今回のGLOSSYファッションブリーフィングでは、ワークウェアの台頭、オンラインファッションリテール、リボルブのマーケティングパワー、ブランド品リセールサービス「リバッグ」の実店舗の拡大などに注目し、コロナ禍を経て台頭してきたブランドの戦略を取り上げる。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
今回は、ワークウェアの台頭、リボルブ(Revolve)のマーケティングパワー、実店舗を拡大中のリバッグ(Rebag)について取り上げる。
最近、ファッションブランドがこのカテゴリーに殺到しているところをみると、ワークウェアは新たなアスレジャー(注釈:アスレチック(運動競技)とレジャー(余興)を組み合わせた造語)だ。
Advertisement
2022年秋のコレクションは、ワークウェアにインスパイアされたディテールやデスクワーク以外の仕事の代名詞ともいえるようなスタイルが、これまでのところかなり多くなっている。ニューヨークファッションウィークでは、ディオン・リー氏がコレクションのインスピレーションを建設業とし、ランウェイにワークブーツや作業エプロン、工具ベルト、ツールポケットなどのルックが多く登場した。ウラ・ジョンソン(Ulla Johnson)やティビ(Tibi)などのブランドは、丈夫なデニムを取り入れている。またアディアム(Adeam)のデザイナー前田華子氏は、カーゴポケットを付けた一連のスタイルに加えて、ワークパンツの多様な解釈を発表している。
「パンデミック以降、創造性と機能性のバランスがますます重要になってきている」と前田氏はGLOSSYに語った。「さまざまな季節やシーンに合わせて何通りものスタイリングができる、時代を感じさせないアイテムを顧客は求めている」。
ニットウェアで有名なザンコフ(Zankov)は、秋物のウォークスルーのラインナップにつなぎの作業服とカーゴパンツを取り入れており、デザイナーのヘンリー・ザンコフ氏は「シックな方法で実用的なことをやりたかった」と語っている。
もうテーラードスーツを着る人はいない
これを自然な流れと指摘するのは、買い物客の性格診断に基づくAI搭載ファッションアグリゲーターサイト、サイキ(Psykhe)の創設者でCEOのアナベル・マルドナド氏だ。「ワークウェアはアスレジャーからステップアップしたものだ」と彼女は言う。「もう少しフォーマルで落ち着いた感じがあるが、私たちが慣れ親しんできた気楽さも保っている。これはほとんど(ビジネスでの)仕事着を覆すような解釈だ。もうテーラードスーツを着る人はだれもいない」。
また、時代の不穏な雰囲気も反映されていると彼女は述べた。「ワークウェアといえば、私たちは有用性や生産性、作業を思い浮かべる。だが同時に、防護や生存といったことも連想する。なぜなら昔から多くのワークウェアが、機械や天候などから自分たちの身を守るという必要性から生まれているからだ。この2年間で私たちの種としての生存が初めて衝撃的な形で問われることになった。そのため防護と生存、つまりワークウェアの防護的な性質が大きく注目されるようになった」。
そして、ファッションブランドはその需要に応える準備ができている。
作業服や実用的なデザインにインスパイアされたルック
ファッションウィーク以外では、ファッション界のベテランであるジョシュ・グート氏とクリスティン・センテネラ氏のD2CラグジュアリーベーシックブランドのワードローブNYC(Wardrobe.NYC)が、12月にカーハートWIP(Carhartt WIP)とのカプセルコラボレーションをリリースした。カーハートのシグネチャーである厚手のキャンバス地が特徴のスタイルには、黒のつなぎの服やフライトジャケットが含まれている。そして先週、サステナビリティを重視するパンガイア(Pangaia)は、オーガニック生地と雨で育ったヘンプで作られたワークウェアジャケットと「カーペンターパンツ」からなる、デニムに特化した3番目のコレクションを発表した。これと足並みをあわせるようにジースター・ロゥ(G-Star Raw)は、実験的なエクスクルーシブ(Exclusives)コレクションの最新版を発表、日本のワークウェアと日本の軍服にインスパイアされたスタイルを披露している。
しかし、このトレンドをもっとも顕著に表現しているのは、ストリートウェアの巨匠たちが最近ローンチして大きな話題となったものだろう。アーティスティック・ディレクターのNIGO氏が1月にパリで発表したケンゾー(Kenzo)のファーストコレクションは、「非実用的な作業服」がテーマ。つなぎにインスパイアされたジャンプスーツ、エプロントップ、セルビッジルックのデニム、フィールドキャップなどが含まれている。
そしてもちろん、先月発表されたイェ氏とデムナ氏によるイージーギャップ・エンジニアド・バイ・バレンシアガ (Yeezy Gap Engineered by Balenciaga)のコレクションが2月23日に販売開始となったのも忘れてはならない。220ドル(約2万5000円)のジーンズと240ドル(約2万7700円)のパーカーを含む8つのスタイルがYeezyGap.comとFarfetch.comで発売され、すべてのスタイルのほとんどのサイズが売り切れた。GAPはコメントやさらなる販売データの提供は拒否している。
プレスリリースによると、このコレクションは「実用的なデザインに対するイェ氏とデムナ氏の共有ビジョンというレンズを通して翻訳された、時代を超えたシルエット」を反映しているとのこと。
重なり合うストリートウェアとワークウェア
ストリートウェアとワークウェアの世界は、近年ますますオーバーラップしてきている。ワークウェアのサプライヤーであるデイヴスニューヨーク(Dave’s New York)を週末に訪れる客層を見れば、そのクロスオーバーは明らかだ。ノードストローム(Nordstrom)のメンズウェア・ディレクターであるジアン・デレオン氏など、ストリートウェアの愛好家たちが常連客となっている。2021年5月には、スニーカー販売店のスニーカーズエンスタッフ(Sneakersnstuff)が「耐久性のあるアイテム」と「丈夫な衣服」に着目したSNSワークウェア(SNS Workwear)をローンチしている。2006年にローンチした英国拠点のストリートウェア小売店ワーキングクラスヒーローズ(Working Class Heroes)は、ディッキーズ(Dickies)からステューシー(Stussy)にいたるまでのブランドを販売している。
このように、このカテゴリーを支えているほかの要因の有無を問わず、間違いなくファッションブランドはこのカテゴリーに参入していくことになるだろう。
「『ロゴを大きく宣伝しよう』『アスレジャーを作ろう』『高価なスニーカーを作ろう』などなんでもよいが、そこに関わっているようにみせるために誰もが特定のコードをコピーする」とマルドナルド氏は言う。「これはまだあまり気づかれていない。だから『このつなぎの作業服に飛びつこう』という感じなのだ」。
リボルブ(Revolve)の拡大しつづけるマーケティングアクティベーションの計画は確実に効果をもたらしている
2月22日に発表された2021年第4四半期決算をみると、オンラインファッションリテールのリボルブグループ(Revolve Group)は、小売業とメディアを融合させた企業のように読める。
かつては旅行に行ったり遊び歩いたりしていた私たちだが、そうした行動はパンデミックのためにいまだに制限されている。コーチェラ(Coachella)と隣接する、同ブランドのシグネチャーでもあるリボルブフェスティバル(Revolve Festival)は2年連続でキャンセルされた。それでもリボルブは、外出用のファッションを購入する女性や多くのインフルエンサーを起用した盛大な独自イベントに支えられ、絶頂期を迎えている。
リボルブの第4四半期の収益は2億4000万ドル(約277億3300万円)に達し、前年同期比で70%、2019年同期比で63%の上昇となった。また、第4四半期としては過去最高の2900万ドル(約33億5000万円)の収益性を記録、アクティブな顧客数は前年同期比25%増となっている。
要するに通常の手段を取らなくても、リボルブではブランドの声を広め、消費者に買い物をする理由を与える方法を多々見出しているのだ。
アクティベーションが功を奏して勢いが継続
「すべてのシリンダーを駆使してものごとを動かしている。我々はV12エンジンであり、たくさんのシリンダーがある」と話すのは、リボルブの共同創業者で共同CEOのマイケル・メンテ氏だ。
そして今後も成長の機会には事欠かない。ひとつには「世界はまだ開けている」からだと、リボルブの共同創業者で共同CEOのマイク・カラニコラス氏は述べた。さらに、女性のインフルエンサー系以外にも、まだ同社をよく知らない買い物客はたくさんいる。
「ノードストローム(Nordstrom)のような伝説(的な小売企業)と我々を比較すると、そうした小売企業のブランド認知度は桁違いに高い」メンテ氏は指摘した。
リボルブはそこに追いつこうという使命を持っている。
リボルブの顧客ベースが拡大したのは、第3四半期に実施したマーケティングのアクティベーションの勢いが第4四半期まで続いたことが一因だとカラニコラス氏は述べている。そこには9月のニューヨークファッションウィークでのふたつのアクティベーションが含まれている。ひとつはデュンダス(Dundas)とのコラボレーションによる初のNYFWランウェイショーで、もうひとつは有名人が多数参加した、リボルブ・ギャラリーという実店舗でのショッピング体験である。ハッシュタグ#RevolveGalleryは、790万ドル(約9億1300万円)のメディアインパクトバリューをもたらした。
同じ月、リボルブグループのラグジュアリーブランドであるFWRDはケンダル・ジェンナー氏をクリエイティブディレクターに起用し、サイトトラフィックやアプリのダウンロード数などのエンゲージメントを促進した。FWRDの売上は、その後の3カ月間で前年比83%増となった。
また第4四半期には、リボルブはブランドアンバサダーのアフィリエイトプログラムをローンチ、既製服以外の商品カテゴリーの開発および開拓をさらに進めている。
アンバサダープログラムと美容ビジネスの拡大
リボルブは現在、開始して3カ月となるアンバサダープログラムをサポートする専任スタッフを雇用しており、軌道に乗った後は「積極的に拡大していく」予定だとメンテ氏は述べている。これまでのところわかっているのは、アンバサダーは現金ではなくストアクレジットとして報酬を受け取ることを選択するケースが圧倒的に多いということだ。「アンバサダーがより多く販売し、より多くの服を手に入れ、さらに販売し、そして我々の世界に深くハマっていくという、フライホイール効果(小さな効果が積み重なって大きな成長につながる)となっている」。
メンテ氏は、このプログラムを活気づけるのに必要なテクノロジーを自社で保有することが、サードパーティーと共同で働くよりも有利であることが証明されていると付け加えた。「データへの完全なアクセスがあるので、何が効果的はわかっている。そしてアンバサダーがやっていることを微調整して向上させるために、アンバサダーたちと協力することもできる」。
リボルブのリーチをさらに拡大するには、パンデミックの最中に「大規模な急増」をみせた美容ビジネスを引き続き成長させることが優先事項だとメンテ氏は言う。またもうひとつの目的は、FWRDをリボルブの既存顧客にクロスマーケティングし、ブランドとして確立することだ。
「我々の顧客の大半が高価なハンドバッグやラグジュアリーな製品を購入しているのはわかっているが、我々からはまだ買い物をしていないこともわかっている」とメンテ氏は述べた。
今後はメンズビジネスにも期待
現在、リボルブはFWRDブランドの下にあるメンズビジネスに投資している。ファッションインフルエンサーではなく、ミュージシャンやアスリートなど影響力のある男性とつながって情報を発信している。「何年か先の未来では、メンズは我々のビジネスでもっと大きな位置を占めるようになる」とメンテ氏は言う。
また、インクルーシブなサイズ展開も視野に入れている。メンテ氏によれば、これを今後数カ月で推進するための契約が「署名・捺印」されている。
リボルブは今期すでに、スーパーボウル・サンデーに先立つ二晩の人気イベントを共催、女性と男性の両方をターゲットにしたそのイベントは、ジャスティン・ビーバー氏とドレイク氏によるパフォーマンスとともにブランドアクティベーションが目玉だった。
コスト効率の高いアクティベーションを実施
3月上旬には、一般消費者を歓迎する初の店舗をロサンゼルスのメルローズにオープンする予定である。
リボルブソーシャルクラブ(Revolve Social Club)というこの実店舗は、メンテ氏によるとリボルブがパンデミック前に所有していた同名の実店舗の「2.0」バージョンだ。デザイナーやインフルエンサー、親しい人々との親密なイベントのみに限定するのではなく、一般消費者にも開放してリボルブのコミュニティと関わり、リボルブのライフスタイルを完全に体験できるようにする。服を販売するほかに、カフェやバーも併設され、ワークアウトやビューティトリートメント、パーティに参加する機会もビジターに提供する。
リボルブのニューヨークファッションウィークのイベントと同様に、メンテ氏いわく、リボルブソーシャルクラブはグローバルなアクティベーションのための実験場だ。少なくとも「数カ月間」はロサンゼルスでオープンするという。
来期は会社の成長に合わせて「より大きく、よりよく、さらに進化した」バージョンのリボルブフェスティバルのデビューを記念するとメンテ氏は話す。リボルブがコスト効率の高い方法でこうしたアクティベーションを実施することについて、以前よりも賢くなったと彼は繰り返し指摘した。
2021年の総売上高の20%を占めるリボルブの自社ブランドの成功にもかかわらず、サードパーティブランドは今後もリボルブのビジネスにとって重要であり、その逆もまた同様である、とメンテ氏は言う。彼はまた、リボルブのパートナーブランドの広告戦略に対してAppleのiOSの変更が引き起こした最近の課題も指摘した。その結果、各ブランドはリボルブとその多様なマーケティング手法にますます依存するようになっている。
「リボルブの核となるのは、我々の(商品の)品揃えだ」とメンテ氏は言う。「我々は、世界中の独立したデザイナーのアイテムをすばらしい品揃えで販売している」。
リバッグの創業者チャールズ・ゴラ氏に聞く、店舗開設に関する5つの質問
ラグジュアリーハンドバッグのリセールカンパニーであるリバッグ(Rebag)は、2月24日、マイアミのダウンタウンにあるショッピングモール、ブリッケルシティセンター(Brickell City Centre)に9店舗目となる実店舗をオープンした。これは同社が12月に3300万ドル(約38億1300万円)のシリーズE資金調達ラウンドを発表し、総資金額が1億100万ドル(約116億7000万円)に達したことを受けての動きである。また昨年末には、コネチカット州グリニッジとビバリーヒルズにも店舗をオープンしている。
創業者でCEOのチャールズ・ゴラ氏が、現在の店舗へのアプローチと、2022年にリバッグの実店舗をさらに拡大する計画について詳しく述べた。
ーーリバッグでは、顧客が店舗に足を運ぶ「価値」は何だと考えているか?
我々の顧客は、投資用のアイテムを店頭で実際に見て触って、試すことを好む場合が多い。各店舗の品揃えは、地元の店舗やオンラインショップの利用者の好みや行動パターンに基づいている。さらに3万点以上のアクセサリーの在庫を買い物客に案内したり、ほかの場所にある商品を確保したりするためのスタイリストも常駐している。
販売や下取りに興味のある人にとって、我々の店舗は便利なドロップオフの場所であり、売り手には(当社)独自の前払いのオファーというメリットがある。さらに、トレード・バイ・リバッグ(Trade by Rebag)という、アイテムの購入と売却を一度に一回で行うことができるプログラムも利用できる。
ーー最近、店舗にセルフサービスのクレアコーナー(Clair Corner)が追加されたが、これについて教えてほしい。反響はあるか?
顧客が売りたい、あるいは下取りしてほしいアイテムを持ってきて、クレアキオスクのカメラにかざすと、すぐにオファーが届く。初めて売る人や取引する人にとって特に便利で、顧客からも「使いたい」とかなり好評だ。
ーー今年はさらに何店舗くらいオープンする予定か、また会社としてオンラインと店舗販売の理想的なバランスとはどの程度か?
今年、米国内の主要なラグジュアリー市場にリバッグの店舗を数店舗オープンする予定だが、その場所を決定するにあたっては、顧客データに大きく依存している。
リバッグの売上は、店頭が約15%、オンラインが約85%だ。我々は実店舗とオンラインの両方で売上を拡大することを目標としており、前者は便利でサービス重視の、ブランドへのアクセスポイントとして、後者は店舗が近くにない顧客やオンラインショッピングを好む顧客のための代替手段としての役割がある。
ーーパンデミックによるリセールブームの背景には何があるのか、またリバッグではそれをどのように展開に生かしたか。
この2年間、消費者はこれまで体験のために蓄えていた可処分所得をラグジュアリー品の購入、特にシャネル(Chanel)のクラシックフラップ(Classic Flap)ハンドバッグやロレックス(Rolex)の時計といった投資アイテムに活用してきた。多くのラグジュアリーデザインのメゾンが値上げを行うだけでなく、我々のような循環型ビジネスモデルなら回避できるサプライチェーンの問題も経験しているなかで、当社はこのような誰もが欲しがるアクセサリーを提供している確実な存在だ。リバッグは、パンデミックが始まって以降、ビジネスを3倍近くまで拡大している。
ーーつまりインフレがリセールにとって有利に働いているということか?
シャネルやルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)など、最近値上げを発表したブランドのさまざまなアクセサリーを手に入れようと探している買い物客は、(リセールなら)より手に入れやすい価格帯で確保できることが多い。また、人気商品の売却や下取りに興味がある顧客には、我々が需要の増加に対応するようにしているため、より高い見積価格から利益を得ることができるだろう。
[原文:Fashion Briefing: In athleisure’s wake, utilitarian workwear emerges as the trend of the moment]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)