナビリティに配慮した製品を、比較的手ごろな価格で供給できる点にある。
ADMは設立当初から、テクノロジー、サステナビリティ、パフォーマンスに重点を置いてきた。「他社との競争はもちろんだが、なんといっても重要なのは、我々が住むこの惑星が、いま危機に瀕しているという事実を認識することだ」とアハメド氏。今後さらに多くのブランドが頻繁に集まることを期待しているという。
こうした考えのもとADMは、他社に先駆けて行動を起こすことにした。「10年前は、平均的なジーンズを製造するのに1本あたり1500ガロン(約5700リットル)の水が使われていたが、当社で使っているのは10ガロン(約40リットル)以下で、その90~95%を再利用している」。また、同社はほかにもイノベーティブな繊維を使い、染料やエネルギーの使用量を抑え、工場も太陽光発電で運営している。「当時の我々の純利益は、とても低かった」と、アハメド氏は振り返る。
「我々はいま、再生可能で高機能な繊維の製造にフォーカスした、リサイクル施設を保有している」とアハメド氏。「我々が引き取っているのは、古いプラスチックや古いデニムといった廃棄物などだ」。全世界のデニム製造量のうち、パキスタン製は約3分の1を占めており、そのなかでも「かなり多くの」デニムをADM社が製造しているのだという。「我々は35日間で、100万本のジーンズを作っている」。
サステナビリティは「タダ」では実現できない
デニムブランドたちは、業界を超えたサポートを求めている。ホーグ氏によると、リーバイスが4月はじめ、ファッション業界の循環性と持続可能性に取り組む団体「ファッション・フォー・グッド(Fashion For Good)」に加盟したのも、まさにそのためだった。サステナビリティ関連のスタートアップ企業やイノベーターの技術を、リーバイスは加盟メンバーとして、同社のサプライチェーンのなかで試験的に導入する機会を得ることができ、環境負荷の低減を進めていくためのスケールメリット(規模の優位性)を得られるという。
ホーグ氏は「サステナビリティは、『タダ』で実現できることではない」と強調しつつ、リーバイスが循環型リサイクルジーンズ、ウェルスレッド(Wellthread)のイノベーションラボを構えているのは、製造工程を絶えずテストしたり、規模拡大が可能かを判断するためだと述べる。「より多くのブランドが、我々のような方向に進み、コラボレーションが実現すれば、サステナブルな取り組みを進めることが簡単になるだろう」とホーグ氏。その一方で、「サステナビリティとは、社会・環境・経済の目標のバランスを取ることだそのため我々は、環境に配慮しつつも、消費者が欲しいものを作る必要があるし、売上も伸ばさなければならない」とも強調する。
ただホーグ氏は、昨今の業界全体でのサステナビリティの進歩について、有意義なアクションを起こすブランドが特にここ5年で増えていることは、非常に喜ばしいと述べる。
アハメド氏もこれに賛同。たとえその取り組みに多少の穴があったり、過大評価されていたとしても、業界には何らかの形でプラスに働くだろうという。まずはサステナビリティに関する意識を高めることが先決だというのが、同氏の主張だ。「そうしたマーケティング活動のすべてが、人々の意識を変え、サステナビリティの必要性を強く認識させることとなるからだ」。
[原文:Fashion Briefing: Is garbage the future of fashion?]
JILL MANOFF(翻訳:田崎亮子/編集:村上莞)