12月初め、レベッカ・ミンコフは、オンデマンドビジネスの拡大によって技術に精通している姿勢を強く打ち出した。ファッション業界では、透明性を高めるための製品パスポートの導入準備も整いつつある。未知の領域に挑戦することの価値を知るレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)は、真っ先にこの分野に参入した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
12月初め、レベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)は、オンデマンドビジネスの拡大によって技術に精通している姿勢を強く打ち出した。さらにファッション業界では、透明性を高めるための製品パスポートの導入準備も整いつつある。
オンデマンドの導入に踏み切ったレベッカ・ミンコフ
オンデマンド生産は増加の傾向にある。
Advertisement
新たに出現したテクノロジーのおかげでますます自動化され、顧客主導型となっているオンデマンド生産だが、新しい働き方を必要とするために、すでに定評のあるブランドは不利な状況に置かれている。だが未知の領域に挑戦することの価値を知るレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)は、真っ先にこの分野に参入した。
ニューヨークを拠点とするファッションテクノロジープラットフォームのレゾナンス(Resonance)に生産の一部を移行することについて「これは漸進的なステップではない」と、レベッカ・ミンコフの共同設立者でCEOのウリ・ミンコフ氏は述べた。両社が最初に提携したのは、2020年にローンチしたミンコフ・キッズ(Minkoff Kids)だった。現在、レゾナンスは同社の製品の20~25%を支えている。2022年初頭には30~35%を製造する予定だ。
ミンコフ氏は、この動きをFacebookのMeta(メタ)への移行と比較し「誰もがこれまで考えたことのない、まったく異なる世界」を中心に据えている。
「これは単に『異なる素材を使ったサステナブルなバッグを提供する』という次元の話ではない」と彼は言う。「これは完全なエコシステムへの全体的な変化であり、物事がどのようになされるかという次の時代への変化だ。古いやり方に固執する人にはうまくいかない」。
多すぎる在庫はファッションブランドの死
6年前に設立されたレゾナンスのおかげで、30ものブランドパートナーにしてみるとプロダクションチームやパターンメーカーの必要性はなくなった。その代わりデザイナーは、デジタルにプリントされたオーガニック素材で製造できるスタイルの「完璧なデジタルサンプル」を作ることを学ばなくてはならない。発注されるまでは何も製造されない。レベッカ・ミンコフのショッピファイ(Shopify)サイトからレゾナンスのシステムに注文が送り込まれてから、通常7〜10日で顧客の手元に製品が届く。ブランドも最終消費者も、アイテムが製造されてから手元に届くまでの過程を、各段階で使用された水の量や排出された二酸化炭素の量にいたるまで、QRコードでアクセスできるブロックチェーン上で確認することができる。
レゾナンスの会長で共同設立者のローレンス・レニハン氏によると、同社には、たったひとりで運営していながら年間400万ドル(約4億5700万円)の売上を誇るブランドパートナーがいるという。現在のブランドパートナーには、ピアーモス(Pyer Moss)をはじめ、コンテンポラリーブランドのタッカーNYC(Tucker NYC)、そしてベテランのファッションデザイナーであるジェフリー・コステロ氏とロバート・タリアピエトラ氏が率いるフランネル専門のJCRTなどがある。JCRTは、11月中旬にレゾナンスが製造したチェック柄のコレクションでレベッカ・ミンコフと提携している。
通常、レゾナンスはパートナーブランドの株式を保有している。ミンコフ氏によると、レゾナンスでの製造コストは、同社のほかの提携工場に比べて「少し高い」という。しかし全体的な利益もまた高くなっている。
「アイテムを値引きする必要はない。(在庫の)整理をする必要もない。500点のアイテムを手に入れ、そのうちの何割かは卸売りのマージンを取り、何割かは小売のマージンを取って、何割かはオフプライスにして、何割かは卸売りのディスカウントをし、何割かは小売のディスカウントをするといった通常の流れとは違う」とミンコフ氏は言う。「それに倉庫の保管スペースに金を払うこともない」。
「多すぎる在庫は、ファッションブランドの死だ」と彼は付け加えた。
洗練されたオンデマンド製造で透明性を高める
パートナーシップを結んだ1年目でレベッカ・ミンコフはレゾナンスが製造した商品の売上で6桁の利益を上げた。2年目は7桁台の売り上げを目標としている。
デジタル時代になって、ファッション企業が利用できるリソースやテクノロジーに新たな透明性がもたらされ、消費者は支持するブランドに対する要求や基準を高めるようになった。そして今度は、企業がプロセスを整理する戦略を練っている。またサステナビリティを中心とした取り組みや労働者の待遇についても簡単にアクセスできるようにしようとしている。こうした目標を達成するために、すでに確立しているシステムを再評価する中で、洗練されたオンデマンド製造のパートナーに解決策を見出そうとする企業が増えている。
レゾナンスは、2022年末までにさらに100のブランドとの契約を目指している。また、ほかにも同じ考えを持った企業が米国内に続々と誕生している。そのなかにはオンデマンドのニットウェアを専門とするエボルーション・セントルイス(Evolution St.Louis)などがある。
レゾナンスのこれまでのブランドの拡大はおもに口コミによるものだったが(ミンコフ氏とレニハン氏はコロンビア大学のパネルディスカッションで出会った)、1月にはマーケティングキャンペーンを開始する予定だ。ターゲットは大企業、中小企業、レガシー企業、そして個人のクリエイターだ。そのメッセージは同社のプラットフォームが可能にするP&L(損益分岐点)について見込み客を教育することに重点を置く。「我々のポイントは、ブランドは税引き前に20%のマージンを得るべきだということだ」とレニハン氏は言う。「もしそうでなければ、どのブランドもそうなのだが、我々に相談すべきだ」。
ブランドは経済的・環境的・社会的な価値を生む必要がある
しかし、ブランドがレゾナンスを利用する際には学習曲線があるように、レゾナンスも規模の拡大に伴って大きな変化を起こす必要があることを認識している。ミンコフ氏は、顧客の品質基準についてレゾナンスを「教育する」ことについて言及した。そしてレニハン氏は、現在手作業で行われているプロセスの自動化に投資していることを強調している。レゾナンスはドミニカ共和国にある工場だけでなく、9月にはニューヨークに国内初の縫製工場を開設した。まず縫製経験者には、同社独自の技術プラットフォームでトレーニングを行い、縫製の「職人技」的な部分を消す。彼らに生活賃金を支払うには、ブランドの収益性を維持するために「バリューチェーン全体の複雑な再構築」が必要だったとレニハン氏は述べている。
「我々は進化しているが、我々の目標は以前と同じく成功するブランドを実現することだ」と彼は言う。「ブランドは、経済的、環境的、社会的な価値を生み出す(必要がある)。そして、それらは測定可能でなければならないし、そうでなければ絵空事だ」。
業界の新たな方向性に取り組むミンコフの姿勢
いまのところ、レベッカ・ミンコフのオンデマンドビジネスは、主にワンピースを中心としたD2Cだ。しかしミンコフ氏は、同社のホールセールパートナーがこのビジネスに興味を示していると述べている。オンデマンド販売によって、同社はリスクを負うことなく多種多様なオプションをeコマースサイトに掲載できるようになったと彼は言う。「顧客が認めれば、次に進める」。
業界の方向性に正面から取り組むことは、レベッカ・ミンコフの長年にわたる仕事のやり方だ。たとえば、2016年には「いま見て、いま買う(see-now, buy-now)」というコレクションを先陣を切って提供している。その後フィッティングルームテクノロジーを即座に取り入れ、9月にはNFTのコレクションをリリースした。
レベッカ・ミンコフにしてみると、プロセスがより合理化されたとはいえ、レゾナンスが現在横行しているサプライチェーンの障害を完全に解消してくれるわけではない。原材料が不足しているため、顧客は注文してから商品を手にするまでに2〜3週間かかることがあり、これは通常の2倍のタイムラグとなる。しかしミンコフ氏が説明したように、これはもっと悪い状況になったかもしれないのだ。
「7月15日から11月1日まで操業を停止した(ベトナムの)我々のハンドバッグ工場とは違う」と彼は言う。「いまではかなりの余剰があるし、我々は多角化している」。
ブランドのサプライチェーンに透明性を与えるデジタルな「製品パスポート」が採用されつつある
マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)のシニアパートナーで、グローバル・アパレル・ファッション・アンド・ラグジュアリーグループのトップでもアヒム・ベルク氏は、マッキンゼーが12月2日に発表したステイト・オブ・ファッション・レポート(State of Fashion report)で「製品パスポート」が2022年のトレンドとしてトップ10に挙げられている理由を説明した。
製品パスポートがタイムリーな理由
「とくにトレーサビリティに関しては、個々の製品がストーリーを伝え、テクノロジーがそのストーリーをサポートするという段階に移行しつつある。そして、これはサステナビリティにとって非常に重要であり、より若い消費者が多くの情報を求めていることも我々は理解している……誰が作ったのかわからない状態であらゆるものがただ大量生産されるのではなく、テクノロジーのおかげでそれ以上のことができるようになった」。
パスポートへの(複雑な)道のり
「テクノロジーはまだあるべき姿に達していないが、それでも(ブランドは)スタートする必要がある。しかし(期待される)情報を提供するには、個々の製品に関する情報を手にしていなくてはならない。そしてそれはかなり困難だ。それはどのロットから来たものなのか、そのロットにはどんな糸や生地が使われているのか、その糸や生地はどこから来たのかなど、正確に知る必要があるからだ。かなり組織化・合理化され、とても透明性の高いプロセスを経ているのでない限り、パスポートに載せたい安全性や情報を提供することはできない。ネックラベルに記載されている以上の情報が必要なのだ。そしてもしそのテクノロジーを提供した場合、顧客はもっと詳細を理解したいと要求するようになるだろう。つまり、工場名は? 従業員の名前は? いつ製造されたものか?といった情報だ。こうした情報を包み隠さず開示すれば、人々はそれをチェックするだろう。そしてなにか間違っていることをしていると立証されたら、当然ながら批判が殺到することになる」。
ラグジュアリーブランドが関心を持つべきなのはなぜか
「10年前、我々がラグジュアリー企業とサステナビリティについて話し合ったとき、ブランド側の返答は『当社の顧客は私たちを信頼しているし、当社には優れた品質の優れた製品があり、優れた職人技を起用していることを顧客は期待している』というものだった。だが、世界は変わった。今日では、ラグジュアリーであるがゆえに、さらに多くの情報を提供する必要がある。なぜなら、そのプライスポイントで買い物をするなら、人はその製品がサステナブルであることを期待するからだ。また(ブランドが)それを自分に証明してくれることも期待するし、我々はそうした方向に向かっている。顧客は透明性やさらなる情報をを求めているので、(製品パスポート)によって顧客が戻ってくることを願う。そうした情報を提供することは、ブランドにとって他社との差別化を図る助けとなる」。
消費者が期待すること
「現在、我々はスタートアップ企業や中小企業(がこのテクノロジーを最大限に活用していること)を目にするにとどまっている。これらの企業が多い理由は、サプライチェーンの管理がより容易であり、新たな方法でそれを構築しているからだ。[報告書には、パンガイア(Pangaia)やリフォーメーション(Reformation)が含まれている]。彼らは必要なさまざまな手順を実行できている。しかし我々はいま、本当に大きなブランドが、自社製品の品揃えに関するより大きな側面のためにこれを活用してくれるのを待っている。(事業の)より小さな側面と管理可能な情報から始めるのがもっとも自然(な動き)だ。ブランドは顧客が本当に反応するかどうか、しばらく様子を見るだろう。我々はまだ試験段階にある。
ブランドにとって重要なのは、顧客との接点だ。だからもちろんブランドは(QRコードの)ユーザーを配信リストに載せる(機会を活かす)こともあるだろう。いまでは製品の登録や延長保証を受けるためにわざわざハガキに記入する人はいないが、そうしたことはすべて将来的には製品パスポートを通じて行われるようになる。最初のうちは、多くのQRコードが使われることはない。しかし、1、2割の利用者のためにもやる価値はある」。
[原文:Fashion Briefing: Inside Rebecca Minkoff’s swift pivot to 35% on-demand production]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)